ハッピーエンド
諸注意
当作品では精神的に辛い描写や、自傷描写を含んでおります。苦手な方はそっと閉じておいてください。また、当作品に関連する心理的現象につきましては、作者は一切の責任を負いかねませんのでご了承ください。
「……。」
何事もなく怠けているときが、なぜか安心する。私は、つくづく死にたいと思う。私は、何もできないクズだ。
どうして生きているのか。瞳を閉じると、涙が出る。
……自己紹介? する必要ある? まあ、やってほしいなら、やってあげる。
私は立川琴葉。十九歳。でも、覚えてもらう必要はない。なぜなら、明日、死ぬからだ。私の人生に意味なんてものはない。とっとと死んだほうが、私のためであり、世界のためでもある。迷いはない。計画はある。台所にナイフがある。以上だ。
もちろん、飛び降りや電車に飛び込む方法も考えたが、どれも他人の迷惑になる。もう、どうでもいいけど。最後の夕食にでもするか。……何も食べる気はないけど。
洗面台に向かう。ちなみに、鏡は私が割った。これでもう、自分の醜い顔を見ずに済むと考えると、少しだけ気が楽になった。私にとって、鏡もカメラも大嫌いだ。スマホに残っている写真も、ほんの数枚。それもすべて、パスワードのスクショだけ。
それなのに、割れてもなお私を映し続ける鏡の破片が、憎らしくて仕方がない。
また布団に入る。何もする気はない。スマホはネット契約すらしていない、数年前の古いもの。でも、私には友達がいないから、それで十分だった。
……でも、今日ばかりは、誰かと連絡しようと思った。
数日前、旧友が私を心配してメッセージをくれていた。
『しっかりご飯、食べてるか?』
『困ってることないか?』
本心では、私なんかどうでもいいと思っているだろう。それでいい。こんな社会不適合者より、もっと価値のある誰かを気遣ったほうがいい。……そんなことを言っても、きっと伝わらないだろうけど。
私は適当にメールを返した。
窓の外では、いつの間にか雨が降り出していた。
──もう、寝よう。
布団の中に入ると、涙が溢れた。
どうして、私なんて存在してるの?
何のために生まれたの?
何がしたいの?
どうして、人が普通にできることが、私にはできないの?
分からない。
分からない。
分からない。
分からない。
分かりたくもない。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい……!
早く、明日になってよ……。
翌朝──。
昨日の雨が嘘のように、眩しい光が部屋に差し込んでいた。
ついに、今日、死ねるんだね。
台所へ向かい、ナイフを取り出す。この日のために買った、二千円の包丁。もちろん新品だ。なかなか切れ味が良さそうだ。
右手でナイフを握り、左手首を裏返す。そして、バイオリンの弓を滑らせるように、刃を肌の上に下ろす。
「……!」
痛みが走る。手から赤い液体が溢れ出す。すごい切れ味だ。その液体が、足元にぽたぽたと落ちていく。
次は、腹。腹部大動脈……そこを狙う。
手の震えを抑えながら、刃先をゆっくりと自分に向ける。
「……!」
痛い。
腹のあたりが、じんわりと温かくなる。これで放置すれば、大量出血で死ねるはず。あとは、ただ耐えるだけ。
目眩がする。
自分の血が、どんどん流れていくのがわかる。
立っていられず、地面に崩れ落ちた。
頬に、髪に、肩に、腰に……温かいものを感じる。
視界が、徐々にぼやけていく。
──これが、私の望んでいた『死』というものですか。
今、私は人生でたった一つの夢を叶えようとしている。
幸せです。
私は、瞳を閉じた。
ゆっくりと、幸せの余韻に浸る。
──こうして、世界は浄化された。
Happy end
Made by 望月霽衣