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交差点の雪だるま

作者: 鋼玉九兵衛

目が覚めると、雪だるまになっていた。

近所でよく見かける子どもたちが満足げに僕を見ている。


「できた! 猫の雪だるまってのもかわいいね。 体が寒そうかな?」

「あたしのマフラー巻いてあげる。」


子どもが僕の首にピンクのマフラーを巻く。恥ずかしくてマフラーを外したいけど、体がぴくりとも動かない。


「あ、もう学校行かなきゃ。」


子どもたちは僕を置き去りにして行ってしまった。文句を言いたくても口はないし、追いかけたくても足はない。今の僕にあるのは、細い枝でできた貧相な腕と、石ころの目、それに枯れ木の枝のヒゲだけだ。僕は諦めて道を行き交う人々を観察することにした。

雪にはしゃいで雪玉を作ってぶつけ合う小学生。仲良く手を繋いで登校する、高校生のカップル。いろんな人間がいるもんだな、と目の前で雪に滑って盛大に転ぶオヤジを眺めながら考える。





昼になるにつれて気温が上がり、体が溶けてきた。僕のヒゲと片腕の枝は、バランスを失って地面に落ちてしまった。


(もしこのまま溶けて無くなったら、僕も死んでしまうのか…?)


急に不安な気持ちが押し寄せてきた。追い打ちをかけるように、雲が出てきて雨が降ってきた。体がみるみる雨に流れて崩れていく。僕の片目の石が、ぽとりと落ちた。


(嫌だ! このまま消えたくない!)


大声で叫ぶが、その声が誰かに届くことはない。交差点を行き交う人々は、崩れかけの僕を気に留めることなく素通りしていく。雪だるまって、こんなに悲しい一生なのか。


「ヒロ! どこにいるの!?」


突然、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。聞き慣れた声。僕と一緒に住んでいる女性、アヤだ。


(僕はここだよ!)


声を上げるが、アヤは僕に気づかない。辺りを見渡しながら涙を流している。


「寂しいよ…早く帰ってきて…」


今まで、クールで素っ気ない態度だった彼女が、泣きながら僕を探している。ずっと僕のことなんて気にかけてないと思ってた。こんな別れ方なんて嫌だ。やっと彼女が僕を愛してくれていることがわかったのに。

雨と重力に耐えきれず、僕の頭は崩れ落ち、意識が遠くなっていった。





目が覚めると、見慣れた我が家のベッドの上だった。隣でアヤが寝息を立てている。そっと彼女の頬を撫でると、目が開き、驚いた顔で飛び起きた。


「ヒロ! 帰って来たんだね!! 良かった…」


アヤが僕を抱きしめる。彼女の香りと温もりを全身で感じ、僕は嬉しさで尻尾を立てながら返事をした。


「ニャオ!」

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