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異世界ゴースト ザ・プロローグ  作者: ひいらぎ 梢
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エピローグ ―通達― 

 下級神カーの策略で身体を得ることなく精神体のみで異世界転生させられた伝説のゴーストライター「月本零(つきもとれい)」身体を持たない現状のままでは完全な消滅を待つばかり。

 一方、まんまと零を陥れたカーの元に上級神院からとある通達が届いた。そこに書かれていたのは……

 下級神カーが中年ライター月本零(つきもとれい)を魂のみの形で異世界に送ってから、しばしの時が流れた。


 彼の中ではあの不愉快な出来事はすでに意識の片隅から消えかかっていた。お気に入りのロイド眼鏡に蝶ネクタイ、サスペンダーに腕カバーという定番の格好(いでたち)で、鼻歌交じりの軽やかな足取りよろしく、担当する世界(エリア)を空から巡回……という名のサボり中に、上級神院からあの忌まわしい通達が届いたのだった。


 彼の手元に突如として現れた一枚の通達。何気なく目を通した彼の赤ら顔からは一瞬にして血の気がひき、額からは四六のガマよろしくじっとり冷たい脂汗が流れ落ちた。


『上級神院通達 第20210327号


 天界各位


 過日、さる下級神の過失により身体を付与せず意識体のみを他世界に転生する事例が発生す。


 不幸にも当該意識体は他世界への適応障害を発し、ついには消滅するにいたれり。


 意識体の消滅は天界令第42条第13項により「必ず上級神以上の承認の元、此れを行うべし」と明記さる。


 上記の天界令に基づき、上級神院は件の下級神に即日神格剥奪の上、存在滅却の厳罰をくだせり。


 処罰等の意図的な消滅事案は言うに及ばず、本事例の如き偶発的な消滅事案に於いても、意識体の消滅は上級神以上の承認が必要不可欠なり。


 天界各位におかれては厳に戒め、今後とも徹底さるるべし。


 以上 』 


「や、やばい……これ、ぼ、ボクちんの事じゃないですよね(汗) ちゃ、ちゃんと首ついてるですよね……」


 下級神は思わず知らず独り言を呟きながら、震える手で無意識に自分の首が胴と泣き(わか)れになっていないか確認した。


「た、確か意識体のみの転生の場合、意識体の活動レベルは最小限界(ミニマム)まで下がるけど、消滅することはない筈なのですよ。奴には脅しで身体(うつわ)がなければ消滅すると言ったけど、まさかホントにそんなこと起こったというのですか?」


 世界と意識体の不適合による意識体の消滅。それはあくまでも偶発的な事だったが、上級神院の通達に取り上げられた事例が真実でない訳がなかった。


 またこんな通達をあえて流すということは、過去の案件についても再検証がされる危険性をはらんでいた。例えば日頃から折り合いの悪い彼の上司などが率先して痛い腹を探ってくることは想像に難くなかった。


 そして何より問題なのは、万一、上級神以上の承認をえていない消滅が起これば、世界に於ける魂の総量に変化が現れ、それは当然上級神院ですぐに把握されてしまうという事だ。そしてその時をもって彼の命数が尽きるのは確定事項なのである。


「ガクガクブルブル。とりあえず絶対バレないようにしなきゃですよ……」


 幸いにも今のところ、彼が神格も奪われず、その存在も消滅させられてないと言うことは、あの毒舌中年男、月本零が意識体の消滅を免れているという証左であった。


「はっ!あ、あいつに死なれたら、ボクちんお仕舞いじゃないですか!」


 神を神とも思わない口うるさい暴力中年。策を労して手も足も出ないようにした上で異世界に放逐したその不敬な輩が、一転自分の命運を握る存在になりかわってしまったのに気付いてカーは愕然(がくぜん)とした。彼にとってはまさに痛恨の極み、運命の皮肉であり、自らの不運を呪わずにはいられなかった。


 とは言うものの本質的に小心者で御身大事な彼が自らの身を危険にさらす要因をそのまま放置しておける筈もない。


「と、取り敢えず奴を探しだして消滅しないように手を打たなければなのですよ。あー、忌々しいのですよ!何であいつのためにこのボクちんが苦労しなきゃならないですか」


 そもそもこの事態を招いた根本的な原因は、彼自信がシリアルキラーと間違えて零を捕獲してしまった事にある。つまり今の状況を客観的に見た場合は「自業自得」と言わざるを得ないのだが、こうした場合でも常に自分は悪くない、悪いのは全て他人となるのがカーの思考回路の特徴だった。


「温情あふれるボクちんがせっかく異世界転生させてやろうとしたのに、それを断ったばかりか、こんな面倒事に巻き込むとかあり得ない。あいつは前代未聞の不心得者なのですよ。ブチブチ」


 零が聞いたら確実にブチキレるであろうボヤキを呟きながら、かの下級神は零を放逐した地点(せんじょう)へと転移した。


 そんな訳で決して分かり合えないこの二人の腐れ縁はまだ続くのだった。


(終)

「異世界ゴースト」取り敢えず序章部分(プロローグ)はここで終了です。今回は前作「じゃ、消滅で!」との整合性を担保する内容になってます。ま、前作の主人公遥くんが零さんのような目に合わなかったのは、ひとえにこの通達のお蔭だったという事で。

 このザ・プロローグ、正直一般的な異世界もののテイストからやや遠い作りだったので、好みは別れる所かと思います。次回からは一般路線にシフトした本編に入っていく予定ですので、続けてお付き合いいただければ幸いてす。ではっ!

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