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第1話「オランダにて」その⑤

「クソッ!」

 彼はこの施設から逃げようとするも、彼が行く先行く先外につながる扉は(ことごと)くすべて閉じてしまっていた。この窮地にイライラが募り、ついに扉を殴りつけた。ここは駐車場の付近にある場所で、磨かれた大理石の床に多くの柱で構成された広い空間に、応接間で使われそうなソファやテーブルが整然と置かれていた。誰にも管理されなくなり、放棄された今でも埃一つ無いほどに綺麗になっており、施設内では一番清潔感があった。受付があったり案内板が見られるなど、どうやらここはおそらくエントランスロビーのようであり、そしてシュバルツの前にあるこの扉の奥の階段から上がっていけば、おそらく地上に出られるだろうということはシュバルツは分かっていた。

 (扉が全てしまっていやがる。ならこの扉を無理やりぶち壊すしか無いか…?)

 

 そういう思案を出していると、急に後ろから大きな足音がこっちに迫ってきた。それを聞き、シュバルツは後ろを振り返る。

 「そこまでだ!」

 さっきまで上の層で戦いを繰り広げていた相手、リアがついに彼に追いついたのである。

「ふん。お前なんかと相手している暇は無い。俺は忙しいんでね。」

「そのドアは電子ロックがされてるんでね…。忙しくても私と戦うしか選択肢はないんだよ。諦めろ。」

 (電子ロック?なぜそんなことを知っているんだ?)

 一つの不可解な点が彼の中で現れるものの、こうなるとシュバルツも彼女と戦うしかないことを理解し、臨戦態勢に入る。

「そんなに死にたいなら仕方がない…。お前がこの俺に勝てるとでも本気で思ってるのか?」

「私は強いよ。()()()()()()

「―っ!」

 今まで冷静だったシュバルツがこの戦いで初めて怒りを感じた。彼のプライドは彼女のこの発言を許すことが出来なかった。そして次第にこのガキの鼻をへし折ってやりたいという思いが彼の中で膨れ上がっていった。

(絶対殺す!)

 

 すぐに懐からマシンガンを取り出し狙い撃つが、リアはすぐに柱に隠れる。リアが隠れている柱に弾幕を張るが、結局無駄に終わりマシンガンを撃ち切ってしまった。

リアは推測で影に隠れながら、シュバルツの居た位置に拳銃を連射した。しかしシュバルツはすでにこの場所から離れており、リアはチィッ、と舌打ちをしながら銃をリロードした。シュバルツ別の箇所から弾痕は全てある場所に集中しているのを目撃し恐怖を覚えた。

 (嘘だろ…?俺の急所を正確に捉えていやがる…。すぐに動いていなければ死んでいたのか…。これはヤツの能力か?だとしたら相当に危険な能力だな、これは)

 シュバルツは彼女の能力を推測し、この危険な命中精度から逃れるすべは、拳銃を奪い取るしかないと考えた。

「!?」

 その施設の警報音と、扉という扉に鋼鉄製のシャッターが唐突に閉じ始めた。その音は激しくフロア一面に鳴り響き、流石のシュバルツも動揺を隠すことが出来なかった。しかし、リアの動きが鈍かったためになんとか彼女のターンが回ってくる前に身を潜める事ができた。

(ヤツの反応が遅かった…?もしかして、この状況と能力に何か関連があるのか?)

 確かに先ほど、ドアに電子ロックをかけていることを何故かリアは知っていた。施設にある程度精通している可能性はあったが、彼女達が電気系統まで把握しているとは思えなかった。そこまで彼女達WFUが知っているのであれば、危険を察知してシュバルツも麻薬組織もこの場所を取引場所として指定することはなかったからである。

  シュバルツはあえてこの危険な状況で柱から飛び出した。リアは一体何をしているのかどうしても確認しておきたかったためである。リスクのある行動であったが、リアにとっては予想外だったらしく結果的に実を結んだ。柱からシュバルツはリア上の警報に手を向けている行動を目撃する。その瞬間その警報器から耳障りな異音が耳が痛くなりそうなほどに大音量で流れ始める。彼はついに彼女の能力を見出すことに成功した。―彼女の能力は機械を自在に操る能力だ。その能力を使って麻薬組織との取引現場を発見したんだ。シュバルツはそう確信したとき、リアはようやく彼に観察されていた事に気づく。拳銃を向けてくる前にシュバルツは付近の柱に隠れた。そして収穫物を得て、新たな計算式の中で戦術を組み直し始めた。しかし、ここでリアの波状攻撃が襲いかかってきた。彼が今撃ってこないことをいいことに、別ルートから近づいてきて何発も狙ってきた。そこだと射線(※)に入ってしまい、狙われる可能性があったためにすぐさま隠れ直す。なんとか体に穴が空くことは回避できたが、弾痕は彼の頭に集中していた。

(このガキ…!本当に能力を使わずにこの命中精度を実現できているのか?全く信じられん)

 一度一息つこうかと思った瞬間急にロビー全体から警報音が再び鳴り響き、そして別から謎の放出音が聞こえてくる。

(何だ…一体なんなんだ…!)

 

 この音に警戒して物陰から出ようとした瞬間、リアがナイフを持って襲いかかってきた。シュバルツはなんとか回避しようとするものの、距離を詰められる前に彼女から何かが投げつけられ、それが勢いよく足に当たる。シュバルツはそれが何か確認すると、それはただの石ころであった。足に急に鈍痛がやってくるものの、痛みに対処している暇もなく、隙を作らずにリアのナイフ捌きをなんとか避け続け、そして彼女の手を掴むことができたがリアが抵抗しないはずもなく、取っ組み合いの姿勢となった。リアはこの組み合いを拒否するために、無理やり振りほどくものの、それがようやく生まれた彼女の一瞬の隙であった。それを狙ってそのナイフを奪い取ろうとしたとき、右手に持っていた拳銃を一瞬で持ち、シュバルツの方へ銃口を向ける。

(素早く構え直したのか!これはマズい!)

 すぐにリアの足元を右足で薙ぎ払い、彼女のバランスを崩すことに成功する。そのままリアは倒れ、その間にナイフを手放してしまう。

「しまった…!」

 ナイフはあらぬ場所へ飛んでいき、そのまま姿が見えなくなってしまった。拳銃はなんとか持ったままであったが、すぐにシュバルツから離れようとして銃を構え直そうとしたとき、シュバルツに持った腕を殴られ、拳銃も落とされてしまった。シュバルツは拳銃の所有権を自分のものにし、ニヤリと笑う。

「子供にこんな物騒なもんは必要ないな…。」

  シュバルツは奪った拳銃のマガジンを取り出し、薬室(※1)に入っている銃弾をスライドして排莢しようとした瞬間、リアが素早く体当たりし、転倒させてなんとか妨害する。彼女の拳銃は離れた場所に飛んだためにすかさず取りに行った。シュバルツは冷静に姿勢を直し、リアに向けてリボルバーピストルを全弾発射するが、予想よりも彼女は素早く近くの柱に隠れたために当たることは無かった。

 シュバルツはリアの間近にある柱に隠れることに成功する。しかし再び膠着する。二人共もう武器は殆ど使い果たしており、リアは一発の銃弾が込められた拳銃、シュバルツはナイフしか無かったためであった。その間にシュバルツはリアの行動を一つ一つ細かいところまで検証していた。

(ヤツの残りの弾は一発…。他に武器も持ち合わせていない…。能力は機械を自在に操る能力…。)

 色々な証拠を基に彼の脳内で徹底的に再検証し再検証を繰り返した。そしてそのリプレイ映像を繰り返す中で、リアが手榴弾を撃ち抜くときが彼女の数少ない大きな隙である事に気づいた。そして一つの策を思いつく。

(そうだ、その手があった…!)

 シュバルツはナイフを取り出し、そしてすぐさまリアに向かって何かを投げ、それとほぼ同時にリアの方へ飛び出した。リアは投擲物の方に反応する。彼女は反射的にそちらの方へ銃を構えてしまうが、手榴弾かと思ったモノはなんとただの石ころだった。リアはすぐさま気付きシュバルツの方に銃を構え直すものの、シュバルツは間近に迫っていた。リアはなんとか発砲する。シュバルツは一瞬しまったと思った。彼はその時、世界全体がスローモーションに見えた。弾の軌道は非常にゆっくりと、シュバルツの顔ギリギリをすり抜ける。リアは狙いが定まらなかったために、よりにもよってこのタイミングで外してしまったのである。シュバルツはリアにあと半歩まで近づき、ついに勝利を確信した。

 (この勝負、貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!)

 遂にシュバルツは捉え、ナイフをリアの首元に狙いをつけた―――――――。

 

  バン。それは一つの発砲音であった。シュバルツはリアの近くに来た瞬間、急に足に力が入らなくなりそのまま崩れ落ちる。おかしいと思いナイフを床に置き、その足に触ると、なにか生暖かい感触があった。そして触れた手を見ると真紅の液体に染まっていた。血だったのだ。それを見た瞬間、突然彼が経験したことのない鋭い痛みを感じ始めた。彼の脳内は痛みに対する衝撃やリアの銃に対する疑問で混乱していた。

「その反応…もしかして、撃たれた経験が無いのか?」

 リアはニヤニヤしながら近づき、ふもとに落ちていたナイフをシュバルツとは反対方向に強く蹴った。武器を失ったシュバルツは怯えながら、必死に足を引きずりながら後ろに逃げようとするが、もう一度発砲され、片方の足も撃たれる。その激痛から遂にシュバルツは倒れ込んでしまう。

「ハァ…。そんな馬鹿な…馬鹿な!」

「なるほどね。人の痛みが分からないから殺し屋になったんだな。そして、アンタが今まで殺してきた人達の痛みがこれだ…、最期に良い勉強になったな?」

 シュバルツはちゃんと息が出来なかった。そして彼女が急激に恐ろしい怪物に見えてきた。まるで大人のような子供で、人間に似た狂人で…、まるで殺戮兵器(キリングマシーン)へと…。彼女の前ではシュバルツはただのか弱い小動物でしかなかった。這いずりながら後ろに逃げ続けるものの、ついに壁にぶち当たり、リアが目の前に立ちふさがった。

 「()()()()というものを教えてやるよ。シュバルツ。」

 彼女はシュバルツに馬乗りになり、銃をシュバルツに向けてゆっくりと構える。シュバルツは痛みや恐怖で涙を流していた。

「やめろ、やめろ…やめてくれ…。」

 「それでは、()()()()()。」

「やめろおおおおおおおおおおお!!!!」

 バン。バン。バン。3つの銃声が駐車場に反響する。その後は静寂だけが残った。リアは彼から降り、立ち上がって彼を見た。

 彼女の狙い通りに正確に撃ち抜いた。…ただし銃痕はまるで型抜きのように彼の頭の形に綺麗に沿っており、一発も彼の頭に命中することは無かった。しかし、このショックのあまりシュバルツは口から泡を吹いて気絶してしまった。

「攻めは強いが守りは弱い…か。情けないヤツだな。その程度の小物を殺すわけがないじゃん。」

 リアはインカムを手にし、コールマンに向けて報告する。

「…こちらリア、シュバルツを捕らえた。任務完了ミッションコンプリート。」

「了解した、そちらに二人増援をよこしてるから彼らと合流してくれ。…本当によくやってくれたよ、リア。」

 

「…しかしまぁ、無事とまでは行かなかったが 全員生きて帰れて良かった。」

「サティは結局病院送りだしな。命に別状ないみたいだが…。俺のせいでホントに申し訳ねえよ…。」

「まぁ、結局お前が追跡したお陰でシュバルツを捕らえるという大手柄になったわけだしな。それにしても大した怪我じゃなくてよかったよ。アーヴィング」

 アーヴィングは右の二の腕に包帯を巻いていたが、それ以外は特に目立つ怪我もなく、病院に行く必要もなかったようであった。

「こんな姿見られたら、またかみさんに叱られちまうよ」

 リアはこころと一緒に居たようだが、会話を終えてこころは先に車に乗り込んだ。リアはその後二人が話をしている場所に行き、まずコールマンに迎えられた。

 「英雄のご帰還だな。お疲れ様!」

「何大層なこと言ってんだよ。」

「そういえばさっきの戦闘を俺達二人で見返してたんだが…、色々と凄かったな。」

「お前、本当にこんなに強かったんだな。人は見た目によらないという事をお前のお陰で学んだよ…。」

 「私は強いよ」

 

「色々と質問があるんだが、聞いてもいいか?リア。」

 リアは質問という言葉に一度は眉をひそめため息をついたものの、仕方がなくこの質問会に応えた。

「…どうぞ?」

「どうしてあんな策を用いたんだ?」

 「能力は持ってないけど射撃の腕はなかなかだったし、格闘術のスキルも優れていて頭もいい、そして体格の差もあった。この差は流石に埋めようがないし、しかも私に対する油断も見られなかった。はっきり言って強かったんだ。そしてそれを殺さずに捕らえるのは至難の業だ…。なら、最終手段としてアイツを引っ掛けるしか無かったんだよ。一の矢で撃ち落とせないなら二の矢でね。」

「まぁ相手が子供だからって驕らずに戦ったのは流石伝説の殺し屋、…イタタタッッ!!」

 アーヴィングのその発言の瞬間、リアに足を踏みつけられる。

「子供…?」

「どんだけ子供扱いされるの嫌なんだよ。悪かったって。」

 「大体実戦経験豊富なアンタとサティが私一人に任せるその信頼感を目の当たりにしたら普通はかなり警戒するだろ?しかもほぼ能力者だろうということは分かっているんだし。驕るはずも無いさ。」

「な、なるほど…。」

 アーヴィングの横槍を一旦置いておき、コールマンはすぐに話を戻させた。

「んでその策っていうのが、今回の警報システムを動かして、リアの能力を誤解させて油断を誘う作戦だった、というわけだな。」

 「そう、あんな唐突にブザーなり警報なり色々な機械が動き出すと、真っ先に私を疑うだろ?」

 「だからこころに機械をリアの動作に合わせて動かしてくれと頼んだわけか。ヤツの疑いを確信に変えるために…。」

「そういう事だ。アイツにとって、能力者は私一人しか居ないと思い込んでいた。だから私達に対する情報の無さを利用したんだ。」

 アーヴィングはやや腑に落ちなかった。シュバルツほどの

「しかしなんというか…。子供だましな戦術だな…。」

「子供だましの戦術だけど、あの緊張感かつ命のやり取りをしている状況で、そこまで深く考察をしている余裕は無いからな。それに、当初は私のほぼ正確無比な射撃を能力だと思い込んでいたみたいだし。」

 「あれも凄いんだが、どうして奴はそう思い込んでいると分かったんだ?」

「奴は何度か弾痕を確認していた。それが理由。」

「あんな状況でよく気づくな…。」

 コールマンは彼女の観察眼や洞察力に驚いた。しかも、あの危険な状況下での事で、普通であればその気づきにも疑いを持つはずであったが、その発見をほぼ事実として捉えた事は彼女が自分の観察眼に自信を持っている証左でもあった。

「ただ危険な賭けだったろ?こころちゃんに任せるなんて…。まだちゃんと能力も使えてるかどうか分からないのに…。」

 「こころの能力は、まぁ、多少心配だったけど、アイツはちゃんとこなしてくれた。今回上手く行ったのはこころのお陰さ。」


 「それにしたって他に選択肢はなかったのか?この作戦で行った理由(わけ)は?」

「それについては2つ理由がある。第一にその射撃だけで能力だと誤解させるのは流石にリスキーだった。まぁ、一応自信はあったけど。第二にリソースを吐かせる為に時間を稼ぐ必要があったからだ。弾や武器といったところだな。すぐに気づかれてしまうと、能力が分からないという情報部分の戦術的優位性タクティカルアドバンテージが失われてしまうから、ヤツの動きは予測不能になっていた可能性があった。能力がバレないならバレないで消極的に立ち回られて相手の時間を稼がれてしまう危険性があったし…。ただ、この策ならある程度のタイミングも調整できるし、何よりも騙しやすかったわけだ。」

 この説明にコールマンとアーヴィングは顔を合わせた。シュバルツは全ての技能(スキル)をリアの卓越した観察眼によって看破され、全てのリソースを失わせ選択肢をなくした上で、彼女の作った罠にまんまと陥れられたのだ。コールマンはつい思わず呟く。

 「お前、本当に15歳なのか…?」

 この冷静さと胆力、そして驚異的な観察眼に分析力、それに加えて戦闘技術まで…、この年齢なのにも関わらずもう既に第一級の兵士以上の能力を持ち合わせていることに、コールマンは衝撃を隠すことが出来なかった。兵士は動力を伝達するただの歯車であるとよく言われるが、彼女は歯車程度の物では表現できる程度の実力では無かった。そして、アーヴィングはこの話を最後まで聞いて、どうしても気になっている事があった。

「ちょ、ちょっと待てよ。結局お前の能力って一体なんなんだよ…。」

 「消去法だ。機械を自在に操る訳でなく、銃を正確に一寸狂いもなく狙い撃つわけでもない。つまり唯一おかしな点は…」

 彼女はわざと話を途切らせ、アーヴィングに回答を求めた。彼は今までの会話の流れ、そして先程の交戦を記録した映像から、ある一つの結論にたどり着く――。

「弾が切れてもリロードする必要がなく撃てた…ってことか?」

 「そう。銃にはなんのタネも仕掛けもない。私の能力は、()()()()()()()。ただ、それだけだよ。」

 リアはそう言い放ち、帰路に着くために車に乗り込んだ。アーヴィングとコールマンは呆気にとられ、口がポカンと開いていた。

 

 「…名コンビ、誕生だな。」

 こころは恥ずかしそうにするが、リアは呆れ返る。

 「今回の作戦、二人はよくやってくれた。まさか麻薬組織の摘発だけでなくシュバルツの逮捕も成し遂げるとは…。」

「別に、今回は運が良かっただけだ。」

 リアはそう言い締めようとしたが、少し間を開けてから、このように付け加えた。

 「…それに、こころが居たのが良かった。アンタが居なければ、シュバルツは捕まえられなかっただろうね。」

「え?…へへっ。」

 こころはまさかリアに褒められるとはつい思わず、彼女らしからぬ変な笑いをしながら鼻の下をこする仕草をしていた。

 「それはさておき。二人を呼んだのはこの一件で褒めるためじゃないんだ。実はもう既に新しい任務が届いている。」

「ほほう」

 そう言うとクリストフは紙を広げ、新たなる任務を言い渡す。

「今度は…日本での任務だ。」

「日本かよ…。あんな平和な国、なんの任務もありゃしないだろうに。植物の生態系の調査か?」

「違うな」

 クリストファーは皮肉に全く応じず、毅然と対応する。リアもその反応を見て気持が引き締まる。

「今回の任務はかなり重要で、かつ君達にしか出来ない任務だ。」

「私達にしか出来ない任務…?」

 こころは疑問に思う。恐らく能力者にしか出来ない任務だろうという事は分かったが、日本とそれとは結びつける事が出来なかった。彼女の疑問を解消した。

「北海道にある能力者専用の学校に行き、そこで何が行われているか調査せよ、これが今回の任務だ。」

 リアは潜入任務は基本的には戦闘することが無いために前線で戦いたい彼女の望みとは異なり不服であった。クリストフはリアの気持ちを察して、ある話を持ち出す。

「リア、あまり気持が乗らないかもしれないかもしれないが、お前を日本に送る理由があってな。」

「なんだそれ。」

 彼女は笑いながら聞くものの、クリストフは一度深呼吸を挟んでから、ゆっくりと、丁寧に語った。

「君の姉が北海道で目撃情報があったんだ。」

「なっ…!」

 リアはこの話を聞いて豹変する。机の上に乗り上げ、そして屈んで椅子に座っていたクリストフの襟元を掴む。

「それはどこだ!?すぐにでも教えろ!今すぐに!」

 彼女の必死な形相にこころは驚く。クリストフは動じず彼女の掴んだ襟を静かに取りほどく。

「落ち着け、リア。大した情報ではないし、…こころが居るから今は話せない。だが、これで北海道に行く意味が出てきただろう?」

「…ああ。その通りだ。」

 リアはなんとか冷静さを取り戻す。しかし、ウズウズとした気分は収まることはなかった。クリストフは改めて、再び任務を言い渡す。

「それでは、お二人。北海道に行き、任務を全うしてきてくれ。頼んだぞ!」

  「「了解、クリストファー()()!」」

 リアは整然として堂々たる敬礼をする。しかし彼女の眼差しは、クリストフではなく既に()()()を、真っ直ぐに見つめていた――。

 ※1 発射前の弾(実包又は空砲)が入る銃の部位のこと。チェンバーとも言う。既に全ての弾が装填されている場合、弾倉を抜いてもここに弾が入っているため一度コッキング(自動拳銃の場合は上部部分をスライドさせて弾を抜く)を挟まないと全ての弾を抜くことが出来ない。

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