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捨子の嫁ぎ先  作者: ちゃろの助
本編
3/16

○花嫁 ー 03

よろしくお願いいたします!!





どちらの想いも両者譲らず、といった感じで、


「考えて、おきます」


そう言ってこの場を逃れた。


幼い時からの恋情とは、そう簡単に断ち切れるものではないことを、リシアスはよく知っていたからだった。




静まり返った空間。

それを破ったのは、大きな足音と共にやってきた、1人の青年だった。



「アルヴィルト!!リシアスが婚約する、だって!?」



勢い良く、大きな音と共に扉を開けて、驚きの声を上げたのは陛下の永くの友人である。


淡い金髪に、翡翠色の瞳。

ローラと同じ髪と瞳を持った青年は、ローラの実の兄であった。

ローラと同じく美しい容姿と、強い〝 力 〟をもつ彼は、女性の間でもとても人気がある。


公では陛下、と呼んでいるものの、こうした私的な空間では、彼は陛下を名前で呼んでいた。



アルヴィルト・ディ・ライダン。



陛下の名前である。

アルヴィルトさま⋯

幼い時こそそう呼んでいたが、今はしっかりと陛下とお呼びしている。

身分の違いに、不釣り合いなことに気がついた、11の時からだったと思う。


「朝から騒々しいぞ、ジェリグ。おまえは一応、この国の宰相なのだ」



そう、ジェリグ様⋯ジェリグ・マーシャム様は、この国の宰相だ。

陛下もそうだが、ジェリグ様もローラも魔人であり、年齢はとうに500を超えている。

ローラとジェリグ様の年齢差は分かっていないけれど、おそらく人間の兄弟とは比にならないほど歳が離れているのではないだろうか。



「そうは言っても、リシアスが婚約するのだぞ!?アルヴィルト、よく許せたな!あれほど⋯⋯ふがっ」


ジェリグ様はひどく興奮した様子で、陛下に詰め寄っている。

その言葉の中には、不可解なものがたくさんあった。

『おまえ、よく許せたな!あれほど⋯』


よく許せたな?あれほど⋯?


あれほど、からの続きが気になったが、既にジェリグ様の口は陛下の手によって塞がれていた。


抵抗しようにも、力が強すぎる陛下の手は退けられそうにない。

アルヴィルト様の眉間の皺はよりいっそう濃くなり、不穏な空気が流れ出した。


「陛下、お離しください。ジェリグ様にはご説明いただきたいことがあるのです」


今口を挟むことはよくないと、本能が告げている。

ジェリグ様を睨む濃紫の瞳を自分に向けられて、リシアスは震え上がった。

途端、陛下は口を塞いでいた手を外す。


「っは!少々扱いが雑ではないか、アルヴィルト?」


「⋯⋯うるさい」



⋯⋯あれ?




陛下は、ジェリグ様にそういった後、なにごともなかったかのように、手元のスープを口に運んでいる。

瞳をこちらに向けられる以外、なにも言われなかった。


───怒られると、思ったのに。

拍子抜けしながら、ジェリグ様の方を向き直す。


「こやつの婚約など、ジェリグ、おまえには関係のないことだろう」


ため息をつきながら、陛下はリシアスの方を向いた。

濃紫の瞳から、睨んだ時の眼光は既に消えている。

それでも普段より幾分か鋭い瞳で見つめられ、心臓が高鳴った。


「とりあえず、婚約に関しては今夜また。それなりの用意はしておくように」


「っ⋯⋯はい」



⋯⋯。



せめぎ合っていた想いは、陛下の一言で決着がついた。

お見合いを受けて、もしも成功してしまったら。

そうなってしまったら、きっと、とても寂しいと思う。


けれど、いまはそれ以上に。

私が陛下にとってどうでも良い存在であったことが悲しかった。

このお見合いは初恋を終わらせる第一歩だと、そう考えて、はい、と声を出す。


そんな私を見て陛下が少し顔を歪ませたのは、私の単なる気のせいだろうか。


と、そこまできて、私ははっとした。



「ジェリグ様。よく許せたな、やあれほど、というのはどういう意味でしょうか」



ジェリグ様の方を向いて、忘れかけていた疑問の答えを聞く。


許せた?

なにを。

あれほど?

どれほどなの。


湧き上がる疑問の答えが聞きたくて、じりじりする。

その時だった。

私が発した言葉が、よくやく耳に届いたかのような陛下は、急にジェリグ様に手招きをする。

首を傾げながら耳を寄せるジェリグ様に、陛下がなにか耳打ちをした。


「」


陛下の声はもともと低く、ひそめられると聞こえない。

心地の良い声だとは思うものの、事務的なものでしか会話をしない為、最近はそう思えなかった。



「⋯⋯ということだ。良いな?」



ようやく聞こえた言葉は、どうやら終わりの言葉らしい。



「っ、⋯⋯まったく、きみは相変わらずだな。わかった、わかったよ」



心底呆れた顔をして、ジェリグ様は両手を上げた。

そして、


「リシアス、ごめんよ」


という一言を残して、足早に去っていってしまう。


それに続いて、陛下も「私室にもどる」といって、消えていってしまった。


「え⋯⋯」


残された私は、ただただそれを眺めているしかなかった。

心には、引っかかる疑問が残されたまま。




ありがとうございました!!


魔国の者と婚約すること自体には、抵抗のないリシアス⋯。

生きている半分以上の時間を魔国で過ごしているため、そういったことに疑問をもたない設定です。

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