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捨子の嫁ぎ先  作者: ちゃろの助
本編
6/16

○花嫁 ー 05

よろしくお願いいたします!!


北門から入り、大きな庭にでた。

遊んで、本を読んで、お菓子をちょうだい、とまあ、たくさんの声がふりかかる。


「院長様に挨拶をしてくるから、少し待っていてね」


そう言って庭を通り過ぎ、少しくすんだ白い建物の中に入った。


孤児院とは、赤子から10歳までの子供たちが暮らす、大きな施設(いえ)のことだ。

親に捨てられたにも関わらず、この孤児院の子供たちは、みなとても優しい。


しかし、改善されない悩みは、年々増えていくばかり。

捨てられる子供たちは、毎年必ず増えているのだ。

いくら厳しく取り締まっても、必ず。


拳をきつく握りしめた。


なぜ、子を捨てるような親がいるのだろう。

腹を痛めて産んだ我が子を、可愛がってやれないのだろう。

浮かび上がってくるいくつもの疑問は、答えがわからず消えていってしまう。


私は無力だ。

その現実を突きつけられたようで、更に、爪がくい込むほど、拳を握り直す。

顔がやるせなさに歪んだ時、




「⋯アスさま、リシアスさま?」




ふと、7歳前後の子供の声がかかった。

名前を呼び、心配そうな面持ちでこちらを見上げる少女は、私の知っている女の子だった。


「あら、ルシフェン!ごめんなさい、なんだった?」


問いかけた先には、可愛らしい笑顔。

先程の不安げな面影は既になく、愛らしい顔で、こちらを見上げていた。


「うん!今日はどーしたの?あそびにきてくれたの?」


うふふ、と言いながら、ルシフェンがくるくると回る。


ルシフェンはこの孤児院の院長様の、実の娘だった。

私と同じ人の子。

初めてそれを知った日、一体どれほど喜んだことか。


「うん、遊びにきたよ。今日はお菓子も持ってきたから、みんなで食べようね」


ぱあぁ、と顔を輝かせて、「やったー!」と喜ぶ姿は非常に可愛らしい。

純粋な子を見ていると、悩んでいたことがすっきりする気がする。


「院長様のところにいってくるから、少し待っていてね」


そう言って頭を撫でた。

赤茶の髪に、くりっとした目。瞳は茶色と、

よくある色だけれど、赤茶の髪は珍しい方だ。


丁寧に梳かされた髪はとても細く、左右に分けられて結われている。


「お父さまは今、『いんちょう室』にいるよ!私がつれていってあげる!」


ルシフェンはそう言って、にこにこと笑いながら、私の前を歩き始めた。


ルシフェンの家はなんと公爵家で、代々王に忠誠を誓っている名家だ。

魔国はかつて、争いによって人間の国の一部を手に入れていた。

当時、人間の国の王に見捨てられた一家を、素晴らしい公爵家に育てたのは、現陛下の曾お祖父様だそうだ。


ルシフェンのお父様は既に爵位を継がせていて、だからこそ孤児院を建て、自ら院長をしていらっしゃる。


ルシフェンの後ろを歩きながら、階段を上り、いくつもの部屋を通り過ぎた頃だった。



「リシアス!」



背後から突然名前を呼ばれて、勢いよく振り返る。

少し低めの、男の人の声。

耳に馴染んでいるこの声は、誰のものかすぐに分かった。



「ルゼット!久しぶりね」



ルゼット・グライマ。

ルシフェンと同じ赤茶の髪に、茶色の瞳。


ルシフェンの唯一の兄弟であり、現公爵様だ。

本来私が呼び捨てにしていい相手ではないのだけれど、本人からそうしろと言われては嫌とは言えない。


そして、彼も魔国に住む数少ない人間だった。

私の瞳のことを、なんとも思わないでいてくれる、希少な存在でもある。


「なんだよ、来てたなら教えてくれよな。1ヶ月ぶりなんだ。ルシフェンに独り占めはさせない ぜ?」


拗ね気味に、少し冗談を混ぜた言い方はルゼットの機嫌が良い時の証拠だ。

ふふ、と少し笑みを漏らし、


「今日はお菓子をもってきたの」


買ってきた30個のキャンディをルゼットに見せた。


「院長様に挨拶したら食べるのよ」


「ふぅん。父上はあそこの部屋にいるよ。俺がお連れしましょうか、お嬢さん?」


奥のひとつの部屋を指さしながら、私を見る。

そして、にやにやとしながら、ルシフェンをみた。


「なっ、おにーさま!リシアスさまは私がつれていってあげるのです!」


ぎゅっと抱きついて、「譲れません!」と言い張る様子は、とても可愛い。

頬が緩んで、少々気持ちが悪い顔になってしまいそうだ。



「はは、分かった、分かったよ。ルシフェンが連れていってあげような?」



可愛らしい睨みが効いたのだろう。

ルゼットの口から呻き声が漏れてしまったことが、なによりそれを証明してしまっている。

ルゼットは両手をあげて、もう一度分かった、と笑った。



ルゼットは、とても優しい人だ。

雑なところもあるし、言葉遣いだって乱暴な時もある。

それでも気遣いが上手くて、誠実だ。


それに、実は賢く優秀なことで、周りから認められていたりする。


ありがとうございました!!

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