○花嫁 ー 01
初投稿です!!
誤字脱字、ありましたらごめんなさい。
毎日投稿を目指しております。
よろしくお願いいたします⋯!
───懐かしい夢をみた。
湖に落ちそうになったところを、彼に助けて貰った十年前のあの日。
私の人生を大きく変えたあの数分の出来事は、今でも驚くほど鮮明に夢に現れる。
「人間か⋯?幼子とは、やはり小さいものだな」
私の腕を掴んだ、ほどよく筋肉のついた腕。
恐ろしいほどの美形の瞳は、アメジストより少し濃い紫色で。
すっと通った鼻筋と、薄く形の良い唇。
耳に心地よい低音は、私の顔を見て途切れてしまった。
美しい瞳も心なしか揺れていて、驚きがありありと伝わってくる。
あぁ、やはり。
茶混じりの黒髪と、それに合わない紺青の瞳。
この時代、紺青とは最も不吉な色として伝えられている。
どこに行っても除け者にされ、汚物を見るような目で見られた。
父とも母とも違った異様な私を見て、わずか6歳で捨てられたことが、何よりも自分が気味が悪いことを理解させる。
「ジェリグ、俺はこの小娘を〈 〉にする」
静かに、しかしはっきりと告げた彼の言葉を聞いて、私は遠くなりかけていた意識を手放す。
重たい瞼を閉じ、肝心の〈 〉が聞き取れなかったことを後悔するだろうなと考えながら、眠りについた─────。
⋯⋯という、今朝の夢。
優しく暖かい光が窓から差し込んでいるこの部屋は、王城のなかにある、少ない部屋のうちのひとつだった。
十年前私が両親に捨てられたのは、ここ魔国である。
私の故郷である国の隣国だが、国と国との間には明確な境界線があったせいもあり、当初は全く違う場所にいる気持ちになった。
⋯⋯いや、それも当たり前かもしれない。
なにせここは朝が来ないのだ。
陽の光が苦手な〝魔人〟もいる為、随分前に囲いを作ったのだそう。
ずいぶん長くいるせいで、朝が来ない生活にもすっかり慣れてしまっていたけれど。
いまやここは私の、第二の故郷となっいた。
さて。
それはそうと、つい先日十六歳となった私。
広いベッドの上、心地よい温もり感じながら、夢の余韻に浸っていた。
コンコン、と扉がノックされる。
「リシアス様、おはようございます」
女の人らしい高い声。優しくて落ち着く、柔らかい声だ。
侍女のローラの声だった。
あくびをしながら、入室を許可する。
許可するなんて言っても、「はぁい」と気の抜けた返事を返すだけなのだが。
ローラ・マーシャム。
十年来の友人である彼女は、7年前から私の正式な侍女として配属された。
年上のローラを、私はお姉さんとしても慕っているつもりだ。
大人の雰囲気を漂わせたローラ。
淡い金髪に翡翠色の瞳。
誰が見ても美しいの一言に尽きる容姿を持った彼女は、今日も変わりなく微笑んだ。
「おはようございます、リシアス様。本日も寝癖がついていらっしゃいますよ。陛下が朝食を、リシアス様とご一緒に召し上がるとのことですので。お支度を」
そう言いながらながら部屋に入る彼女は、侍女の見本といえるほどであった。
要件を伝え、洗練された無駄のない動きで私の支度を始める。
陛下───。
その言葉はこの国で、一人の男のことを指している。
唯一無二の強さを誇る彼こそが、この魔国の王なのだ。
*
「リシアス様、お美しいですよ。水色のワンピースも、やはり似合っていらっしゃる」
うんうん、と頷いて、ローラは満足しているようだった。
ローラは支度が一通り終わると、必ずなにか一言褒め言葉をくれる。
それが彼女の優しさであり、お世辞でないことは長い間共にいた事で分かっていた。
だからこそ、嬉しい。
淡い水色のワンピースは露出が少なく、後ろのリボンはやや小さめ。
柔らかい生地は肌触りもよく、初めて着た心地は良いといえる。
明るすぎず、暗すぎない。
私の紺青の瞳に合わせられた服はどれも、ローラが選んでくれていた。
支度が整ったことを確認して、時間をみる。
ちょうど良い頃合だろう。
「行こう」
しゃらん、と首飾りが音を立てた。
細い金の鎖には紫色の石がはめ込まれている。
以前ローラから渡されたものだが、ローラは誰がくださったのかを未だ教えてくれない。
この紫色は、彼の瞳の色とよく似ていた。
なんだかくすぐったい気持ちになるこの首飾りは、私の一番のお気に入りだ。
足音を響かせる。
彼が───否、陛下が待つ、朝食の並べられた部屋に向かって。
ありがとうございました!