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捨子の嫁ぎ先  作者: ちゃろの助
本編
8/16

○花嫁 ー 07

よろしくお願いいたします!!


「これ、全て昼食の分ですか⋯!?」


ルバーフおじさまが案内してくださった部屋は、孤児院の裏の建物の一室だった。


テーブルの上には、たくさんのお料理。

どれもとても美味しそうだが、問題はこれが晩餐と同じくらいの量であることだ。


「ん?そうだね。料理人達はリシアスがとても好きだから、張り切っているようだ」


ははは、と笑って、ルバーフおじさまが椅子に腰掛ける。

ルシフェンもお行儀良く背筋を伸ばして、椅子に座っていた。




「⋯⋯さて。今日は一体、陛下と何があったんだい?」


「⋯⋯っ!?」



びくりと、肩が大きく跳ねる。


「リシアスさま、陛下にいじわるされたのっ?」


ルシフェンも衝撃を受けているようだ。



「なっ、なんのことでしょうか」



慌ててしらを切ると、ルバーフおじさまが苦笑する。

ルシフェンは「リシアスさまはいじわるされてるの?ねぇねぇ、お父さま」と、ルバーフおじさまに詰め寄っていた。


「リシアスがここに来るときは、なにかしら理由があるだろう?ルゼットに用があるわけでもないようだからね。陛下と何かあったとしか考えつかないよ」


ぐ、と言葉に詰まる。

確かに、お菓子を子供たちにあげる為だけに、ここを訪れたことはない。

定期的に来てはいるものの、いつもはルゼットに用があるから、などと理由をつけていたのだ。



「当たり、です⋯」



がっくりと項垂れて、視線を落とした。


ルシフェンが固まる。

まさか、陛下と本当になにかあったなんて、と思っていることが、手に取るように分かった。



「お、お父さまっ!わたくし、小さい子と遊んできますわねっ」


ぎこちなくそう言って、パンを両手いっぱいに持ち、ルシフェンが駆け出した。

ルバーフおじさまはヴェネさんに、あとからルシフェンの部屋に、昼食を持っていくようにと指示を出す。



ルシフェンにまで、迷惑をかけてしまうとは。



私が来なければ、ルシフェンはここで昼食を食べていただろう。

ますます落ち込んでしまい、ワンピースの裾を握った。


「リシアス?ううむ、君は落ち込みやすいね。それより、何があったのか、話してくれないかい」


大丈夫だよ、と言って、ルバーフおじさまは料理に手をつけた。


何があったのか。

それは、


「今朝陛下に、婚約の話が出たと、聞きました」



ずきりと、胸が痛んだ。

我ながら、陛下に過ぎた好意を寄せていると思う。


婚約の話を聞かされただけで。

それをこうして口に出すだけで、胸がこんなにも痛む。


きゅ、と唇を噛んだ。


しかしルバーフおじさまは少し考えて、また笑っていた。


「陛下は、誰と婚約する話が出たと言っていた?」


笑いを堪えつつ、私にそう問かける。


誰との婚約?




⋯⋯誰とだろう。




「誰とかは、まだ聞いていなくて⋯」



今夜また話すと言っていたことを思い出した。

しかし、誰と婚約するのかくらい、朝教えてくれても良いではないか。


「今夜また話す、と」


そう言うと、公爵は


「へぇ⋯⋯ともかく、リシアスは婚約がしたくないんだね?」


そう確認するように言った。




⋯⋯そうなのだろうか。




初恋を断ち切る最大の機会(チャンス)

人間を嫁にするなど考える魔人は、そうはいない。

今回を逃したら、私は一生一人でいることになるのかもしれない。




────でも、でも。





「そう⋯です」


曖昧に頷いた。

一生一人で生きていこうが、陛下に捨てられようが。

あの人以外のもとへ嫁ぐ気は、さらさらない。


この想いはけして叶わないものだと、私は知っている。


一人で生きていく(すべ)を学ぶにはまだ時間もあることだし、他の魔人と婚約など、したくないのだ。



すっ、となにか詰まっていたものが、なくなった気がした。



「そうか。じゃあ、私から陛下に頼んでみよう」


え、と驚いた顔をするものの、


「お願いします⋯」


頼むことにした。

どうせ自分から言ったところで、聞き入れてはもらえないだろう。


「ヴェネ、紙とペンを」


そう言って紙に、婚約に関する内容を書いて、


「陛下に頼むよ」


ヴェネさんに渡した。


何から何まで、ヴェネさんに頼んでしまって、ごめんなさい。

心の中で謝罪しながら、ルバーフおじさまの方に向き直る。


「ルバーフおじさま、ありがとうございます」


お礼を言って、顔を上げた。

が、その直後、私は目を疑う。


──ルバーフおじさまが、心底面白そうに笑っていたからだった。



「ふ、はは、ごめん、ごめんよ。笑いが止まらなくてね。きっと今夜、なにもかもが上手くいくよ」



肩で息をしながら、ルバーフおじさまはそう言う。


「⋯?」


今夜、なにもかもが上手くいく。

婚約はしたくないという要望が通るというとこだろうか。




疑問に思いながら、あとはたわいもない会話をした。









食事が終わり孤児院の庭に出ると、ちょうど同じようにお昼を食べ終わった子供たちが遊んでいる。


お菓子を配り、本を読み、鬼ごっこをした。


結局ルゼットは来なかったけれど、キャンディだけはルシフェンに託す。



遊んで、休憩をして、また遊んだ。



遊びという遊びを一通り終えたころ、既に時計の長針は5時を指していた。



子供たちと遊び尽くした私は、昼食の時感じた疑問について考えながら、王城へと帰るのだった。


ありがとうございました!!

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