13裏路地の炎姫
一話の前に序章追加したから誰か見てみてくださいー
「エンドー!」
騎士が退出し、しばらく経った後の事だ。
そう声を上げて、キトラがここを訪れた。
訪れたと言うか、襲撃に来たのだ。
扉を蹴破り、その扉にぶつかったメフィストはその扉の下敷きとなってしまう。
それを見たユグドラは信じられないと言うように目を見開き硬直していたが、すぐに動きだした。
扉を退かそうと奮闘しているユグドラなぞ眼中に無いかのようにキトラは窓や机の下を隈なく探している。
キトラよ、私がそんな所に居ると思うのか。
「お前は少しくらい落ち着いて行動しろよ…」
影界から出て来た私はユグドラとともに扉を退かし、メフィストを救出した。
そしてキトラに声をかけ、手を振った。
「エンド…?」
キトラが何か反応すると思っていたら、横から声が聞こえた。
聞き慣れた声だ、その声の正体に私は確信をしながら声のする方向へ振り返った。
そこには、吸い込まれるような黒色の髪と目をした少女が立っている。
「少し振りだな、ルウ」
「…夢じゃ、無いん、だよね…?」
ルウは声を掠れさせながらそう聞いてきた。
「あぁ、死んだとでも思ったか?」
「…うん」
少し茶化して返事をしてみようとしたが、小さく返事が帰ってきただけだ。
まぁ、あんな死ににいくような事を言ったらそうもなるか…
…笑ってくれるような洒落た台詞の一つでも言えたらいいんだがな。
「…すまなかったな」
「許さない」
謝ると、直様そう返事が帰ってきた。
許して欲しいから謝った訳じゃないが、ここは許してから歯の浮くような事を言われるような所では無いのか。
仕方ない事かもしれんが…
「…許してもいい。けど、代わりに…」
「代わりに?」
そう言ってルウは押し黙ってしまう。
顔を下げ、ポロポロと涙を流していた。
大丈夫、そう言いながら撫でてやるとルウは泣き声になりながら小さな声で言った。
「私を置き去りにしないで、置き去りにするくらいならその手で殺して」
「…あぁ、約束してやる。だが、その日を訪れさせるつもりは無い」
そんな事を言うルウの頭を抱き、私は告げた。
「…さて、一段落ついた所で行くとしようか。レイ、勿論行けるんだよな?」
「…あぁ、もちろんだよ」
皆に声をかけ、扉の向こう側へと話しかける。
そうすると扉の裏側から、そう声が聞こえて白衣を着た赤髪の男が現れた。
「行くとしようか」
そう言ってレイはこちらに手招きをしてゆっくりと歩き始めた。
キトラ達がその後ろに続き、そのまた後ろに私達が続く。
「ルウ、行くぞ」
声を掛け、私はルウの手を取った。
― ― ― ― ―
sideキトラ
解せぬ。
ルウがエンドをすごく心配してたから空気を読んで私の番を待ってたと言うのに…
何も無いまま移動を命じられてしまった。
エンドは私に勝ったし、私の兄的な存在と言う事から従うが、たまには褒めてくれたりしてくれてもいいんじゃないだろうか?
「こんな事ならルウの事気にするんじゃなかった…」
私もなでなでとかぎゅーとかされたい。
そんな事を思いながら馬車に乗り込み、窓側に座り込んで街を眺める。
窓から見える景色には見覚えがあった。
外殻の中で唯一スラムが無いアルカナ区だろう。
貴族や王族が居る内殻や中枢にはスラムが無いのは当たり前だが…
外殻にスラムが無いのは珍しい事だ。
私が統治を行う前は皆がよく盗みに入っていたものだが…
…私が居なくなって、皆はどうしてるだろう?
皆が乗り込み、走り出した馬車から風景を見ていると、とある景色が写り込んだ。
パンがたくさん入った籠を持ち走る子供達と、それを追いかける大人達。
それを見た私は馬車から飛び降りていた。
別にあの子供が可哀想、助けなきゃなんて何も知らない貴族のお嬢様みたいな事は考えてない。
ただ単に、あの子供が無様で憐れ過ぎて温情をやろうと言う気分になっただけだ。
「そこの人、手を出すのは少し待って貰えない?」
子供達を一瞬で捕まえた私は、そう言って大人達を止めた。
それを見て大人達はすぐに止まって膝を付く。
今の私は貴族のような格好をしているのだから当然だ。
貴族はこの国に置いて力の象徴。
遊戯で殺されるなんて事も当たり前、文句を言ってはいけないのだ。
そんな貴族に逆らう奴なんて狂人か、強大な力を持つ者だけだ。
「子供、そのパンを返しなさい」
そう言って睨むが、誰も睨み返すだけで返そうともしない。
馬鹿だ、このまま帰ってもそのパンを狙った皆に殺される癖に。
「…返す訳無いだろ?」
「返せ」
子供が返さないと言うので、少しずつ腕を握り締めていく。
私の力なら腕を千切る事も容易だ。
少しずつ力を込めていくが、子供は返そうとせず、私を睨みつけるだけ。
肉はもう潰れかけ、後少しで腕はもう壊れるだろう。
しかし、子供が離す気配は無い。
「チッ…そこの人、これを上げるから勘弁してあげて」
そう言ってレイから貰ったネックレスを投げ渡す。
貴金属が豪華にあしらわれているが、レイからしたらこんなの端金らしい。
羨ましい事だ…
それを受け取った大人は全員走り去っていった。
「…さて、そこの子達。貴方達さ、そのパン持っていってどうするの?」
「そりゃ、皆で食べて…」
馬鹿だ、裏路地ですら危ないと言うのにスラムにそのまま持っていくつもりか。
絶対殺されるに決まっている。
「隠さずにそれ持ってくなら、確実に殺されるよ?」
「え…」
こんな当たり前の事も知らないなんて…
最近何かあってスラム堕ちしたのかもしれない。
…しかし、素性を聞くのはスラムじゃ違反だ。
「はぁ…炎華から貰ったと言って事情を説明しなさい。きっと助けてくれるわ」
「炎華!?あ、貴方が!?」
そう言って私の髪留めを渡すと、子供達は割れ物でも扱うかのようにそれを受け取った。
それを見届けた私は手を振り、裏路地から出ていった。
「異様な慌てようだったね?」
馬車に乗り込もうとすると、後ろからレイの声が聞こえた。
「…なんの事でしょーかね」
そう答えて私はまた馬車に乗り込み、先程居た位置へと座り込んだ。