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第一章 一節/いつもの日常



月曜日の朝。


週末を堕落し過ごした俺にとって月曜日の朝は起きるのが尋常ではないほど辛かった。


ベッドの魔力とは恐ろしいもので起きようという意思をことごとく拒否した。


おかげさまで遅刻ギリギリだ。


あくびを噛み殺すと見慣れた通学路の風景が涙でぼやけた。


これからまた週末まで忌まわしき学校に登校し勉学に励まなければならない。


学生の宿命ってやつか…。


倦怠感をより一層強め足取り重く学校へ向かった。



さて、話が大きく逸れるが聞いて欲しい。


クラスに一人、または学年に一人の割合で人並み外れた容姿を持つ者がいるだろう。


毎日のように告白されたり、校内を歩けばその場にいる生徒たちの視線を釘つけにする通称学園のアイドル。


そんな奴らと親しくなりたいと思うのは普通の考えだ。


だが俺の考えはその逆だ。


もし親しくなりすぎて周りの奴らから嫉妬の矛先を向けられるのはごめんだからな。


これは俺の妄想でも何でもない、実体験だ。


実は学園のアイドルの中には俺の姉や妹、幼なじみがいたりする。


そのことを知っている奴は極少数なのだが学校中の奴らに知られたら俺は死ぬ、確実に。


だから死なない為に姉妹と幼なじみには俺との関係を他言しないようにきつく言ってある。


『一生のお願いです、言わないで下さい』


と涙ながらに土下座をしながら。


土下座の甲斐あってかまぁまぁ平和な高校生活を満喫している。


しかし一生のお願いは〈他の奴に他言しない〉ということだけなので俺に話しかけたり一緒に登下校しようとしたりする。


「ぼーっとしてどうしたの?」


ほれ、今みたいにな。


横をちらりと一瞥すると我が学園のアイドルがいらっしゃった。


「何でもない」


俺は短い答えると再び前に向いた。


俺の隣を歩くちっこいのは妹の秋羅(あきら)


その150cmという小さな身体。


そして守ってオーラを遺憾なく発揮し、校内美少女ランキングの妹にしたい生徒部門のNo.1を勝ち取っている。


幼い顔立ちに加え言動も子供っぽいのでとてもじゃないが高校生とは思えない。


そんな要素がランキング1位に導いたんだと思う。


本人はよく分からないようだったが喜んでいた。


「今日も帰り遅くなるの?」


視線を俺に向け聞いてくる。


「大会が近いからな」


部活の大会があるため最近帰宅するのが遅くなっていた。


好きでやっていることなのだが練習がきつくて結構心が折れかけている。


団体メンバーという少なからずもプレッシャーもかかる。


「出来るだけ早く帰ってきてね」


そう言いながら手を握ってきた。


俺は何も言わず手を握らせていた。


拒否して泣かれるよりいいし何より妹を泣かせたくない。


秋羅がブラコンなら俺はシスコンかもな。


「秋羅そろそろだ」


「えー、もう?」


他の生徒に見られる前に離れて登校する。


理由は言わなくてもわかるだろう。


「ほら友達が前にいるぞ」


俺は立ち止まり秋羅の頭を撫でてから先に行かせた。


「えへへ、遅刻しちゃダメなんだからね!」


そう言い残し友達の元へ駆けて行った。


走るたびにツインテールがぴょんぴょん動いていた。


いつになったら高校生で頭を撫でてもらうのは恥ずかしいと思ってくれるんだろうね。


身体も心も小学6年生から全く成長してないように思える。


秋羅の将来が心配なのは気のせいであって欲しい。


秋羅は高校生にもなっても兄の俺にベタベタしてくる。


そろそろ兄離れしてほしいのだがその日が来るのは遠くなりそうだ。


一人になった俺はいつものようにぼーっとしながら歩き学校に到着した。







教室へ入ると各々がお決まりの集団で談笑していた。


俺はどの集団に入って談笑することもなく自分の席に座りぼーっとしていた。


決して友人がいないわけではない。


朝は出来るだけ一人でぼーっとしていたいのだ。


席が窓側の一番端の一番後ろという特等席。


外の景色がよく見える。


ジィー


退屈で仕方ないときは外の景色を眺めながらぼーっとするのが一番だ。


ジィー


………。


和泉(いずみ)、さっきからずっとお前に見られているような気がするんだが気のせいだよな?」


「…気のせい。私は外の景色を見ていた」


俺の隣を陣取る無口な友人はそう言う。


和泉綾(いずみあや)は必要最低限の言葉しか発しないちょっと変わった奴。


「だよな、自意識過剰だったよ」


和泉は外の景色を見ているらしいのだがどうも視線が気になる。


視線を逃れるように体を机に突っ伏したがその動きにあわせて視線も動いた。


俺の気のせいだよな。


「俺がいると外が見づらいだろ」


そう訊くと


「平気」


と短く応えた。


無口無表情な和泉だが美少女の部類に入る方だと自負している。


学園のアイドルとまではいかないがそれに匹敵するほどだ。


そんな奴に直接的ではないがジィーと見られては恥ずかしくなるのは当然のことで、


「やっぱり見づらいだろ?」


とそのまま寝たふりをし視線から逃れた。


それでも視線が痛々しいほど感じられたが間もなく俺の意識はまどろみの中に薄れていった。






俺が目覚めたときには朝のホームルームが既に始まっていた。


初老の中村担任が連絡事項を話している。


誰か俺を起こしてくれてもいいんじゃないのか?


よだれをブレザーの袖で拭きながら隣を見る。


寝ぼけてまだ視界がぼやけているがそこには規則的に息をし机に突っ伏した和泉の姿があった。


腕で枕を作り顔は下を向いているため見えない。


どうやらこいつも寝ているようだ。


中村担任が連絡事項を伝え終わりクラス委員長が号令をかける。


「きりーつ」


和泉を除くクラス全員の椅子を後ろに引き、立ち上がる。


椅子を引く音で起きたのか和泉もゆっくりと立ち上がった。


しかし目は虚ろで意識が朦朧としているようだった。


「きをつけー、れいっ」



ホームルームが終わり休み時間となった。


動きが大分怪しかったが和泉は意識が覚醒したようで教科書を出していた。


俺もあくびをしつつ授業の準備に取り掛かった。





俺にとって授業とは睡眠へ誘い込む誘惑と解釈している。


よって昼休みまでの約4時間、俺は睡魔と死闘を繰り広げていた。


おかげでノートには古代文明の記号のようなものが書かれていた。


まぁノートは和泉や誰かに後で見せてもらえばいい話で、今はさっさと弁当を食べたい。


「西宮ー、食堂行こうぜ〜」


手に持っている弁当をぶらぶらさせながら友人は俺を呼ぶ。


「ちょっと待ってくれ」


鞄から弁当袋を出し友人の元へ急ぐ。


「早く行かないと席がなくなるぞ」


友人その1の柏木と共に食堂に向かった。


俺は弁当を食べることしか頭になかった。


だからあんな悲劇に巻き込まれるなんて想像もしていなかった。

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