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婚約者の王子に婚約破棄を宣告されましたが、取り巻きは覗き魔だったので、なんの問題もありません。

作者: 普通の有明

三作目、ちょっとエッチかも。苦手な人は気をつけて。

 わたくし、アリーシャ・ノクタスは罪深いほどにとても美しい女性だった。


少しだけ癖のある金髪は太陽の光を通すことで黄金色に輝き、教会の天使のような神々しさを連想させ、グリーントルマリンの瞳は、見る角度や光によって表情が変化し、見る者を引き付けてやまない。


傷一つない珠の肌は、最高級シルクよりもよっぽど肌触りがよく誰もが触れたいと思うほど滑らかだ。


そんな私の美しさに魅了された子息たちは婚約者がいるにも関わらず、一言交わしただけで私に魅入られ、抜け出すことのできない恋に落ちて行きました。


そのうち子息たちは婚約者との時間を削ってまで私のために時間を費やし、婚約者にするはずだったプレゼントを私に送るようになる。


アリーシャ・ノクタスも貴族だ、それも王族に次いで高位の貴族である公爵家の娘である。


無論、婚約者でもない異性が隣にいたり、大した理由もなくプレゼントを贈ってくるのもおかしいことくらいは知っている。


勿論最初は、自身の婚約者であるアイゼン・シュベルク王子や相手側の婚約者に気を使って、側に来るのを控えて貰ったり、プレゼントの受け取りを断ったりしていた。


けれど、アリーシャ・ノクタスに魅入られた子息たちの行動は一向に改善されず、ついには彼らに節度を保った対応をしてもらうことを諦めてしまったのだ。


婚約者でもない異性が好意を持って控え、婚約者に送るはずのプレゼントが送られる、明らかに異常な光景だが、いつしかアリーシャ・ノクタスにとって当たり前の光景になっていた。


そうしているうちに色々な噂が立つようになり、婚約者であるアイゼン・シュベルク王子に避けられるようになる。


それからアイゼン・シュベルク王子との会話が途切れ、一年が過ぎ、お互いに学園を卒業する年にまでなってしまう。


その間、アリーシャ・ノクタスは相変わらずで、そんなアリーシャにアイゼン・シュベルク王子は愛想を尽くしたのか、愛人を作って、常にその娘といるようになった。


二人の関係を育むはずだった楽しい学園生活は最悪の結果で終止符が打たれ、今日の卒業パーティを迎えることとなった。






 アリーシャは愛人と楽しそうにダンスを踊るアイゼンをぼーっと見ながら物思いにふけっていた。


一体何を間違えたのだろう、幼少期は仲が良かったはずだ。


ここ一年はお互いに気まずくなり、それとなく疎遠になってしまったが、こういう公の場ですらこんな状況になるとは思ってもいなかった。


学園が主催するパーティとは言え、これは卒業パーティ。


社交デビュー前の最後の練習として、基本的に社交界のルールを守るのが学園生徒の共通の認識だ。


けれど、これはどういうことだろうか。


本来リードするはずの私を無視し、婚約者同士で踊るはずの一曲目で愛人と楽しそうに踊っている。


公の場ですら体面を気にせず、婚約者である私ではなく愛人を優先するとは思わなかった。


そんな現状を憂いながら、けれど特に打開しようともせず、二人のダンスをぼーっと眺める。


愛人の100㎝はあるだろう大きな胸にアイゼンの腕がふにゃり❤と沈み込む。


とても柔らかくて気持ちがよさそうだ。


アイゼンはあまり親しくない者から見れば恋に落ちるような格好のいい笑みを、親しい者から見れば下世話で気持ちの悪い笑みを浮かべる。


あの胸にほだされたのだろうか。


ペッタン❤ペッタン❤といい音のなった一年前の自分の胸を思い出す。


そうこうしているうちに、一曲目のダンスが終わった。


アイゼンが愛人を連れてこちらへ向かってくる。


なぜか、側付きのカイロス・エルファを伴っている。


愛人を他の異性と躍らせないようにするために、カイロスに預けるつもりだろうか。


まぁともかく二曲目は踊ってくれるようだ。安心した。


と思ったのもつかの間、私の期待は想像を絶する形で裏切られる。






 ばっしぃぃぃーーーーーーーんん!


いきなり頬を叩かれた。それも手加減抜きで。


派手な音が響き渡り、会場に動揺が走る。


そして、アイゼンは私たちに注目した会場でこう言い放つ。



 「アイゼン・シュベルクとアリーシャ・ノクタスの婚約を破棄する!今後一切、アリーシャ・ノクタスをアイゼン・シュベルクとは認めない!」



……はい?


この人は何を言ってるんだ?



 「えっと、アイゼン様? それはいったいどういう意味でしょうか?」


 「関わりの無かった一年の内に理解力が悪くなったのか。そのままの意味だ。お前との婚約をなかったことにすると言っている!」



……本当にそのままの意味だったようだ。なら、なおのこと分からない。



 「なぜでしょうか? なぜ婚約を白紙に戻されるのでしょうか?」


 「分からないのか? それは、俺の愛しい人、リア・レクサスをいじめたからだ!」


と、アイゼンは愛人であるリアを小脇に抱えながら、どこかの恋愛小説で読んだような決め台詞を言い放った。


顔も決まっている。でも大衆にバレないように彼女の豊な胸をふに❤ふに❤と楽しんでいるから、全く持って決まっていない。


真面目なのかふざけているのか、私には全く持って分からなくなってしまった。



 「リア様にいじめ、ですか? 私が?」



リアをいじめた記憶が本当にない。


そもそも彼女は常にアイゼンの傍にいたはずだ。いじめる隙などどこにあっただろうか?


「しらばっくれるな! 証拠は出そろってる! カイロス! 証言しろ!」


どうやら、乳母の息子であるカイロス・エルファにいじめの状況を説明させるようだ。






 「殿下に代わりまして、わたくし、カイロス・エルファがアリーシャ・ノクタスのリア嬢へのいじめについてお話させていただきます。」



彼が語った話はこうだった。


三か月前の出来事である。


水泳の授業の終わり次の授業が始まる時間になっても、リア嬢が教室に戻ってこなかった。


気になったアイゼンはカイロスに様子を見に行かせる。


とは言っても男性であるカイロスが女性更衣室に入ることはできないので、少し離れた場所で待つことにした。


そうしているうちに次の授業の開始を知らせる鐘が鳴った。


鐘が収まったころに、びしょびしょに濡れた水着の状態でリア嬢が更衣室から飛び出してきたという。


そんな状態で彼女はその後の一日を過ごすことになり、大いに恥ずかしい思いをした。


水泳の授業中ならともかく、通常の座学で水着という、その場には異質で布面積の少なく扇情的な姿をさらすことになったのだ。


これは女性としての尊厳を傷つけるような極めて悪質ないじめであると。


その時更衣室にいたのは、私とリア嬢のみ。


状況証拠的に私が何かしたに違いない、ということだった。






 「なるほど。」


 「このような悪質ないじめをする女性を俺の婚約者と認めることはできない!」



カイロスが説明している間ずっと、リア嬢の胸をふに❤ふに❤っとしていたので、彼女の胸から離れられなくなってしまっているのは明らかだ。


おそらく、私の後釜に収まるのは彼女だろう。


けれど、彼女を婚約者にしたいからという本音を隠し、私が王子の婚約者としてあるまじき人格をしているから婚約破棄をするという理由付けを行うことで、ある種の正当性を保っているように感じた。


そして状況的にも、私がリア嬢に何かしたことは明らかに思える。


このままでは私がすべて悪く、悪質ないじめをした性悪女のレッテルを張られた状態で婚約破棄が成立してしまう。


そうなれば、新しい婚約者が現れることもなく、私の人生はどん底に突き落とされるだろう。


リア嬢が本当にアイゼンの新しい婚約者にでもなれば最悪だ。


未来の国母をいじめた罪として、一生修道院から出られないかもしれない。






 ――けれど、アイゼン殿下、少し爪が甘かったですね。


私は薄く微笑んで切り返しを図る。



 「カイロス様、本当に女性更衣室から少し離れた場所で待っていたのですか? 中は覗いていないと。」


 「‼‼‼」



カイロスが目を見開く。ビンゴだ。


私はゆったりとカイロスに近づいて、耳元でこう囁く。


静かにゆっくりと。けれど確かに周りの観衆にも届くように。



 「見ていたのは❤ 私の着替えですよね❤」

 「女子更衣室の入り口が見えて、尚且つ中が見える場所が一か所だけあるんですよ❤」

 「そこからは私のロッカーが、つまり私の生着替えが見えたはずです❤」



一拍おいて。



 「本当は、私がぬぎっ❤ぬぎっ❤ってしていたところを見ていたんですよね❤」

 「私からは見えないんですけど、よく覗かれるから、視線で分かるんですよ❤」

 「あの時の視線は、あなたのでしたよ❤」



ぞわ❤ぞわ❤ぞわ❤ぞわ❤ぞわ❤ぞわ❤



 「魔が差しちゃったんですよね❤」

 「乳母だからって自分の母親すらアイゼン殿下を優先して。婚約者ですらあなたを殿下に取り入るための道具としか思っていない。本当は貴方が手にするはずだったモノすべて、殿下に取られてしまっていたから。」

 「興味を無くしたモノくらいはって、手を伸ばしたくなっちゃったんですよね❤」



カイロスは膝をつき、泣き崩れた。



 「あぁ、僕が見ていたのはあなたの着替え姿だ。」

 「本当はこんな証言したくなかったんだ。」

 「なんで僕はいつもいつも殿下のために尽くさなくちゃいけないんだ! なんで僕は欲しいモノ全部、殿下に取られなきゃいけないんだ!」



長い年月によって蓄積した気持ちが溢れてくる。


カイロスの心の叫びが周りへと伝播してゆく。


ある子息はカイロスの言葉に共感し涙を流し、またある令嬢は覗き魔のカイロスを不審者を見るような目を向けながらも、アイゼンの主張に疑いを持ち始める。



 「カイロスが実際見ていたのが、お前の着替え姿だろうが関係ない!」

 「その場にいたのはお前だけという状況証拠は覆らない! お前はリアをいじめたんだ!」

 「というか、見られていると分かっていて見せていたのか! このクソビッチが!」

「リアをいじめただけではなく、他の男に肌を見せていたとは! やはりお前は俺の婚約者として相応しくない!」



空気の変化に戸惑いを感じたアイゼンは、まるで自分に言い聞かせるように早口で捲し立てる。


アリーシャが言っていることは婚約破棄騒動の本質から外れているのだと。


けれど、もともと蚊帳の外で野次馬するだけの観衆には関係ないことだった。


この婚約破棄騒動は大きな注目を集めているとはいえ、卒業パーティの最中であることには変わりがない。


学園最後のパーティのイベントとして、面白半分に聞いている者も多く、話の全容を捉えている者が少ないのだ。


観衆がわいわいがやがやとあることないこと言い始め、アイゼンにもアリーシャにさえ収集が付けられなくなった。


アリーシャの狙いはこれだった。


封建的な考えが強いこの国では、あの程度の浅い状況証拠でもアイゼンの主張が通ってしまう。


だったら、観衆を巻き込んで有耶無耶にしてしまえばいい、婚約破棄騒動なんてなかったことにすればいい、と。


そのためには、着替えを覗かれたという自らの痴態をさらさなければならない。


肌を見らたことを大衆の前で暴露するなど、淑女にとって大きな傷になるはずだが、アリーシャの感覚は鈍っていた。


カイロスのように着替えを覗いてくる子息はたくさんいたから、それが普通だと思ってしまっていた。






 「あっ、あの!」


 「私、アリーシャ様にいじめられてなんていません!」

 「濡れた水着のまま更衣室を出たのは、その日の水泳が着衣水泳で、着替えとタオルを忘れたからです!」



事態に収拾がつかなくなったところで、リア嬢の小さく、けれど強い意思を持った声が会場に響き渡る。



 「な、なんだと! リア、アリーシャにいじめられたって言っていたではないか!」



予想とは大きく異なる展開に戸惑っているのか、アイゼンはリアに責任を求め始める。



 「私、そんなこと言っていません。殿下は何一つ私の言うことを聞いてはくださらなかったではありませんか!」

 「殿下が怖かった! 私みたいな下級貴族に必要に迫ってきて、訳が分からなかった!」

 「でも、だからといって自分から側を離れる勇気もなくて。」


 「そんなバカな‼」



信用しきっていた相手に裏切られたかのような分かりやすい反応をする。



 「アイゼン殿下、もう諦めてくださいまし。」

 「リア様もこうおっしゃっていますわ。それにもう殿下の思惑は見え透いていますわ。」


 「な、なんだと‼」



魂を吸い込まれるようなアリーシャのグリーントルマリンの瞳に、カイロスの中で緊張感が高まる。


アリーシャはカイロスにやったように、アイゼンの耳元まで近づいて、こう囁く。



 「リア嬢のふに❤ふに❤巨乳感触を手放せなかったんですよね❤」


 「……は?」



何が飛んでくるのかと待ち構えていたが、予想外すぎる変化球にアイゼンは一世一代のアホ面をさらす。



 「アイゼン殿下は、ばぶ❤ばぶ❤するのがお好きですから❤」

 「乳母が息子すら放り出して、自分のわがままを優先して、甘やかしてくれる快楽に嵌まっちゃったんですよね❤」


 「ち、ちがっ!」


 「8歳の頃でしょうか? 殿下に膝枕をしてあげたことがありますよね。」

 「その時、寝ぼけたふりをしてママー❤って言いながら、私の胸に吸い付いてきたこと今でも覚えていますよ❤」

 「あの時、殿下のちっちゃくて可愛らしいお大事がピコンッ❤ってなってて❤」


 「や、やめろ。それ以上言うな!」


 「それから何度も膝枕をおねだりして❤」

 「でも恥ずかしくなって、一年前にはおねだりできなくなっちゃって。それでもばぶ❤ばぶ❤したい欲求は収まらなくて。」


 「そんな時にリア様に出会ったんですよね❤」

 「胸が大きくて柔らかくて、ばぶ❤ばぶ❤ふに❤ふに❤しがいがあって、身分を気にして何でも言うことを聞いてくれる都合がいいママに❤」


 「やめろーーーーー‼‼‼」

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」



自分の性癖を大衆に暴露されて、周りも気にせず発狂する。



 「私、反省してるんです。」

 「殿下が私を避けるようになって、私、意固地になって。」

 「私に陶酔する子息たちさえいればいいって思っちゃったんです。」


 「えっ」


 「でもやっぱり、確信しました。」

 「殿下は幼稚で情けなくてママのぬくもりを忘れられない、私の愛しい婚約者だって。」

 「だから、婚約を破棄するだなんて言わないでください。」

 「これからは一年前とは大違いの、ふっくら❤もっちり❤と成長した私のお胸でばぶ❤ばぶ❤ふに❤ふに❤させてあげますからね❤」



そう言いながら、アリーシャはそのきめ細やかな指で、シュルリ❤とアイゼンのお大事を撫でる。



 「ついでに8歳の頃から、一向に成長しないちっちゃくて可愛らしいお大事も一緒にふに❤ふに❤してあげますね❤」



 ピュ❤


アイゼンのズボンに小さなシミができる。



 「ママーーーーー‼‼‼」



アイゼンは泣きながら、会場を飛び出していった。


その後、アイゼンとアリーシャはめでたく結婚し、幸せな結婚生活を送りましたとさ。


 ばぶぅ❤

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