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婚約破棄そして毒殺

ハッピーエンド保証です。よろしくお願いします。

「あら面白い」


宮廷の控え室で、時間つぶしにメイク術の本を読んでいた時、思わず声が出てしまった。

というのも、そこに書かれている内容にびっくりしてしまったからだ。

そこには、ちょっと変わったメイク術が紹介されていた。

普通メイクは、美しく、若々しく見せるために行うものだ。

けれどこの本では、なぜか年を老けさせるメイク術が紹介されていたのだ。


「いったい何のためにこんなこと?」


本には最後にこう記されていた。

このメイクアップを行い、メガネをつけ髪色を変えれば、完全に別人に変装することも可能ですと。


「今度の仮装パーティーで試してみようかしら」


そう思いながら私が本を閉じた時、執事のオズワルドが控え室に姿を見せた。


「アメリア様、そろそろお時間です」


「分かったわ」


私はオズワルドに促され、王宮広間へと向かった。

赤い絨毯が敷かれた階段を上っている時、嫌なことを思い出した。

それは昨日の夢だった。

いや、夢というにはあまりにも詳細で現実感のあるものだった。

夢の中で私は、日本という異世界の国で暮らしており、周りには見慣れないものがたくさんあった。

スマホ、テレビ、パソコン、そして乙女小説。

夢の中の私は、この乙女小説にはまっており、今熱心に読んでいるものは、『聖女伝説』という恋愛ファンタジー物だ。


そして、夢の途中で気がついた。これは夢ではないと。


実際私は、日本で暮らすしがない会社員で、彼氏もおらず、ベッドで横になって大好きな乙女小説を読み返していたところ、この世界、つまりは『聖女伝説』の世界に転生してしまったのだと。


なぜか私は、小説の世界にいる……。


ただ、私の頭の中ではこの事実を、まだ完全には受け入れられていない。いや、受け入れたくない自分がいた。


なぜなら、『聖女伝説』の今後の展開が、私、つまりアメリア・グランデにとって、あまりにも恐ろしい内容になっていたからだ。

小説の通りなら、私は死刑を宣告され、民衆の前で斬首刑に処せられてしまうのだ。


「ばかばかしい」


私はなんとか昨日の悪夢を振り払いながら、宮廷晩餐会場へと足を踏み入れた。


 ※ ※ ※


晩餐会場では、ドレスで着飾った貴族令嬢と、タキシードに身を包んだご令息たちが話に花を咲かせていた。


そんな中、私の婚約者であるアレクシオ第一王子が姿を見せた。

爽やかなイケメン王子の登場に場内の女性たちの視線が一斉に彼を捉えた。

当然、私もアレクシオ王子の姿に釘付けとなった。

私にとってアレクシオ王子は、憧れであり、理想であり、尊い存在でもあり……。つまり、アレクシオ王子は、私の推しなのだ。そして私は、公爵令嬢という特権をフルに活用し、数多のライバルたちを蹴散らしながら、今こうして婚約者の座を手に入れたのだった。


そんなアレクシオ王子だが、様子がいつもと違った。

なぜかアレクシオ王子のさわやかな顔が、今日に関しては眉間にしわ寄せた険しいものとなっていたのだ。

そして信じられないことなのだが、アレクシオ王子の横には、真っ赤なドレスを着た聖女セレナが寄り添うように立っていた。

本来なら、王子の隣には婚約者である私が立つはずなのに。


怒りとともに、別の思いが湧いてくる。


やっぱりそうなのだ。


アレクシオ王子と聖女セレナ、晩餐会場での二人が並ぶ姿は、まさに『聖女伝説』で読んだ小説の内容そのままだ。

ということはこの後……。


険しい顔をしたアレクシア王子は足を早め、私の前で立ち止まった。王子の後ろにはセレナも隠れるようにして立っていた。

しばらくの間、王子は私を睨みつけた後、こう宣言した。


「グランデ公爵家のアメリアに告ぐ、今この時を持って君との婚約は破棄させてもらう」


「な、なぜですか」


「なぜだと? 白々しいことを言うものだな。君の悪事はここにいる聖女セレナから全て聞いている。君はその地位を利用して、セレナにひどいいじめを行っていたそうじゃないか」


「そんな」


「君のいじめが原因で、セレナの聖なる力が弱まっているのだぞ。聖なる力は精神的苦痛で減少するのを知っているな」


「それは……」


「聖なる力が弱まれば、この国の安定が損なわれてしまう。君はそんなことも分かっていないのか」


「……」


色々言いたいことはあったが、そんな暇はなかった。

なぜなら、この後の展開も小説で読んで知っていたからだ。


とりあえず、逃げなければいけない。


そう思った私は、後ずさりを始めた。

そして執事のオズワルドを見つけると、彼にこう声をかけた。


「今すぐ逃げるわよ」


「逃げる?」

オズワルドはポカンとした顔をしているが、説明は後でしたらいい。


「さあ走るわよ!」


私はオズワルドを連れて晩餐会場の出口へ向かい駆け出した。

それはもう本気の走りで、両手でスカートの裾を持ち上げながらの逃走だった。


「あっ!」


逃げ出す私の背中から、セレナの短い叫び声が聞こえた。


もしかすると会場にいる人たちは、私が婚約破棄の言葉に傷つき、会場から逃げ出したと思っているのかもしれない。

けれど私はそんな理由で会場を飛び出したのではない。もっと深刻な事情があったのだ。


「どうされたのですか。なぜ逃げるのかご説明していただけますか」


城の外に出て、荒い呼吸を整えている時に、オズワルドがそう聞いてきた。


「この後、私たちは牢屋に入れられてしまう運命だったからよ」


「牢屋ですか? どうして私たちが?」


「ミランダ王妃殺害の犯人として捕まるからよ」


「王妃を殺害? 誰がですか?」


「私たちがよ」


「何を仰っているのか、理解できません。だいたい、なぜ私たちが王妃を殺害しなければならないのですか?」


「それは……、わからないわ」


「理由もなく王妃を殺害するのですか?」


「理由は……、でも、なぜか私たちは王妃を殺すの。毒を盛って殺してしまうのよ。そして牢屋に入れられて最後は斬首刑になるの」


「お嬢様……」


「何?」


「病院に行きましょう。今すぐにです」


「どうして?」


「お嬢様は婚約破棄されたことで気が動転してしまい、変な妄想に取り憑かれてしまったのです。今すぐ専門の医者に診てもらいましょう」


「私は正気よ!」


そんな話をしている時だった。

城から騎兵隊が現れ、街中を駆け回りながら大声をあげていた。


「どなたか毒に詳しい者はいないか? 解毒する術を習得している者はいないか?」


町人が不思議そうに騎兵隊員に問いかけた。


「何かあったのですか?」


「ミランダ王妃の食事に毒が混入していた。急ぎだ! 解毒魔法を使える者はいるか!」


その言葉で私は確信した。

やはり『聖女伝説』に書かれていた通りのことが起こっていると。


騎兵隊員は続けてこう言った。


「犯人は元婚約者のアメリアだ。王妃に毒を盛った後、逃げ去っている。不審な女を見つけたら、すぐに通報するように!」


これもまた、小説の通り、犯人は私にされてしまっている。

このままでは私は騎士団に捕らえられ、投獄されてしまう運命だ。


隣にいたオズワルドは、目を見開き口を半開きにしながら私の顔をじっと見つめている。

私が言っていたこと、つまり王妃殺しの犯人にされていることが、単なる妄想ではなかったことに気づいたのだろう。


「どう、分かったでしょ! 逃げるわよ」


周囲に聞こえないように、私はそっとオズワルドにささやいた。

そして足音を忍ばせながら、騎士団から顔を背け、この場を立ち去ったのだった。

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