○花嫁 ー 06
ブクマ10件、ありがとうございます⋯!!
よろしくお願いいたします!
優しくて、仕事もできる。
面倒見も良いし、なかなかの美形だ。
いわば、ルゼットは理想の男性だろう。
あぁ、これほど恋に落ちるに足りる人が、近くにいるというのに。
私はなぜ、王を──────。
朝のことを思い出してしまい、慌てて頭を振った。
とにかく、ルゼットは優しいのだ。
誰に対しても誠実で、いつか騙されやしないかと心配になるほど。
賢い彼は騙されたりなどしないのだろうけれど、身分に容姿、優しさを併せ持った男性など、令嬢の格好の的である。
「リシアスさま、いきましょ?」
ルシフェンに見上げられて、
「ふふ、お願いね」
そう返事を返した。
ルシフェンは「おまかせくださいませ!」と胸を張る。
そんなことを言う姿もまた愛らしい。
何をしても可愛らしいのは、小さい子の特権であるけれど、ルシフェンはまた何倍も可愛く見えてしまう。
またもや緩んでしまう頬を必死に引き締めながら、この子は将来、きっと美しい令嬢になるのだろうと思った。
「ルゼット、ありがとう。暇ができたら、孤児院のお庭に来て。お菓子を用意して待っているから」
ルゼットにお礼を言って、お菓子のことももう一度伝える。
再び歩き始めたルシフェンを追いつつ、朝のことはしっかり、頭の更に隅に追いやった。
*
─────コンコン。
歩き始めて少しすると、一際大きな扉の前に着いた。
扉の上には『院長室』と、金色で刻まれている。
「院長様、お久しぶりでございます。リシアスです」
扉を2回ノックして、「どうぞ」という声を聞く。
もう一度、
「失礼します」
そう言ってから、扉を開けた。
部屋の窓の前に立つ、50代半ばの男性。
その髪はルゼットやルシフェンと同じ赤茶で、
瞳も薄い茶色だ。
年相応の皺を刻んだ、優しい顔立ちのその人こそ、この孤児院の院長様である。
「院長様、なんて堅苦しい呼び方はやめておくれよ。昔のように、ルバーフおじさんと呼んでほしいな」
柔らかく笑う、院長様改め、ルバーブおじさま。
幼い時から度々顔を出す私を、いつも優しく迎えて下さっていて。
このやりとりは、お約束である。
「では、ルバーフおじさま。改めまして、お久しぶりです」
「お父さまっ!わたくし、しっかりリシアスさまをおつれしましたわ!!」
淑女の礼をして、改めて挨拶をした。
隣では、ここまで案内をしてくれたルシフェンが、褒めてといわんばかりにルバーフおじさまに抱きついている。
「ははは、とても久しぶりだね。寂しかったよ。1ヶ月ぶりだろう?あぁ、こら。ルシフェン。人様の前だ。わきまえなさい」
笑いながら私の頭を撫で、その笑顔でルシフェンをやんわりと叱った。
このグライマ一家は、皆人間である。
ルバーフおじさまも、ルゼットも、ルシフェンも。
皆、私と同じ人間だった。
そんな繋がりもあり、こうして孤児院を訪れているわけで。
「突然の訪問、申し訳ございません。その、来たくなってしまって」
今日の朝食のあと、ローラが連絡をしてくれた。
当日にいきなりの訪問とは、普通ありえないことなのだ。
それに、今はお昼時。
空は暗くとも光が多く、ましてやお屋敷の中は特殊な〝力〟でお昼時の明るさに調節されている。
そんな時間に唐突に訪れることが、どれほど迷惑なことか。
しゅんとしていると、ルバーフおじさまは笑って、私の頭を撫でた。
「嬉しいほどだよ。ほら、顔を上げて。お昼は食べていないのだろう?」
優しくそう言って、「私たちも今からなんだ。一緒にどうかね?」と付け足す。
「えっ⋯⋯」
それはあまりにも迷惑では⋯と言いかけたけれど、ルシフェンが爛々と目を輝かせているのを見て、
「ご迷惑でなければ、ぜひ」
そう言わざるを得ない気がした、なんて、都合の良いことを思った。
「うんうん。ヴェネ、用意を頼むよ」
ルバーフおじさまが扉の向こうに呼びかけると、「かしこまりました」と、声が返ってくる。
ヴェネさんは、私が初めてここに来た時からいる、お手伝いさんのような方だ。
人間と魔人のハーフ。
禁じられた存在。
そんなふうに呼ばれていたとき、ルバーフおじさまが引き取ったのだそう。
「さあ、行こう」
「リシアスさま、おてて、つなぎましょっ」
ルバーフおじさまの声とともに、ルシフェンが手を突き出す。
笑って、ルシフェンの手を取った。
そして、美味しい昼食の用意された部屋に向かって、歩き始めた──────。
ありがとうございました!!