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捨子の嫁ぎ先  作者: ちゃろの助
本編
2/16

○花嫁 ー 02

よろしくお願いいたします!!



部屋に足を踏み入れると、食のそそる香りが鼻を掠めた。

大きなテーブルの上には白いテーブルかけと、豪勢な食事がのせられている。


パンだけでも20種類はあり、その周りには輝く料理が、テーブルからはみ出るほど並べられていた。


真ん中には、椅子が長いテーブルを挟んで2つ置いてある。

右側には陛下が、その向かいの椅子は私が座るためのものだ。


何故長いテーブルなのか。

それはおそらく、この料理をのせきるためだろう。


まだ陛下はいらっしゃっていないらしい。

誰もいない向かいの席に腰を下ろすと、ふう、と息をついた。



慌ただしい朝は既に慣れたもので、こうして急に朝食を共にすることすら驚くことはない。

陛下は用がある時のみ、私をこうして呼び出すのだ。


なにか気に食わないことでもあったのだろうか。

自分は粗相をしてしまったのだろうか。

そんなことを考えているうちに扉が開いて、煌びやかな服を身にまとった陛下がこちらに歩いてきた。


ゆっくりと椅子を引いて立ち、その場から一歩分後退すると、淑女の礼をしてみせた。


「おはようございます、陛下。本日は何用故のお呼び出しでしょうか」



挨拶と同時に、ストレートに疑問をぶつけた。

もともと無表情だったけれど、その陛下の美しい顔の眉間に、皺がよる。


「あぁ」


疑問に答えないうえ、おはようとすら返さず、顔を背けて椅子に腰掛けた陛下は、食事に手をつけた。



⋯────寂しい。



そんなことを思った。


幼い時に拾われた私は、何年も前から彼に恋情を抱いている。

私の彼への想いは歳を重ねるごとに増幅していくけれど、彼は私に冷たくなっていった。


11を過ぎた頃から、私に声をかけて下さることが減っていき。

成人を迎えた15の時点で、今とほとんど変わりない生活になってしまった。



一体、どこで間違えたのだろう。


身分の差だろうか。

これでも自分は、一国の王女である。

それでも故郷である国とここ魔国の大きさは10倍ほど違うし、飽きたらぽい、なんてことも有り得るだろう。


むしろ、この10年間捨てられなかったことがおかしいのかもしれない。

捨てられた王女など、利益の為にすらならなかろう。


それに、紺青の瞳をもつ者など、魔国にすらそういない。

幼い時、一度陛下に尋ねたことがあるのだ。


紺青の瞳を持つ私が、気味が悪くないの、と。


しかし彼は、「それは不吉な色だからか?」と質問で返してきた。

そうよ!と勢いづいて答えれば、馬鹿らしいと笑われたのだった。


嬉しかった。

紺青の瞳(これ)を気にしないでくれる彼が。

私自身を見てくれるんだと、ひどく安心したことを思い出す。

それと同時に、私は彼に、更に大きな恋情を抱いた。


16を迎えた私は、恋人がいてもおかしくない年齢である。

成人は15歳。結婚できるのも15歳からだ。

しかし私は、10年前からこの王城に居候している。

そのため、婚約者はおろか、恋人すらできなかったのだ。


もちろん、最初から恋人などつくる気はなかったし、私が想いを寄せる彼は目の前にいるのだけれど。


「おい、聞いているのか」


思わず考え込んでしまっていた私に腹を立てたのか、陛下は眉間の皺を更に濃くした。


「っ、申し訳ありません、陛下」


慌てて謝罪の言葉を述べ、手元にある食事に手をつけようとした時。


「今日おまえと食事を共にしたのは、おまえの婚約の話がでたからだ」


「っえ⋯!?」


飲みかけていたスープを、思わず吹きかけた。

優しい味付けながら、入っている食材は全て高級品である。

吹き出すなんてことをしては勿体ない。


それにしても、婚約。

婚約って、あの?

私が、誰と?


陛下の口から、まさかそんな言葉が出るなんて、と私は密かに思う。

いまや私になんの関心もないのに。

否、関心がないからこそなのだろうか。


だからこそ10年を共に過ごしたというのに、簡単に婚約の話なんかができるのかもしれない。

私と同じ想いを望んでいた訳ではなかった。

それでも、少しでも寂しく思ってくれたらなんて、期待していたのだ。


それを淡々と、むしろ瞳は嬉しく思っているようにすら見える。

婚約の話がでた、ということは、どなたかが婚約を申し出て下さったのかもしれない。

すんなりと受け止めることの出来ない私は、


「あ、あの⋯」


どうにか口から言葉を絞り出した。

なんとも情けないものだったけれど。



婚約をして、結婚をすれば。

陛下の、彼の傍を離れられる。

この辛い想いを断ち切る機会(チャンス)だ。

毎日、陛下を見かける度に出てしまう長いため息も少なくなることだろう。


しかし、彼のそばを離れるということは、彼と会わなくなるというとこ。

この王城にいれば、毎日顔を見ることくらいはできる。

長いため息は出るものの、同じだけ会えたことへの喜びも感じている。

彼に自分を、忘れられてしまうかもしれない⋯。




ありがとうございました!

次回、陛下のお名前を出す予定です。

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