聖獣と新機能
メル率いる盗賊団を捕まえたサラとアッシュ。だがそこに風の聖獣テンペストペガサスがやって来た。
「ねぇ、なんであの子はあんなに怒ってるの?」
「なんでってそれは・・・」
「起こしたのね」
「・・・あぁ、そうさ」
「アッシュ、自警団の人も聞いて。もしかしたらこの村は後形も残らず無くなるかもしれない。私が時間を稼ぐから、自警団のみんなは村人を全員避難させて。ここからならマリア町の方角が安全だと思う。アッシュは私について来て」
「わ、わかった!」
【了解した】
自警団の男はサラの指示に従い、自警団のメンバーと協力して村人を避難させるために動き出す。サラはメルを縛っている縄を解いた。
「な、なんのつもりだい!」
「あの子が本気で暴れない内に仲間を連れて逃げなさい」
テンペストペガサスはまだ暴れる様子は無い。体を震わせ、ギリギリで意識を保っているようだ。サラはメルに盗賊団員が捕われている牢屋の鍵を渡す。
「後で何があったか教えて。それと、自警団の人達と協力してみんなを安全な場所まで連れて行ってあげて。出来るだけ村から離れて」
「アタイは盗賊だよ。そんな約束守るわけ・・・」
「いいからみんなを連れて行きなさい!死にたいの!!」
普段のサラからは想像も出来ない険しい顔、そして気迫。それに押されたメルは何も言い返す事もなく、部屋を出る。牢屋から出た団員と共に村人の避難誘導に動き出した。
【この状態、レオンと同じ暴走状態にあると見られる】
「てことはやっぱり」
【デウスエクスマキナが関与しているに違いないだろう】
「あの子、私に助けを求めてる。必死に暴走しないように抑えてる。でも」
テンペストペガサスの気性が徐々に荒々しくなり、完全な暴走状態へと入ってしまった。
【来るぞサラ!】
「任せて!グランティックマグナ!」
テンペストペガサスが翼を大きく羽ばたかせ、発生したかまいたちが二人に向かう。サラは地属性の最上級魔法グランティックマグナ。増大した大地のエネルギーを一つに集中させ、かまいたちに向けて飛ばす。双方の攻撃はぶつかりあい、大きな爆発を発生させた。爆煙の中からかまいたちがサラ目掛けて飛んでくる。サラの前にアッシュが立ち、分厚い盾を作り出しかまいたちを防ぐ。
【サラ、君に渡したブレスレット。あれには特殊な機能が付いている】
「それは何?」
【ワタシの新たな姿だ。その姿になるにはワタシのマスターである君の承認が必要なのだ】
「どうすればいいの?
」
【ブレスレットに付いている紅い宝石を押し込み、チェンジバトルモードと叫ぶんだ】
サラはブレスレットに装飾されている紅い宝石を押し込む。
「チェンジ!バトルモード!!」
サラの声に反応した腕輪が光を放ち、それに共鳴したアッシュも光り輝く。アッシュの周りには重力フィールドが発生し、かまいたちを防ぐ。
「こ、これは・・・」
【これがワタシの、もう一つの姿だ】
丸みを帯びたボディとはかけ離れた長身の鋼の身体。白から黒へと色が変わり、熱を放射する。これがアッシュの新機能、バトルモードだ。
【サラ、ワタシと共に戦おう】
「ええ!もちろんよ!」
重力フィールドが消滅し、連続して飛ばされたかまいたちが二人を襲う。だがその場には既にサラとアッシュの姿はない。
【ミサイルバースト!】
アッシュから発射された無数のミサイル。テンペストペガサスが発生させる風によって破壊される。
「アクアトルネード!」
テンペストペガサスが飛行するその真下からサラは巨大な水の竜巻を発生させる。周囲に逃げ場を無くしたテンペストペガサスの行き先は空。空へと駆け上がるテンペストペガサスを待ち構えていたアッシュは粘着性の強い糸で羽を縛る。羽が開かず、かまいたちを封じることに成功したアッシュはテンペストペガサスを捕まえ、地上に向かって投げ飛ばした。宿の屋根を突き破り、中へと落ちたテンペストペガサス。サラは状態回復魔法クリアを使用。暴走状態を鎮められるか確かめる。
「お願い、効いて・・・!」
【そのまま続けるんだ】
地上へと戻ってきたアッシュはテンペストペガサスのコアに触れる。
「どうするつもり?!」
【ワタシを経由して余剰エネルギーを外へ出す。力を使い切れば、暴走も治るはずだ。サラはテンペストペガサスの暴走を抑えててくれ】
「お願いねアッシュ!」
テンペストペガサスのコアに溢れるエネルギーをアッシュは左手を経由して右手から空上空へと余剰エネルギーを流す。膨大なエネルギーはアッシュにとっても大きな不可がかかり、オーバーヒートを起こす。
「だ、大丈夫なの!?」
【問題・・・ない・・・ワタシは・・・大、丈・・・夫だ】
「お願い早く元に戻って!!」
【うおおおおおおおおおおお!!!!】
空へと上がる一筋の光。その光は徐々に消えていった。テンペストペガサスは自我を取り戻した。が、聖獣のエネルギーを取り込んだアッシュはそのボディに大きな損傷を受けることになった。アッシュは通常形態に戻り、冷却状態に移行する。白い煙をかき分け、サラは涙を流しながらアッシュに呼びかける。
「アッシュ!アッシュお願い目を覚まして!ねぇお願い!」
【ワタシは大丈夫・・・だ。魔法の力、侮れないようだ】
「アッシュ・・・!もう、こんな時までそんなこと言って・・・」
【テンペストペガサスはどうなった?】
『ここにいますよ』
自我を取り戻したテンペストペガサス。寄り添う二人に近づき、顔を見つめる。
『サラ、あなたと再び会えた事大変嬉しく思います。できればこのような再会はしたくなかったのですが』
「そうね・・・。でも、あなたが元に戻って良かった」
『そしてそちらの白いゴーレム。いえ、異世界からやって来たロボット』
「アッシュのことを知っているの?」
『その事も含めて、あなた達には話さなければならない事だと思います』
ボロボロになった家の破片などを片す村人達。メルを除く盗賊団のメンバーも片付けを手伝っていた。
サラとアッシュ、メルとテンペストペガサスは集まり、一連の出来事を説明してくれた。
「アタイはある情報を聞きつけて、風の谷にやって来たんだ」
風の谷。風が吹き荒れる大きな谷。常に竜巻が発生しており、その中にはお宝が眠っていると言われている。
「ある情報って?」
「竜巻を消す方法さ。何人ものトレジャーハンターが断念せざるを得なかった風の谷の宝。手に入れたとなれば一生遊んで暮らせる財産は手に入るからね」
「でもその竜巻の中にあるお宝って確か・・・」
『はい。私の力の源であるテンペストオーブです』
「アタイは竜巻を消して、その中心にある祭壇からテンペストオーブを獲った」
『その同時刻、私を襲った者の手により暴走状態に陥りました』
「風の谷に戻ってきたテンペストペガサスが暴れまわって、命からがら逃げたはいいけどどこまでも追ってくる。命の危険に晒されたアタイ達を見たローブを被った男が交渉してきたのさ。そのゴーレムを捕まえてきたら、テンペストペガサスを封印出来る魔道具をくれるってね」
「それがテンペストペガサスが暴走した理由と、メルがアッシュを狙った理由ね」
「聖獣を封印出来る魔道具なんて聞いた事もないけど、追い詰められてたアタイ達にとっては喉から手が出るくらい必要なものだったからね」
【だが、これで話は繋がった。メルを利用し、力の源であるオーブを盗ませ、弱体化したところ暴走状態にさせる】
「暴走したテンペストペガサスを封印させる為にメル達を私たちの元へ送り、アッシュを捕まえるのに失敗してもテンペストペガサスに私たちを倒させるつもりだった・・・ってことね」
「サラ、アッシュ。アンタ達のおかげで、アタイ達は助かった。本当に、感謝してもしきれないよ」
「あなたこそ。逃げずにこうして話してくれてありがとう。で、テンペストペガサス。あなたはどうしてアッシュの事を知っているの?」
『詳細についてはわかりません。しかし、このゴーレムがこの世界に来た時、結界に穴が空いた事を感知しました。サラ、あなたはカリオストロの物質召喚魔法を使いましたね?』
「ええ!?あんたあのカリオストロの本読み解いたのかよ!」
「時間はかかったけどね。でも、結界はすぐ閉じるはずよ」
『確かに結界はすぐに閉じました。ですが結界より外側の異界との繋がりはまだ閉じてません』
「・・・あ、そういうこと?」
「な、なんだよどういうことだよ」
「あー、つまりその穴からこの世界に来た奴があなた達を利用したってこと」
「な、なんだよそれ!」
『我々四大聖獣は結界の外に出来た異界と繋がった穴を塞ぎます。サラ、助けてもらった身分として言いにくいのですが、この問題の発端はあなたにあります。協力してくれますね?』
「わかったわ。こうなった以上、魔術師の名にかけて責任を持って問題を解決する」
『私は他の聖獣と合流します。彼らも世界の異常を感知しているでしょう。そしてなにより、私のように襲われる可能性もあります』
「私はどうすればいいの?」
『あなたには宝具を集めて貰います』
「炎の剣、水の盾、土の鎧、風のマントね」
『はい。勇者レクスがその身に纏い、大魔王を封印した後世界の各地に散らばった宝具を集めてほしいのです。オーブが力の源なら、宝具は力を強める。聖獣の元に戻りし時、私達は真の力を取り戻す事が出来ます』
「闇雲に探してもダメね。ねぇ、メル。あなた盗賊ならそういう情報聞いた事ない?」
「宝具・・・。それなら、一つ在りかは分かるよ」
「ほんと?それはどこに?」
「ちょうど近くにある帝都ゼーガルドにさ。あの帝都の王様がオークションで水の盾を競り落としたとか」
「てことは水の盾は城の中にあるのね?わかったわ」
「まさか盗むつもりか?」
「貸してもらうだけよ。あそこには顔見知りもいるし、話も聞いてくれるはず。で、メル達の処遇についてなんだけど」
サラの言葉に、メルは表情を変える。覚悟を決めたのか、その表情に不安はない。
「今回の話し合いで、メル達には特別な刑が決まった。まず盗賊団の人達には散り散りになって各地の情報を集めてもらうわ。全員にはアッシュが用意した腕輪をつけて貰って、常に監視させてもらう。そしてボスであるメルには私達について来てもらう」
「あんた達の旅に・・・?」
「これから大きな戦いが起こる。勇者レクスは既に戦いに備え動いてる。私達も事態の解決の為に戦力集め、各地に忠告と警戒の呼びかけ、そして勇者と共に戦った仲間達を探す旅をしてるの。あなたも、やられっぱなしじゃイヤでしょ?それとも、仲間達と一緒に牢屋に入る?」
「・・・特別な刑って事は、役目を果たせばそれなりに刑は軽くなるってことだよな」
「もちろん」
「わかった。アンタ達の旅に着いて行く」
「よろしくね、メル」
「あぁ、二人ともよろしくな」
【よろしく頼むメル】
新たに旅に同行することになった盗賊のメル。次なる目的地、帝都ゼーガルドを目指す為に今日は村で休む事に。しかし、今回のテンペストペガサスとの戦いで、アッシュはその機体に大きなダメージを負ってしまった。これから待ち受ける戦いは、どれほど強力な敵が待ち受けているのか、誰にもわからない。
ただいま本文修正中につき次回投稿未定