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幼馴染もの短編

夜桜の再会 ~嫌われたと思っていたのに~

作者: 久野真一
掲載日:2020/11/14

今回は、初めての三人称での短編での習作です。

()()()、元気かな……うまくやってるかな」


 夜の桜並木を歩きながら独りつぶやく青年、夏野進夜(なつのしんや)

 今日で20歳になる大学2年生の彼は少し憂鬱そうだった。

 石畳の通路沿いに咲く夜の桜は、少し神秘的ですらある。

 なのに、彼がつぶやくのは、遠い昔に別れた旧友の事。


 辺り一帯は、京成大学けいせいだいがくの野外新歓コンパの真っ最中。 

 各サークルとも新入生の呼び込みに必死になっている。


 賑やかな光景の中、彼が思い浮かべるのは旧友の姿。

 背中まで伸ばした長い髪に、意思の強さを感じさせる瞳。

 あんまり愛想がない顔。


 成長期だし、胸は大きくなっただろうか。

 太っていないだろうか。

 そんな詮無きことを考える進夜。


「……ほんと、未練がましいよな」


 ため息をつく進夜。手元のスマホには、メールの送信履歴。

 ただの一度も返事が来たことがない、一方通行のメール。

 本当に女々しい、と自分を叱咤する。

 人は変わる。仲が良くてもいつしか疎遠になることもある。

 一方通行の友情だったのかもしれない。


(誕生日おめでとうのメール、読んでくれたかな……)


 今日は彼と同時に彼女の誕生日でもある。

 彼女に進夜は誕生日おめでとうのメールを送ったのだった。

 当然、返事は無かったのだが。


(「キモッ」なんて思ってるかもしれないかもな)


 独りごちる進夜。


(ああ、もう。俺はガキかよっての)

 

 がしがしと頭を掻きむしる。本当に感傷的だと自嘲する進夜。

 今が、彼女と出会ったあの風景と重なるせいだろうか。

 夜の桜が咲き誇る、あの公園と。


「そこの新入生!うちのサークルに寄っていかない?」

「え?」


 威勢の良い声で、綺麗な女性に呼び止められる。

 ああ、サークルの勧誘かと進夜は納得する。


「ちょっとぼーっと散歩してただけですんで」

「いいから、いいから。どうせタダ飯狙いでしょ?」

「ええとですね……」


 すっかり出来上がった様子の女性部員。

 拒む間もなくレジャーシートに引っ張り込まれてしまう。


「部長!新入生、二人目ゲットして来ました!」


 部長らしき男性に向けて、ノリよく告げる女性。

 周りがパチパチパチ、と拍手をする。


(ちょっと性質の悪いサークルに捕まったなあ)


 景色を楽しんでいたのに。とため息をつく。


(新入生かどうかくらい雰囲気で分かれよ)


 心の中で悪態をつきながら、腰を下ろす。

 彼は、こういう馴れ馴れしいノリが苦手だった。


「じゃあ、まず、自己紹介だけお願い出来る?」


 サークルの部長らしき人からマイクを渡される。


「あの……俺、2年なんですけど。新入生じゃないんですけど」


 辺り一帯が途端にシーンとなる。

 それもそのはず。

 新入生と思ったら2年だったとなればバツが悪い。


「まあまあ。新入生じゃなくても歓迎だからさ」


 しかし、部長はめげなかった。

 

(仕方ない。自己紹介だけして退散しよう)


 進夜は心にそう決める。


夏野進夜(なつのしんや)です。文学部2年。以上」


 端的に言い終えて、すちゃっと座る。

 にわかに周りがざわめき出す。

 愛想の無い自己紹介をしたのだから当然というもの。


(二度と会わない連中だ。どうでもいいや)


 彼が投げやりな気持ちでいると、右隣から視線を感じる。


「?」


 視線が気になった進夜は右を向いた。

 視線を向けていたのは美少女だった。

 整った顔立ちに、短く切り揃えた髪。

 彼女を思い出させる、気の強そうな瞳。

 愛想のかけらもない表情。

 でも、彼女より大きめの胸。


 と、進夜は違和感に気づく。どこかで見た記憶があるのだ。

 髪は、短くなってるし、胸は成長してるけど。まさか……


「ひょっとして……進夜?」


 彼にとって聞き慣れた声に聞き慣れた呼び名。

 そして、この3年間一度として聞いたことがない声。


「まさか……春野夜桜(はるのよざくら)か?」


 目の前の現実が信じられない。

 進夜は思わず聞き返してしまう。


「う、うん。そうよ。でも、進夜がなんでここに?」


 驚きを隠しきれない様子の夜桜。


「その台詞は俺がいいたいんだけど。なんでここにいるんだ?」


 そう。今の彼女は北海道に居るはずなのだ。


「えーと。お二人さんは知り合い?」


 先程の女性部員が口を挟んでくる。

 ややこしいな、とため息をつく進夜。


「夜桜。ダッシュだ!」


 手を引っ張って、走り出す進夜。


「ちょ、ちょっと、進夜!」

「いいから、走るぞ!」


 戸惑う夜桜に構わず、手を引いて走り続ける。


「はぁ。はぁ。ここまで来れば大丈夫か」


 数分走った末に大学から外に出た二人。


「はぁ。はぁ。何なのよ、いきなり」

「でも、関係がどうとか聞かれても答えられないだろ?」

「それはそうだけど……」


 夜桜は不満そうな口調だった。


(って考えてみれば、夜桜があの場に居たってことは)


 進夜は一つの可能性に思い至る。


「ひょっとして、あのサークル入るつもりだったか?ごめん」


 罪悪感が湧いてくる。


「私も無理やり引っ張り込まれただけよ。だから、それはいいの」


 本題は別にあると言いたげな口ぶり。

 ただ、それは進夜の方も同じこと。


「なんで、進夜がここにいるのよ?」

「なんで、夜桜がここにいるんだよ?」


 奇しくも、同じ疑問を二人は抱いていた。


「高2の直前、北海道に引っ越しただろ?一回も返事無かったのに……」


 少し恨みがましい声になってしまう進夜。

 夜桜が引っ越す直前のこと。

 彼女は買ったばかりのスマホに設定したメールアドレスを教えた。

 彼は「引っ越したら、すぐにメールを送るから」と約束した。

 彼女も「メール待ってるから」と応じた。


 夜桜が引っ越してから1週間後のこと。

 進夜は旧友の近況を尋ねるメールを出した。

 しかし、返事はなかった。


(あっちはあっちで引っ越し直後で忙しいんだろう)


 たった1日だ。気にしすぎだ。

 そう自分に言い聞かせた。

 しかし、いくら経っても返事は無かった。


(見落としたのかもしれない)


 そう思った彼は、メールを再度出してみた。

 しかし、やはり返事は無かった。


 非常に仲が良かった、少なくとも進夜はそう思っていた。

 だから、ショックを隠しきれなかった。


「はぁ?何言ってるの?返事って……」


 夜桜の顔は、心外だと言わんばかり。


「だって、メール送っただろ。全部無視されてショックだったんだぞ?」


 来ない返信を待ちわびた日々を忘れたことはない。

 だから、声には自然と怒りが籠もる。


「嘘!私のところには一通も来てなかったわよ!」


 どういうことだ?と彼は首をひねる。


「メールアドレスを間違えた?でも、送信エラーは来てなかったし」


 想定外の事態に混乱する進夜。


「……ねえ。その時の履歴って残ってる?」


 なにかに気づいた、といった顔の夜桜。


「あ、ああ。ちょっと待ってくれよ」


 言われて、進夜はメール履歴を掘り返す。


「ほら。haruno_yo@qmail.com。あってるだろ?」


 春野夜桜。彼女の名前。

 それを元にしたメールアドレス。


「ちょ、ちょっと。これ、間違ってるわよ!?」

「え、どこがだよ。確かに、メモの通りに……」

「haruno_yoじゃなくて、haruno_y0よ。o(小文字のオー)じゃなくて、0(ゼロ)!」

「はああ!?ちょっと待てよ、ていうことは……」

「進夜が0をoと読み間違えたっていうことよ」

「そんなのありかよ。なんで紛らわしい文字を使ったんだよ」

「QMailで、haruno_yoは取得済みって出たんだもの」


 QMailは世界中で使われているメールサービスだ。

 夜桜も引っ越すにあたって、QMailのアドレスを取得したのだった。

 彼女が言っているのは、haruno_yo@qmail.comは既に取得済みということ。

 彼の出したメールは見知らぬ誰かさんに届いたということだ。


「マジか……そんな偶然ってあるんだな」


 彼は驚愕に目を見開く。無理もないだろう。

 その出来事は彼の心に深く傷を残した。

 内心で嫌いだったんじゃないか。

 向こうの生活で手一杯で、忘れているのかもしれない。

 何度も何度も考えた。


「ごめんなさい……。私が紛らわしい文字を使ったばっかりに」


 彼を傷つけた。

 そのことを改めて思い出したのか、しゅんとした様子になる夜桜。


「こっちもちゃんと確認せずに悪かった」


 殊勝な態度に、進夜も毒気を抜かれてしまう。


「でも、良かった……。進夜が私のことを嫌いになったんじゃなくて」


 夜桜の目からほろりと涙が溢れる。

 次第に、勢いは増して行き、ポロポロと涙が溢れる。


「お、おい!?なんで泣くんだよ?」


 予想外の反応におろおろとするばかりの進夜。


「だって、引っ越しても、遠くになっても、親友だって言ってくれたのに……。メールくれるって約束したのに。メールの一通も無かったし。それに、私から進夜のスマホにメール送っても、返事がないもの。嫌われちゃったんだって、ずっと、ずっと、悲しかったんだから……!」


 涙を拭いながら、途切れ途切れに思いの丈を告げる夜桜。


「あー……アドレス変えてさ。送ったんだけど……」

「間違ってたら、届くわけない、わよね」


 泣き笑いの笑顔の夜桜。


「ま、そういうことだな。不幸なすれ違いってことで許してくれるか?」


 傷ついたのは彼女だけでなく、彼も同じ。しかし。

 気丈な彼女が泣く程のこと。ショックはそれ以上だったのだろう。

 そう感じた進夜は素直に謝った。


「許すも何も、私も悪かったんだし。はじめから許してるわよ」

「よかったよ。んでさ……お前が戻ってきたら、言いたいことがあったんだ」

「?」


 キョトンとした様子だ。ああ、もう。

 こっちから言わないとわからないか、と頬をポリポリを掻く。


「おかえり、夜桜」

「うん。ただいま、進夜」


 言い合った瞬間、二人は空白の3年間が繋がった気がした。


 こうして、奇しくも二人の誕生日に彼らは再会したのだった。

というわけで、これから物語が始まる!ってところでの終わりとなりました。

変わった二人の名前にまつわる出会いとか過去エピソードの設定はあって、本来なら一人称で数話の短編予定でしたが、三人称の練習ということでこうなりました。


三人称小説は初めて書いたのですが、結構難しいですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一緒にいた時にメール送らなかったのかな??
[一言] メールの行き違いかあ。実際にそれで別れた人とかいそう。そうすると、間違いのないLineとかのQR登録っていうのはありがたいのかも。 きっと、送られた人はspam認定してゴミ箱直行だったんだろ…
[一言] 現実にもこういうことありそうですね〜
2020/11/14 17:27 退会済み
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