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魔術師と白いゴーレム

 ここはどこかにある世界の1つ【クロノア】。いわゆる異世界である。かつて大きな戦いがこの世界に起こった。『魔導戦線』と呼ばれる、魔族と人族の戦い。聖獣に与えられた宝具を身につけた勇者率いるパーティーの死闘により、大魔王は封印された。そんな大きな戦いも、今や過去のものとなりつつあるほど時間が過ぎていった。小さな島に独り暮らす女魔術師サラは、長年の夢であった魔法をついに解読した。


「ふふふ・・・。やったわ!これがかの有名なカリオストロが編み出した魔法、物質召喚!!」


物質召喚とは、ここではないどこかと魔法陣を繋げて物質を召喚するというもの。内容は至ってシンプルなものだが、間違った使い方をしてしまうと使用した者が逆に飛ばされかねない。使用する魔力の調節や陣を形成するための精神力が必要になる。


「ではでは早速行くわよ〜」


溢れる高揚感を抑えられず、すぐさま陣を描いて行く。小さな小屋の床に壁ギリギリまで大きく描かれる円形の魔法陣。描き終えたら意識を集中し、魔法陣に魔力を注ぎ込む。


『我が魔力を持って顕現せよ、異界の物質よ』


蒼く光る魔法陣は更に輝きを増し、陣が浮き出てくる。下から上へと行くにつれ、陣の中央には何か巨体な物体が姿を現していく。その物質が完全に召喚されると、魔法陣は輝きを失った。


「へぇ〜。これが異界の物質?でもなんかおかしいわね。物質というより、組み上げられたゴーレムみたい。私的には巨大な鉱石が欲しかったんだけど、まぁ成功しただけでも万々歳ね」


巨体な物体はかなり不恰好だが丸みを帯びた白いボディ。とても珍しい姿形をしている。


「じゃあ早速どれくらいの値打ちがあるか見て貰おうかしら。レクスに手紙出さなきゃ」


机に向かうサラは紙とペンを用意する。筆先をインクの入ったボトルに刺すが、インクはほぼ空っぽになっていた。


「あちゃーインク切らしちゃってた。どうしよう、次の船っていつだっけ?」


この離島にはたまに定期便の船が食糧や日用品を持ってきてくれるのだが、次に到着するのは3日後。二人ほど乗れる小型の船があるため島との行き来が出来ない事もないが、現在魔導エンジンが故障しているため漕いで行くとなると4日はかかってしまう。


「どうしたものかなぁ」


何者かに肩をつつかれるが手で払う


「今考え事してるから」


再び肩をつつかれる。


「もうしつこい」


振り向くと、そこには先程召喚したゴーレムが背後に立っていた。


「・・・疲れてるのね。まぁ、徹夜で何日も読み解いてたし、久しぶりにたくさん寝ろうかしら」


フラフラになりながらベッドに潜り込み、サラはそのまま眠りにつく。遂に成し遂げた魔法に達成感を感じ、良き夢を見るのだった。


–翌日–


 丸一日睡眠を取ったサラは起き上がる。ふと横を見ると、そこにはいたはずのゴーレムが居なくなっていた。


「あれ?あのゴーレムどこ行ったの!?というかあいつ本当に動いてたの?!錯覚じゃなかったの!?」


慌てふためくサラだったが、台所から何やらいい香りが部屋まで届き、急いでキッチンに向かう。そこには昨日召喚したゴーレムが料理を作っていた。ゴーレムが勝手に動き出すどころか料理を作り始める。今までにない出来事に思考が停止してしまったサラ。テーブルには焼けたパン、薄切りのベーコンを下にカラコ鳥の卵を焼いた目玉焼き。キノコのサラダが置かれていた。ゴーレムに食べるように促され、言われるままイスに座り、フォークを取って恐る恐る口に運ぶ。


「うまっ」


きちんとした味付けの料理など久しぶりの事で、すぐさま完食してしまう。空腹が満たされた事で思考が戻り、ゴーレムに問いただす。


「そうよ!あんたいったい何者!?ゴーレムが勝手に動くなんて聞いた事ないわよ!?」


サラの問いに答える事なくゴーレムは食べ終えたサラを洗い始めた。


「まぁ、ゴーレムが喋るわけないか」


その後に部屋の掃除、小屋の修理など、いつも自分がやらない事を勝手にやり出した。しばらくすると小屋の外に出て日光を浴びるかのようにじっとし始める。振り返ると小屋はすっかり綺麗になり、清潔感に溢れていた。


「うわぁ・・・。どんだけ掃除してなかったんだろう私」


魔法の研究にかまけていたため、女としての料理や家事の腕は全くないサラ。謎の敗北感が芽生える。


「はぁ・・・そういえば、私もう30超えてるんだっけ。途中から歳数えるのやめたから今いくつか覚えてないや」


サラは16の頃に家を飛び出し、世界のあちこちを回って魔法を学んで来た。20歳でこの島にたどり着き、10年以上に及ぶ魔法の解読は予想外の物を呼び寄せてしまった。1時間ほど外にいたゴーレムは小屋に戻ってくると、今度は昼食の準備をし始めた。


「異世界のゴーレムってすごいのねぇ。動力は魔力じゃないのよね」


【ワタシは万能型ロボットO-TTDI】


「喋った!?」


【キミの難解な言語の解読に時間を要した。つい先ほどを持って解析し、インプットした】


「私の難解な言語って事は、やっぱりこことは違う異世界からやって来たのね!」


【キミの言う異世界とは、ワタシが元々いた場所の事を指しているのだろう】


「はぁー!!てことはやっぱり異世界は実在していたのね!」


【ワタシが元々いた世界にも、古くからそういった異世界に関する物語は存在する。が、これまで実際に存在する異世界は確認されたことはない】


「へぇ〜。あなたの世界の人たちって凄く想像豊かなのね」


【人間が考えた娯楽の1つに過ぎない】


「私達の世界にも物語が綴られた書物はあるけど、どれも過去の王家の話や偉大な勇者とかそんなばっかりだからねぇ。娯楽といえばコロッセオや大道芸とかの見世物の方が人気ね」


【ワタシからも聞かせてほしい。この世界を知りたい】


「この世界は普通の世界よ。人がいて、魔獣がいて、魔法を使う。最近は機械の発達も進んで何かと便利なのよ」


【この世界の機械技術はワタシがいた世界とは異なる技術が使われているようだ】


「それってもしかして魔法のことだったりする?」


【あの世界に魔法はない。ワタシに魔法というものを見せてほしい】


「いいよ。ちょっと外に出ましょうか」


サラとゴーレムは外へと赴き、少し広い庭で魔法を実践して見せることにした。


「私は魔術師。魔術師は基本的な魔法を使えるようになって初めて名乗れる肩書きなのよ。例えば炎」


サラの手のひらには小さな炎の球体が現れた。そして次に水、風、土。四大元素は魔法の基礎であり、これらを使えて初めて見習いから初級魔導師になれる。


「次は特殊魔法だけど、そうねぇ。ちょっと杖を持ってくる」


小屋から杖を取ってきたサラは杖に魔力を込め、杖先をゴーレムに向ける。


『パワーライズ』


呪文を唱えると、ゴーレムに赤いオーラが現れる。しかしオーラはそのまま拡散して消えてしまった。


「あら?消えちゃった」


【今の魔法はなんだ?】


「これなら特殊魔法ってやつなんだけど、さっきの四大元素を操る魔法と違って、これは魔力を誰かに与える魔法なのよ。さっきのパワーライズなら、一時的に力を高める効果があるわけ。うーん、ゴーレムでも効果があるはずなんだけど」


【おそらく、それはワタシに魔力がないからだと思われる】


「あー、そっかぁ。やっぱり動く為のエネルギーも違うのねぇ」


【ワタシは光や電気、熱や風力のエネルギーを変換できる。そのため、理論上は半永久的に動くことが可能だ】


「ゴーレムも魔力を補給出来れば数百年にも及ぶ活動が確認されてるし、根本的な部分はあなたとゴーレムは同じ存在であるってことか」


 目の前の白いゴーレムは、何もかも謎に満ちた存在であることを改めて確認したサラ。ゴーレムは満足したのか、【感謝する】といって小屋に戻っていった。

ゴーレムに晩食を振舞われ、味覚も胃袋も満たされたサラ。これほどちゃんとしたご飯は久しぶりのことだった。


「あー食べた食べた。あなたってなんでも出来るのね」


【ワタシに魔法は使えない】


「知ってるわよ。でも、実際人の役に立つのって魔法よりも人の知恵や能力だったりするのよ。魔法じゃ家は建てられないし、人の知恵無くしては魔法も生まれなかったんだから」


【だが、行き過ぎた知恵や能力はやがて人を退化させる】


「どういうこと?」


【ワタシが生まれた経緯。それは労働力の確保という単純なものだった。しかし人間はそれだけに止まらず、一体のロボットにあらゆる機能を備えた。それらをこなす為の超AI、あらゆる行動を可能とするボディ。そして遂には武装すらも。全てを機械に任せた人間は、人としての進化を捨て、退化していく道を選んだ】


「な、なんかすごい大変な事になったのね」


【ワタシがいた世界はもう長く持たない。全てを機械が支配し、人間は滅びる】


「えぇ・・・」


【振舞われた料理、作業のように口に入れ、何も言わずに進められる食事をする彼らだが、君は彼らとは違う顔をしていた。あれはなんだ?】


「あれは美味しい顔っていうのよ。人、いや生き物はね、美味しいものを食べると笑顔になれるの」


【君は美味しいものを食べたのか?】


「そう。あなたの作る料理、とても美味しかったわよ。本当にありがとうね」


【人は料理を作る際に真心というものを込めるとデータにはある。だが、ワタシはそんなものは込めていない】


「理屈なんてどうでもいいのよ。あなたが私に作ってくれたのは間違いないでしょ?」


【人間の思考は理解しかねる】


「ゴーレムの考えもね。そういえば、1つ聞いておきたいんだけどさ、あなた、もし元の世界に戻れたら戻りたい?」


【あの世界は既にワタシを必要としていない。ワタシの代替えなどいくらでもいる】


「そう、じゃあこれからはあなたと私はパートナーね。あなた名前は?」


【ワタシは万能型ロボットO-TTDI】


「それって多分種類の名称のことでしょ?そうね・・・アッシュなんてどう?」


【アッシュ。それがワタシの名前か?】


「そう!いいでしょ?私はサラ、よろしくね」


【データを上書き。機体名をアッシュに変更。マスターをサラに登録】


「よぉし、これから忙しくなるわよ!なんたって、異世界のゴーレムですもの。きっと世界があなたに驚くわ!」


魔術師サラと異世界の超AIロボット、アッシュは出会った。サラとアッシュ、二人の冒険が今始まろうとしていた。

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