夏の細道
夕べの海には月が浮かんでいた
世界の秘密の宿る水晶の欠片は僕に語り掛ける
不老不死になる呪文の這入った匣
開かずの戸の中に光る星屑
銀河は死んだ人の魂が生まれ変わるまでの居所
お彼岸になると潮騒の音がこの家まで聞こえる
部屋の隅の真っ赤に燃える鬼の瞳
古いアパートの中に転がる酒瓶の唄
随分遠くへ来たものだ
明日は何処へ行こう
雨脚につられてふらふらり
懐中電灯は持ったか方位磁石は何処を向く
雨を追いかけよう虹を見上げて行こう
リュックサックに詰め込んだ月の欠片が
朝の気配に怯えている
昭和の空気は満天星躑躅にも宿っている
僕らの魂はいかほどの重さだろう
明日は何処だ
祖母の家に泊まった夜
壁が土で出来ていて
なにかの鱗粉みたいな
光る粉がまぶされていた
襖には何か綺麗な水墨画
ああ日本が此処に在る
夢の中では絢爛豪華な
光る着物を着たろくろっ首が
欄間に首を描けている処で
目が覚めた
真夜中の虫の音色が
朧月夜を隠そうとしていた
遠い海に転がる巻貝に眠る恋の唄
あのねのねあの家には邪神を飾る神棚が眠る
開かずの扉の向こうに夏はありけり
腕に沁みついた緑の苔は死病院の夢を見せる
地獄教を教わる脳に住み着いた黒い人影
旅人のコートの中に夏は住む
陽だまりに沈む夏の昏き影
ゆらゆらと夏の海は泡沫の眠る
夢の足跡はベッドの中のあの小さな暗がりの中
シンクタンクの中の水母は母の子宮に興味あり
この先立ち入り禁止の看板の先に古町ラビリンス
神社の裏側に今宵も古き風は眠る
夏は陽炎、今年もまた幻想が夏の宿場町を包む
夏の風に誘われて今宵も寝台列車の中に闇潜む
行方不明のみなしごは、あのお地蔵様にでも行方を聞こう
錆びれた筆箱を開けば、懐かしいあの刻に戻れる
鼻歌を歌う声がお風呂の方から聞こえる
あの人が還ってきたのか彼岸の頃
桜を見れば思い出す。懐かしいあの時代
夢見の娘があの窓から覗いている
古町を漂う、シャボン玉の夢
彼岸桜
今年も綺麗に咲き誇る
花吹雪がちらちらと墓を彩る美しい死化粧
冷たい雨そぼ降る石畳
此処は這入りこんだら永遠に迷い続ける
人生という名の宿場町
あの古道に冷たい風が吹く、春の夜
逃げていった鬼は今宵は何処の家で悪さをする
夕べの海には月が浮かんでいた
世界の秘密の宿る水晶の欠片は僕に語り掛ける
不老不死になる呪文の這入った匣
開かずの戸の中に光る星屑
銀河は死んだ人の魂が生まれ変わるまでの居所
お彼岸になると潮騒の音がこの家まで聞こえる
部屋の隅の真っ赤に燃える鬼の瞳
古いアパートの中に転がる酒瓶の唄
シンクタンクの中身は苦悩に満ちている
水母がわなないて水槽の中で叫んでいた
真昼の月は何も知らない無垢な娘
静かに赤い糸を小指に巻いてあの神社へ行こう
お地蔵様にそっと口づける尼さまの横顔は笑み
桜は花びらを堕として人々をだます術の長けている
呪文のように春を詠うその口を夜が撫でる
過去の追憶は
幽かな吐息となって耳朶を這う
シンクタンクに逃げ込んだ水母は
密かに道のお地蔵様に
海に還りたいと雨の日にお願いした
戸棚の骨がいつの間にか団子にすり替えられた
家に棲む座敷童子の悪戯
幽霊なんていないよと言われても
部屋の片隅にうずくまる
あの真っ赤な人影は何者なんだろう
櫻が仄かに闇に光っている
夢見鳥がお地蔵様の肩に泊まり
春の雨から身を守る
本の内容は覚えていますか
忘れない過去から逃げられない僕たちは
畳の上の花弁をそっと口に含んで春の夢を見る
山の櫻も咲き始め
妹に恋をした兄はそっとカミソリを右の腕に載せる
春には狂気が似合うから僕らも夢を見よう
春の夢は薬の小瓶の内側で仄かに光っている
膿んで病んだ頭に櫻の小枝が
優しく癒してくれる
不思議な小径は何時もあの街の片隅で
人呼んでいる喰らおうとしている
病院の匂いが好きです
そちらに行ってもいいですか
そっちに行っちゃ駄目と
小さな子供が袖を引く
嗚呼そう言えば母には水子の弟がいた
夢ばかり見ていましたという魔法の呪文
空高く飛んでいけと紙飛行機に青春の呪いをかけて
サイダーの弾ける感覚が喉を焼いて
今年も終戦記念日まで頑張るか
髑髏の表紙が睨みつけてきて醜い笑みを浮かべる我
春に死ぬと云った西行法師は櫻に宿る魂
人間失格は好きじゃないんです自分に似ているから
病んでいるなと思うより先に櫻の開花
そのうち死ぬさと心の声に優しい声をかけて
哀しくないからと涙が零れて切なさはこみ上げる
この時間帯に起きている人は人間失格を読んで落ち込もう
春は巡りまたあなたとも出会えるから
友引の日に、あの山の幽霊に取って喰われて死のう
死のうと思いながらなんとか日々を過ごすことは、健全であるかもしれないから
最近、幽霊の事が好きだ
希死思念とよく似ている
ただ、生きている人も好きだから、友達になってください
夜の雲は、遠い昔の太鼓の音を響かせて、遠雷
夢を見ている所へ耳にひそひそと木魂達のこの村の秘密
空は群青色の深いまっくら闇
いつまでも、なんどでも、だまされて化かされよう、幽霊のことが好きだから
ようやく桜は咲いた
今年は例年よりも開花が遅いらしい
机の上のどんぐりの実よりも秋らしい
かすかな訪れを喜んでいるのです
春は死の匂いを運ぶから
墓地通いがやめられない喪服の影
シンクタンクの檸檬を丸かじりする
幽かな死の匂いのする午後の日差し
彼岸花は逝ってしまったか
灰色の夢を見る
穏やかな夏のしらべは
いとまごいをされた入道雲の悲しみを知りたくて
ずっと水槽の中で暗い夢を見ていた気がする
世の中は哀しみに満ちていて
水溶生物みたいにずぶずぶとぬかるんでいる
あの水たまりに人の影が見える
夏は追いかけてくるサイダーの魂
幽かな呼び声と太鼓の音
夏祭りは遠いのに
私が娼婦だったら、恋人と肝試しをして墓場に椿の花を置いてくる遊びをする
私が娼婦だったら天井だけを見せるような真似はせず、花芯に口づけをして最後まで一緒にいてくれる人を探す
私が娼婦だったら、旅人のコートの中に這入りこんで涼しい秋の風に永遠に守ってもらう
鼓動は囁くあの日の想い出
街の娼婦は密かに水子寺へ通い
陽だまりの下で静かに恋を想うあたし
女の子はわがままでいいんだよ
背後でそんな声を聞いた気がする
ブランコで遊んでいたいい大人なのに
地球儀の裏では眠れない夜を送る妖が
人を助けたいと願う半妖の男に
懐かしい遊びを教えたがる
夢の跡
人が怖い夜は、神様がきっと神社の奥で御隠れしているに違いない
私の為に…なんて思うほど、神様と通ぢている気がする
この前、空の雷様と喧嘩して、周囲の家は大丈夫なのに
私の家だけに落雷が起きて中部電力の人がなんでこうなったんだか分からないと首をかしげていて
密かに私が神様と喧嘩したからですと云えないほどには巫女やってる
夏場の雷が起こると大体雷神様と喧嘩して、このあたり一面雷だらけになる
大体、凡ての元凶が私…だった頃はもう終った
世界の片隅で、古い御屋敷に愛を囁いている雨女
その年の夏は特に暑かった
世界がひっくり返ったような世界で
僕は部屋に溜まったサイダーの海に溺れていた
通りにはラジオの天気予報
お盆の頃には線香の香りが彼岸へと連れて行かれそうな
夏はどうして潮騒の香り
灼熱の太陽が耳朶を焼く
どこまでも常世に近づきすぎて
哀しみが眠れないのです
どうか、眠りを妨げないで
春の海はさざ波の音が眩しすぎて
あの海の音を閉じ込めた貝殻ならあそこの抽斗に入ってゐるから
あなたの目は魚介類のようだね仄かに生臭い匂いがするから
いつまでも世界の終わりを開かずの扉の向こうに眠らせて
鎮痛剤だったら信号機の青の中にも
閉じ込めてあるみたいだから
匂いだけでも嗅ぎに行けばいいと思うよ
高真夏の太陽がまぶしいのは苦手だから
雨戸は締めっぱなしにしておこうよ
モグラみたいな生活だけど
水母が逃げ出さないように見張っててくれるだけでいいから
あの立て看板にも貼りついていたでしょ
夢見る水母が
あれは捕まえておいて味噌汁の中に入れて食べると
昭和のあの防空壕のところまで連れて行ってくれるから
夢の中で
塩分が濃いせいだろうね
そんな夢が見れるのは
何にせよ薬は肝心だから色々用意するのさ
今夜も押し入れの中に行くんだろう
あそこは夕暮れの國に一番近いから
春が近いね日差しが暖かい
どうして人は哀しみや苦しみで涙した後
あんな純粋な気持ちになれるのか分かるかい
だから絶望が手放せないのだろう
深い深淵の中にこそ不思議な力が宿っているのさ
さあじゃぐちを締めたらそのナイフで少し死ぬ真似をしよう
懐かしい記憶が蘇ってきて
あの時代を夢見られるのさ
誰だって手放せない彼岸花はあるのさ
叔父草様に挨拶したらあの古い屋敷へ行って仏壇の匂いを嗅いで
春の夢は薬の小瓶の内側で仄かに光っている
膿んで病んだ頭に櫻の小枝が
優しく癒してくれる
不思議な小径は何時もあの街の片隅で
人呼んでいる喰らおうとしている
病院の匂いが好きです
そちらに行ってもいいですか
そっちに行っちゃ駄目と
小さな子供が袖を引く
嗚呼そう言えば母には水子の弟がいた