交差点の雪だるま
目が覚めると、雪だるまになっていた。
近所でよく見かける子どもたちが満足げに僕を見ている。
「できた! 猫の雪だるまってのもかわいいね。 体が寒そうかな?」
「あたしのマフラー巻いてあげる。」
子どもが僕の首にピンクのマフラーを巻く。恥ずかしくてマフラーを外したいけど、体がぴくりとも動かない。
「あ、もう学校行かなきゃ。」
子どもたちは僕を置き去りにして行ってしまった。文句を言いたくても口はないし、追いかけたくても足はない。今の僕にあるのは、細い枝でできた貧相な腕と、石ころの目、それに枯れ木の枝のヒゲだけだ。僕は諦めて道を行き交う人々を観察することにした。
雪にはしゃいで雪玉を作ってぶつけ合う小学生。仲良く手を繋いで登校する、高校生のカップル。いろんな人間がいるもんだな、と目の前で雪に滑って盛大に転ぶオヤジを眺めながら考える。
★
昼になるにつれて気温が上がり、体が溶けてきた。僕のヒゲと片腕の枝は、バランスを失って地面に落ちてしまった。
(もしこのまま溶けて無くなったら、僕も死んでしまうのか…?)
急に不安な気持ちが押し寄せてきた。追い打ちをかけるように、雲が出てきて雨が降ってきた。体がみるみる雨に流れて崩れていく。僕の片目の石が、ぽとりと落ちた。
(嫌だ! このまま消えたくない!)
大声で叫ぶが、その声が誰かに届くことはない。交差点を行き交う人々は、崩れかけの僕を気に留めることなく素通りしていく。雪だるまって、こんなに悲しい一生なのか。
「ヒロ! どこにいるの!?」
突然、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。聞き慣れた声。僕と一緒に住んでいる女性、アヤだ。
(僕はここだよ!)
声を上げるが、アヤは僕に気づかない。辺りを見渡しながら涙を流している。
「寂しいよ…早く帰ってきて…」
今まで、クールで素っ気ない態度だった彼女が、泣きながら僕を探している。ずっと僕のことなんて気にかけてないと思ってた。こんな別れ方なんて嫌だ。やっと彼女が僕を愛してくれていることがわかったのに。
雨と重力に耐えきれず、僕の頭は崩れ落ち、意識が遠くなっていった。
★
目が覚めると、見慣れた我が家のベッドの上だった。隣でアヤが寝息を立てている。そっと彼女の頬を撫でると、目が開き、驚いた顔で飛び起きた。
「ヒロ! 帰って来たんだね!! 良かった…」
アヤが僕を抱きしめる。彼女の香りと温もりを全身で感じ、僕は嬉しさで尻尾を立てながら返事をした。
「ニャオ!」