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異世界ゴースト ザ・プロローグ  作者: ひいらぎ 梢
2/5

無能な働き者

「伝説のゴースト」の異名をもつライターの月本零(つきもとれい)は深夜コンビニへの買い出し帰りに足下の地面の中に飲み込まれてしまう。そこで彼をまっていたものは…。

目標(ターゲット)捕獲(キャプチャード)


「やったぁ!」


 この世界の現場管理者である下級神カーはその短躯をピョンピョンと小躍りさせて喜んだ。ワイシャツにサスペンダー、蝶ネクタイに黒い腕カバーをしたその姿は市役所の戸籍係といった趣だ。窮屈そうなズボンの上には真ん丸い腹の肉が乗っかっており、跳び跳ねるたびにユサユサと揺れてその存在を主張していた。


「やった、やった、やりましたよぉ!やっと排除対象者、上級神院手配リストNo.z2237446968を不可逆性次元トラップで捕獲したですよ。これで来期こそは念願の中級神への昇格間違いなしなのです!やっとあの忌々しい課長(ゴート)の鼻をあかしてやれるですよ、ヒッヒッヒ」


 丸眼鏡の乗っかったテカテカと脂ぎって肉付きのよい頬をゆるませ、今回の自らの実績を誇示するように鼻息も荒く彼は独りごちた。神として顕現(けんげん)してからこの数百年、年功による昇級はしていたものの、彼はずっと下級神の地位から抜け出せないでいた。


 本人は自分の実績がちゃんと評価されていないと思っているのだが、実際の所、思いつきで発動され、しかも詰めが甘い彼の仕事にはミスが多く、その度に周囲がその尻拭いをさせられる結果を生じていた。そう、所謂(いわゆる)ハンス・フォン・ゼークト言う所の「無能な働き者」という奴である。そして今回も悲劇は繰り返されたのだった。


「さて上級神院に引き渡す前に、排除対象者の首実見をするですかね」


 ハエのように揉み手をしながら自信満々で彼は柏手を二回打ち、捕獲した憐れな犠牲者を目の前に呼び出した。そこに現れたのはよれたパーカーにスウェット、黒いサンダルを突っ掛けた中肉中背の男だった。フードを目深にかぶっていて、その表情を伺い知る事は出来ない。


「さて、きみは世界に凶事をばらまくシリアルキラー土居(どい) 玄衛(げんえい)ですね?ついに年貢の納め時なのです!さぁ観念して大人しく(ばく)につくですよ!」

「え、ここ…どこだ?あれ?コンビニで買った酒とツマミは?」.


 渾身の決め台詞をまるっと無視して、キョロキョロと辺りを見回すフード男。どうやらカーの存在よりも、アルコールの方が関心度が高いらしく、その態度はカーの根拠のないプライドを傷つけるには十分だった。頭にきた彼は必死に威厳をつくろい、改めて精一杯高圧的にフード男に対峙した。

 

「おほん!君がシリアルキラー土居玄衛なのは分かっているですよ!しらばっくれてもダメなのです!」


 難事件の謎解きで犯人を指し示す探偵宜しく、右手の人差し指でフード男を指差し、左手は腰にあてて仁王立ちするカー。短躯をのけ反らせ、必死に胸を張っているが、だらしなくせりだした腹の方にどうしても目が行ってしまう。本人は精一杯キメテルつもりなのだが、傍から見るとせいぜい出来損ないの信楽焼のタヌキである。それでもフード男の注意を引くことに成功しただけ、上出来だったかも知れない。


「は?お前だれだ?シリアルキラー?土居? いったい誰の事だ?」

「だから君のことですよ!世界に仇なすサイコパス、連続殺人鬼 土居玄衛!不可逆性次元トラップで捕獲された君は、もう現世には戻れないですよ!」

「ふざけんな、このチビデブメガネ!オレはそんなちんけな名前じゃねぇ!!」


 男は大声で叫ぶとフードをめくってその顔をあらわした。その瞬間、血色の良いカーの顔色は蒼白になった。


 中途半端に伸びた白髪交じりの癖っ毛。ややこけた頬からアゴにかけての無精髭にもちらほら白いものが混じっている。濃いめの眉と小さめの目は意志の力を感じさせるが、その下のクマは睡眠不足の賜物だろう。その風貌は(カー)が求めていたシリアルキラーとは似ても似つかないものだった。


 ようやくカーは捕獲時に対象者とすれ違った人物がいた事を思い出した。同じようにフードを目深にかぶった中肉中背の男。背中をいやな汗がしたたり落ちてきた。フード男の啖呵は続いた。


「これでも月本(つきもと) (れい)っていやあ、業界内じゃ、ちったぁ知られた存在だ。シリアルキラーごとき外道と一緒にされるほど堕ちちゃいない!」


 この状況を釣りで例えるなら、防波堤で目当てのクロダイを釣り上げたと思ったら、毒針をもつゴンズイが引っ掛かっていたようなものだ。(カー)にしてみれば迷惑千万な事この上なかったが、実際の所一番迷惑をこうむっているのは釣り上げられた毒魚(れい)である事は言うまでもない事実だった。


「あ、いや、むしろこっちとしては、土居が本命であなたは外道なんですが……」


 カーの口から思わず本音がポロリとこぼれる。「雉も鳴かずば射たれまい」。この辺りが彼の脇の甘さである。


「はぁ?オレが外道?どういう事だ!だいたいお前誰だ?何でオレはこんなとこにいるんだ?これはお前の仕業なのか?おい、ちゃんと説明しろ、この豚足野郎!」


 言うが速いか、零は光速の寄せで間合いをつめるとカーの襟首を両手でつかんで締め上げた。


「ぐ、ぐるじぃ……。いいます、言います!説明しますから、は、放して……」

「ホントだな!じゃ、放してやるよ」


 言うが早いか零はパッと手を離した。吊り上げられていたカーはその反動でバランスを崩し無様に尻餅をついた。


「あ、イッテてて……て、手荒な真似はよして欲しいのです(泣)」

「お前さんがちゃんとホントの事を話してくれりゃ、そんな真似する気はねーよ。ただし、嘘や誤魔化しがあったら保証の限りじゃねえ。んじゃま、キリキリ話して貰おうか」


 下級神は思った。……これで中級神への昇格は当面お預けだ。しかも排除対象者を捕獲しようとして失敗しただけならまだしも、別の人間を捕獲してしまった事が分かれば良くて降格、下手をすれば神籍剥奪だ。それだけは避けなければならない。しかし捕獲してしまった人間は使用した不可逆性トラップの性質上、元の世界には戻せないのだ。何とか上手く言い繕って、自分の管理する他の世界に転生させて、とっとと証拠隠滅するしかない。まぁこんなうだつの上がらない中年オヤジ、好条件の転生先を提示すればホイホイ言うことを聞くだろう。


 しかしこのあと彼はこの男を甘く見ていたことを思い知ることになるのだった。(続)

 はい、異世界ゴースト第二話アップさせて頂きました。もう少し量を書きたかったのですが、残念ながらタイムアップということで次回に続きます。

 さて図らずも零を召還(?)してしまった下級神カー。実は前作「じゃ、消滅で!」でも主人公を自分の手違いから召還しています。名前は前作を書いているうちに思いついたので、今回初のお披露目です。ちなみに同じく前作に出ていた彼の上司も名前だけこそっと出演させてみました。この二人の名前の由来もおいおいまた。

 今のところ次回は30日の予定です。また読んで頂けたら幸いです。ではっ!

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