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第4話「守護天使と戦乙女(ヴァルキリー)」その③

1

 リアは、こころがモモコを置いてきたままなのが気がかりだった。

『…ねぇ、良かったの?モモコちゃんをそのまま置いてきて…。』

「別に歩けてたし大丈夫だろ。それに、足怪我してるやつが着いてきても足手まといだよ…。それはともかく、ヤツの位置取りはちゃんとキャッチ出来てるか?」

 リアはインカムに問いかける。しかしこころからの応答はない。もう一度呼びかけると、少し間を置いてから慌ただしく返答が返ってきたが、困った様子であった。


『…うーん、昔の携帯電話って位置情報が常にキャッチできないのかな?』

「…そうなのか?」

「よくわかんないけど、完全に切れちゃったみたい…。」

 断続的に位置情報を手に入れたものの、ある地点を境目にそれ以降は全く途切れてしまったようであった。

「マジか。どんな場所で切れたんだ?」

 こころの説明によると、切れた地点はビル街の裏路地らしきところであり、そこは入り組んでいたため、彼女がどこへ行くのか、あてが無くなってしまった。

「おいおい。えらい中途半端な場所で切れたな。これじゃ行き先も全く分からないだろ。」


 昔の携帯電話、所謂(いわゆる)フィーチャーフォンはGPS(※1)を搭載していない機種も多かった。こころはそれをハッキングしてGPSから位置情報を把握したかったものの、何度繰り返しても出来なかったために電波の発信位置から特定しようとしていた。しかし、全くうまく行かなかった。そのためリアは4、5分ほど今の場所で立ち尽くす羽目になってしまった。

「なんでだろう。GPSが対応していないから…?原因が分からないから、こっちではどうしようも…。あっ、そうだ!」

 あらゆる検証の末、こころはある解決策を見出した。

「こっちから通電して無理やり繋げてみる。もしかしたらそれで位置情報が掴めるかも。」

「以前試して出来なかっただろ…。というか、目星付いていないなら無理じゃないのか?」

 日本での任務に就く前に一度試みてはいたものの、どうやら人や車などの動いているデバイスのハッキングはこころにとって非常に難しいらしく、結局失敗に終わったのだった。少しの間のあと、突然大きく喜びの声を上げた。

「やった!やったよ!今、ラナ・サウスの位置を教えるね!」

「マジか…!一体どうやったんだ?」

 リアは全く期待していなかったため、位置が特定出来たのは意外であった。

 

「ラナが向かった方向の電子機器…、携帯電話らしきデバイスを片っ端から通電してみたの。そうしたら意外と少なかった!そしたら、一人だけ古い携帯だったから多分このひとだと思う。」

「まさかのローラー作戦(※2)かよ…。というか当たってるのか?」

「目立たない所にどんどん向かっていってるから間違いないと思うよ。ただ、何故か途切れ途切れだけど…。」

「まぁ、それで十分だ。」

 その携帯の持ち主はどうやら先ほどとは別の場所にある廃工場へと向かっていっているようであった。リアもその情報を得て、再び駆け出しはじめた。


「ラナはこのあたりに居るみたい。正確な位置は…、チョット待っててね。」

「というかまた廃工場かよ。この辺はやたら多いな…。」

 この街はかつて自動車産業が盛んな地域であり、至る所で自動車関連の工場が建てられていたようだった。しかし、その産業も衰退してしまったのか、今ではただの廃墟群である。

 リアは彼女が居た痕跡を見逃さないように慎重にこの地域を探索する。すると、あっさりと先程の廃工場でみた足跡を見つけ出した。その足跡の模様は、まさしくラナの足跡だった。

「日頃の行いかな。おい、こころ、見つかったぞ。」



2

 ラナは、追手をどうやって撒くのかを考えていた。このエリアに潜伏していたことがバレてしまった以上、最早この街を出ていかなければならないのは明らかだった。しかし、ラナは()()()()からそれがどうしても出来なかった。ラナは現在、廃工場の倉庫に身を隠している状況である。その倉庫は放棄された広い廃工場の南東に位置しており、その中の8つある倉庫のうちの1つである。中2階構造(※3)でやや入り組んでおり、さらには出口も多く、そして何よりも追手が来た場合には隠れることが出来る場所も豊富だったために、彼女にとっては理想的な拠点であった。

 しかしながら、追手の足音らしきものが外から聞こえてくる。ラナは急いで物陰へと潜んでやり過ごそうとする。しかし、その足音はどう聞いても一直線に彼女の元へと向かっているのである。

(どうして私の位置が分かってるの?発信機でも取り付けられてたのかしら…。)

 もうバレていると判断したラナはやむなく表へと顔を出す。何故なら隠れ続けていたら退路を防がれる可能性があったからであった。

 姿を表すと、そこにいたのは先程対面したばかりであったWFUの少女、リアであった。

 ラナはリアに再び冷たく問いかける。

「ねぇ、あなたはどうして戦っているの?」

 リアはそれに対して微笑みながら言った。

「なんでだと思う?」

 

 リアはラナに息をつかせぬまま、前に飛び出した。ラナは前面に通さんとバリアを張ろうとするが、リアは網目の階段を駆け上がり中二階へと登っていった。その場所はラナからは死角であり、どこからか、何をするのか全く掴むことが出来なかった。すると、突然上から何らかの物体が飛んできた。

(石を投げた…!?)

 リアが外から手に入れたと思われる丸石は、きれいな放物線を描いて、ラナの頭上の手前側の見えない壁にぶつかった。しかしあくまでもそれは陽動であった。リアはぶつかったと同時に、()()()の石が投げた。それはコンクリ片であり、先程の陽動用の石より明らかに重たく、ぶつかる箇所によっては重傷もあり得るようなものであった。その石は彼女の真後ろの柱にぶつかって反射し、ラナへと襲いかかった。

(そっちにはバリアが張ってな…!)

 ラナは慌てて石が向かってくる方へ手を伸ばし、なんとかバリアを張り防ぐことが出来た。しかし、それでリアの方向にあったバリアは解除されてしまった。リアはそれを好機と捉え、中二階の手すりを乗り越え、軽やかに飛び降りた。まずいと思ったラナは、すぐさま反転して倉庫から逃げようとする。

「待て!」

 ラナは扉に手を伸ばそうとした瞬間、扉が勝手に開き、光が射してきたために驚いた。

「なっ…!」

 

 その扉を開けたのはこころであった。リアは先にラナが逃げる先を予測し、こころに逃げ口を塞ぐように指示し、扉の前に待機させていたのである。ラナはそれを見てすぐさま後ろに逃れようとするが、既にリアは追い付いていた。ラナは咄嗟にバリアを張ろうと手をかざそうとしたが、既に後頭部に銃が向けられたため、両膝をつき、そのまま手を上げるしかなかった。ラナは観念したかと思えば、突然、泣き出しはじめてしまった。

「私は…、どうしても行きたい場所があるの。だからお願い、見逃して欲しい…!」

「悪いがそれは無理な注文だな。アンタを捕らえろという任務だ。それに、アンタの位置はWFUに既に知らせてある。諦めろ。」

 ラナはその言葉に肩を落とす。彼女にはリアに対して抵抗は無駄であると感じたようだった。しかし、こころは何か納得していない様子であった。


「リア…、この人にも何か事情があるんじゃないかな。少し、話を聞くくらいなら…。」

「おい、何(ぬる)いこと言ってんだよ…!この女に同情するな!これは任務だぞ!」

 と言いつつも、リアは何かを気にかけているようであった。

「でも、ラナが泣き出したとき、リアも動揺してた。あなたも気になるんでしょ?…その理由」


「じゃあ、聞いてくれる?」

「チッ…、分かったよ。」

 リアは仕方なしに銃を下ろす。

「ありがとう…。」

 ラナは感謝すると、ゆっくりと手を下げ立ち上がった。



3

「さて、どんな理由か聞かせてもらおうか。守護天使ガーディアンエンジェルさん?」

 リアのわざとらしい呼び方にラナは反応をする。

「私は、守護天使ガーディアンエンジェルなんかじゃないわ。ただの人間よ。」

「…!」

 彼女は口を震わせながらそう言った。リアはその発言にピクリと動く。以前の自分も同じような事を口にしたからだった。

 

「確かに、皆からそう言われ続けたわ。でも、一度も言われていい気になったことなんて無い。だって…。」

 ラナは一度口を噤んだあと、リアの方へと向き直す。

「あなた達もWFUの人間なら分かるはずよ。この能力は強力すぎるって…。だから、悪用されないためにも他国に渡しては駄目だって。そう、私は他人(よそ)からすれば()()なの。」

「兵器…。」

 こころはその言葉に胸が痛む。

 

「…長らく一人だった。施設内の奥底で、ずっと日の光を見ずに過ごしていくのだって思っていた。その毎日にうんざりして脱走したこともある。でも施設の人たちはみんないい人ばかりだから怒ることも咎めることもなかったわ。ただ、同情するばかりだった。でも、見かねた管理人の一人が私に便宜を図ってくれたのよ。携帯電話とか、パソコンとか貰えた。自由に出来るわけではなかったけど、私にとっては十分刺激的だったわ。私にとって、インターネットは羽ばたける空のように見えたの。そんな中で、SNSをやってたときに、一人の子に出会った。」

「その子はずっと病気の治療をしていて、病院でずっと暮らしていたらしいの。そう、私と同じ籠の中の鳥。でも私と違って幼少の頃から病院からほとんど出たことがなかったから、あの子は外の世界に憧れていたわ。どんな場所なのか、そしてどんなものがあるのか…。たくさん話した。そして文の最後には必ずこう書くの。いつか病室から出られるようになったら、一緒に旅行に行こうって。行きたかった場所に行こうって…。」

「でも、最近は返事を返してくれなくなって…。どんなメッセージを送っても何も返ってこないの。だからずっと心配していたわ。病状が悪化したんじゃないかって。親しい管理人に確認をしようと思っても無理だと言われたからどうしようもなかったわ。…そして先月、久々にその子からようやく返事が届いたのよ。でも…、そこに書かれてたのは、ただ一言だけだった。”さよなら”って。」

「ラナ…。」

 

 こころはラナに同情の念を向ける。しかし、リアはその話には疑いを持っているようだった。

「…やけにドラマ性があるな。もしかして、保護施設の人間の誰かが代わりに偽装して返信を書いていたんじゃないか?前、似たような事件を聞いたことがあるぞ。」

「リア!」

 こころはリアの姿勢に叱りつけるように名前を呼ぶ。

 

「そうよ!…確かにそうよ。この繋がりは偽りかもしれない。でも…、それでも…!私にとって、それだけが希望だったの!だから、事実を確かめたいの。どうしてさよならって言ったのかを…。」

 リアはその応答に何の反応も示さず、ただ黙ったままであった。

「ねぇ、お願い…!それを確かめるだけでいいから、時間を頂戴…。その子がどこの病院に居るか分かってるわ。偶然にも札幌の病院にいたのよ。普通なら会いに行ける距離でしょ。ねぇ!」

 ラナは必死な訴えをするものの、リアは無情にも再び彼女に向けて銃を構える。ただし、ラナはまだ諦めてはいなかった。


※1 GPS…Global Positioning Systemの略。アメリカ合衆国が打ち上げた約30個のGPS衛星のうち、上空にある数個の衛星からの信号をGPS受信機で受け取り、受信者が自身の現在位置を知るシステムのことである。(Wikipediaより引用)

※2 ローラー作戦…舗装用ローラーが全てを押しつぶすように、エリア内の全対象を漏れなく徹底的に調査・営業・捜査する手法のこと。

※3 中2階…主に一階と二階の中間に位置し、通常の階層よりも半階程度の高さでつくられるスペースのこと。倉庫では鉄骨などで独立したメザニンラックを設置することで、保管や作業スペースを倍増でき、さらに空間を縦に有効活用し、在庫能力の向上やピッキング作業場を効率的に確保できる等の構造上のメリットが多い。

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