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捨子の嫁ぎ先  作者: ちゃろの助
本編
4/16

●花嫁 ー 03.5

よろしくお願いいたします!!

早速、初のアルヴィルト視点です。


───10年前。

人間の娘を、湖の側で拾った。



王の庭と呼ばれる森に、ひとり横わたっていたのが、偶然目に止まったのだ。

木々の隙間からぼんやりと見つけた小娘は、のそのそと歩き始め、そして湖の方によろめいた。


「っ!」


咄嗟に身体が動いてしまった。

〝力〟を使い、小娘の腕をつかんでしまった。


自分でも信じられない。

たかが人間の小娘の為に、自分が〝力〟を使った⋯。


とりあえず無事を確認しようと顔を見た時、思わず驚く。


艶やかな黒髪は褐色の毛が混じっており、虚ろな瞳は紺青の色をもっていた。

死人のような青白い顔、形の良い唇は色を失っている。


紺青の瞳。

不吉な色と伝えられている色の瞳をもった小娘を見て、何故この森にいるのかを悟った。


この小娘は、美しくなる。

女を何万と見てきた、自分の本能が告げていた。


手元に置こう。

美しくなれば、そのまま置いておけば良い。

なにか役に立つようなら、王城で働かせる。

美しくもなく、なにも役に立たないのなら、捨てるなりなんなりすれば良いのだ。


傍にいた、永くの友人に告げる。


「ジェリグ、俺はこの小娘を、手元に置くことにする」


と────。










「おはようございます、陛下。本日は何用故のお呼び出しでしょうか」


凛と響く、美しい声。

紺青の瞳をもった小娘は、自分から見ても美しいと思えるほど、美しく育ったと思う。


誰もが振り向くような美女に育った───拾った時に共に居た、友人がそう言っていた。


紺青の瞳はぱっちりとしていて、高い鼻に、形の良い唇は赤みの強い桃色に色づいている。

小さな顔に、小柄な体。

華奢な体のわりに、女らしい体をしていると思った。


「あぁ」


返事は返したものの、少し素っ気なかっただろうか。

しかし、挨拶と同時になんの用かと尋ねられるのは、おもしろくない。



用がなければ呼んではいけないのか。



そう言ってしまいそうになり、口を固く結ぶ。

険しくなってしまう顔は少々怖いだろうが、仕方があるまい。


少し悲しそうにしている顔を見ないよう、顔を背けて、席に腰を下ろす。

そのまま、焼き立てのパンに手をつけた。


自分は、この魔国の王である。

魔人たちが暮らす、魔国の王。



『王は、魔国で力が一番強いものがなるものだ。邪魔なものを跳ね除ける力が、必要なんだよ』



それは、先代の王───父親から教わった、唯一のこと。

病弱だった父は、民の反乱により死んでしまった。

強いものが上に立ち、弱いものは下につく。

それが魔国だった。



「おまえ、婚約する気はあるか」



唐突に、小娘に尋ねた。


おまえや小娘と呼ぶのは、名前を知らないからではない。

ただの意地だった。

小娘が⋯自分を、陛下としか呼ばなくなったから。

そんな些細な理由だった。



⋯⋯ 。



返事がない。


なにか考えごとをしているようで、自分の声は聞こえていないようだ。


自分の声が、聞こえて、いない。



「⋯⋯」



ふつふつと、なにかが湧き上がってくる。

心臓が締め付けられたように痛む。

しかしそれをものともしない、別の感情に自分は囚われている。



怒りに似た、どす黒い感情。



自分といるというのに、自分の声が聞こえていない。

自分の声が聞こえないほど、一体何を考えているのだ。



もしや、男のことか。

どこぞの男のことを考えているのか?

心惹かれる男でも、見つけたというのか?


どこのどやつだ。

名前は。

容姿や、身分は。

力は自分より強いのか。

そんなはずはない。

ならば、潰してしまおうか?


感情はどこまでも昂る。

今にも爆発してしまいそうだった。



「おい、聞いているのか」



刺々しい物言いで、小娘に問いかける。


爆発してしまう前に。

こちらを向け。



⋯俺を、見ろ。



「っ、申し訳ございません、陛下」



驚いたように、自分を見た。

真っ直ぐに、こちらを見ている。


あぁ、と息をついた。

それで、それで良いのだ。

俺だけ、見ていれば。


「今日おまえと食事を共にしたのは、おまえの婚約の話がでたからだ」


今度はもう問いかけない。

おまえに選択する権利など与えない。


俺のことだけ見ていろ。

俺に、惚れてしまえ──────。



そう思いかけたところで、ふと気がついた。

自分はなぜこうも、小娘を自分のものにしたいのだろうと。


分からない。

分からないが、他の、俺より弱い男を見るならば、自らに縛り付けておこうと思った。

それだけだった。


「あ、あの⋯」


じろりと、小娘をみる。


「考えて、おきます」


怯えたような声。

それも気に食わなかったが、考えておくだと?王の妃として婚約してやると、そう言っているのに、喜ばないのか?


想像していた答えと、あまりにもかけ離れた返答に、ぽかんとしてしまった。

無論、顔には出さないが。


大きな足音が聞こえてきた。

きっと、ジェリグだろう。

あぁ、婚約のことを聞きつけてきたな────。



「アルヴィルト!!リシアスが婚約だって!?」


「朝から騒々しいぞ、ジェリグ。おまえは一応、この国の宰相になのだ」



ありがとうございました!!

肝心の『自分との婚約』と言うのを言い忘れていますね、アルヴィルト陛下。

変なところで抜けている、強引な王様です。

リシアスに向けるものが独占欲だと気づく日は遠い⋯笑

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