セレナが王子をだましている
「セレナが白く光らないのでしたら、アレクシオ王子を救ったのは、彼女ではなくて別の人だったのではないですか?」
「それも少しは考えましたが、ありえないと思います。同世代の女性ではセレナより優れた魔法使いなど、国中どこを探してもおりませんので」
王子はそう述べてから、予想外の言葉を付け足した。
「あと、あれほど可憐で純真なセレナが、私を騙しているわけなどありえませんし」
私は絶句した。可憐、純真……。
先ほどもセレナは私を睨みつけこう言ったのだ。
「あまり調子に乗っていると、痛い目にあいますわよ」
可憐で純真な女性が言えるような言葉ではない。
前から気づいてはいたが、アレクシオ王子は女性を見る目が全くないようだ。
「ですからアリアさんに聞きたいのです。聖女セレナが、なぜあの時に限って体から白い光を発していたのかを。あなたなら、ご存知ではないかと思いまして」
だめだ、王子の目を覚まさせてあげないと。
はっきりと言えばいいのだろうか。
セレナではなく、私が王子を救ったのだと。
でも、そんなことを言った瞬間に、私の年齢がバレてしまう。そして変装していることも……。
身バレの先に待っていることといえば、言わずもがな斬首刑である。
だからといって、このまま見過ごしておける話でもない。
推しの幸せは、私の幸せなのだから。
「言いにくいことですが、王子はセレナに騙されています」
「騙されている? セレナに限ってそんなことありえません。逆にアリアさんは、なぜ私が騙されていると思うのですか」
「それは……、私の知り合いに、……いるからです、魔の森で王子を救った魔法使いが」
「なんですって! 知り合いに私を救った魔法使いが!」
「はい。彼女は今、隣国のネリ公国で暮らしています。だから王子は今まで見つけ出すことができなかったのです」
「その方は、なんというお名前なのですか?」
「名前は……、忘れました」
「え?」
また、ネリ公国なんかを出して、嘘をついてしまった。
けれど、私の嘘とセレナの嘘は次元が違う。
セレナの嘘は、許しておけない部類のものだ。
気づくと私は、こんな宣言をしてしまっていた。
「とにかくアレクシオ王子は騙されているのです! 今から、王子の前でセレナの嘘を暴いてみせます!」
いても立ってもいられなくなった私は、ベンチから立ち上がるとそのまま舞踏会場へと向かった。
セレナを王子の元へ連れてきて、この場で真実を明らかにしようと思ったのだ。
舞踏会場に戻った私は、すぐさまセレナの姿を探した。
すると、会場の中央で、5人ほどの令嬢を従え話し込んでいる彼女を見つけた。
近づくとこんな会話が聞こえてきた。
「あのドレス、身の程知らずもいいところだわ」
「空気が読めないっていうのは、ああいう女のことを……」
全部、私のことを話しているのだろう。
令嬢たちが、私の姿を横目で確認すると、ひそひそ話の声が一段と大きくなってきた。
わざと聞こえるように悪口を言っている……。
「年増なくせに、王子に色目を使うなんて……」
言い返したいことは山ほどあったが、ここでカッとなったら相手の思うつぼだ。
私の目的は、推しの目を覚まさせること。
「聖女セレナ様、お話があります」
「まあ、聖女様に気軽に話しかけるなんて、礼儀知らずもいいところね」
取り巻きの一人が見下すように言ってきた。
「あなたに用があるのではないの! 黙っていてくれませんか!」
取り巻きは、ぎょっと目を見開いて黙ってしまった。
「話って何かしら?」
回りくどい言い方はしたくなかった。
「セレナ様がアレクシオ王子を騙してるのではないかと思いまして、確かめにまいりました」
「失礼すぎてびっくりしてしまいましたわ。いったいなんのことかしら」
「アレクシオ王子を魔の森で救った件です」
「それがどうかしたの?」
「救ったなんて、嘘ですよね」
セレナの顔がこわばった。そして私を睨みつけてきた。
「ずいぶん唐突な話ね。名誉毀損で訴えられたいのね」
平静なふりをしているが、セレナは間違いなく動揺していた。
ただ、相手は我が国の聖女である。今の私より、ずっと強大な権力を持ち合わせている。
一歩間違えたら、ただでは済まない。
もしも捕らえられようものなら、もちろん変装もバレて……。
いろいろと悪いことが頭に浮かんできたが、ここまで来て引き下がるわけにもいかなかった。
「セレナ様、私と一緒にアレクシオ王子のもとへ来てくれませんか。この件は、そこで改めてお話ししたいのですが」
「ばかばかしい。どうして私が、あなたの指図を受けなければならないの」
「逃げるおつもりですか」
「……、アリアさん、あなたはご自分のことが全くわかっていないようですね。私が王子に頼めば、あなたなど今すぐ牢屋へ放り込むこともできるのよ」
「……」
「まあいいわ。王子の元へ行きましょう。私もアリアさんの秘密を王子に知らせたいと思っていたところだから」
セレナはそう言うと、不敵な笑みを浮かべたのだった。




