96話 ようこそ1年Fクラスへ(1)
魔術学校に通う学生の朝は早い。
日が昇ると同時に起床し、魔法や魔術の鍛錬に励む……はずなのだが、おれは朝に弱いためにギリギリまでふかふかのベッドでぬくぬくと過ごすのだった。
おれの家は大豪邸ということもあり、ベッド一つを取ってもその居心地の良さは格別であり、おれをなかなか夢まどろみから抜け出させてくれない。
数ヶ月前まで野宿生活をしていたおれからすればこれはまさに至福のひととき。
あの頃の研ぎ澄まされた五感など忘れ去られ、野生を失った猫のように堕落した朝を送っていた。
だが、そんな自由気ままな朝を送れるのも昨日まで。
おれを心地良い眠りから揺り起こす者が現れたのだった。
「アベル、おっはよー!」
そうだ、サラだ……。
彼女は無事にエウレス共和国で中等魔術学校を卒業して、こっちのカルア王国のおれの家に引っ越してきた。
どうやら最近は昔のように髪を伸ばしはじめたようでセミロングの藍色の髪をなびかせている。
正直いって身内びいきはあるにしても可愛いと思う。
サラはおれと違って朝早く起きて勉強をしたり魔法の訓練をしたりするタイプのようだった。
そのおかげもあってか中等魔術学校は首席で卒業。
おれは朝の勉強や訓練に誘われるのではないかと嫌な予感がしながら昨日の夜眠りについた。
そして、どうやらその予感は当たっていたようだ。
「さあ、アベルも私たちと一緒に出かけましょう!」
サラは毎朝リノと人気のないところに向かい、そこで様々な鍛錬をしているらしい。
はぁ……。
おれとしても魔法や剣術の特訓は嫌いじゃない。
ここはサラに付き合うとするか。
こうしておれの毎朝の日課からベッドでぬくぬくタイムが消え去り、サラたちと訓練が追加されたのだった。
◇◇◇
今日は待ちに待った……いや、やってきてしまった高等魔術学校に通う初日だ。
おれは訳あって2歳も年上のやつらと一緒に学校生活を送らないといけないということに不安がある。
まぁ、精神年齢を考えれば多分おれの方が年上だ。
この世界に転生してから内面が大人になったかと問われればイエスと言い難い部分もあるが、それでも16歳になる子どもたちよりは上のはずだ、うん。
そんな不安を抱えながらもおれはサラと徒歩で学校へ通う。
父さんが使用人たちに頼んで馬車で送り迎えをしてもらってもいいと言っていたが学校は歩いていける距離にあるのだから断った。
前世と照らし合わせて考えれば、金持ちの坊ちゃんが黒塗りの高級車で登下校をするようなものだと思ったからだ。
流石に恥ずかしいし、おれは自分の家系を誇示したいわけじゃないのだ。
ちなみに、おれたちの護衛であるアイシスとリノは付いてきていない……はずだ。
まぁ、二人のことだから姿を隠して側にいるのかもしれないけれどおれたちには見えない。
「今日は何をするんだろうね?」
おれは隣を歩くサラに聞いてみる。
「きっと、クラスに集まってこの学校の色々な説明があって、それから入学式ね。前の学校はそうだったから」
なるほどな。
確かにサラは中等部とはいえ魔術学校に三年間も通っていたのだ。
これからわからないことはサラに聞こう。
学校では何でも知っていて何でも教えてくれるアイシスはいないのだから。
そんなこんなでおれとサラはカルア高等魔術学校へと到着する。
今日は入学式ということもあって、入試のときとは違い校舎や道は華やかな雰囲気を演出している。
そして、何より人が多い。
それもそのはずで一学年六クラスあるうえに三学年もいるのだ。
校門が人で溢れかえっている。
おれはとある看板を見つける。
一年生向けなのか看板でそれぞれのクラスへ向かう道案内が書いてある。
外部進学してくる生徒なんて少ないはずなのに親切なものだな。
おれは関心しながらクラスが違うサラとここで別れた。
「それじゃ、また帰るときね」
おれはサラにそう告げる。
「何言ってるのよ! お昼休みに一緒にご飯を食べるのよ。私の教室まで来なさいよね!!」
そうだった。
ボッチ予定のおれはサラとお昼を一緒に過ごすのだった。
そして、おれたちは別れてそれぞれ教室へと向かう。
◇◇◇
一年Fクラスか……。
知り合いというか知っている人はドーベル先生という実技試験のときにお世話になった白髪で痩せている眼鏡をかけたおじさんだけだ。
彼のクラスだということしかわかっていない。
不安もいっぱいあるが、ポジティブに考えば逆に知らない人だらけというのはこれから多くの出会いがあるということだ!
さぁ、おれの学校生活がここからスタートするんだ!!
おれはFクラスの教室を見つけて扉をめがけて進んでいく。
おれの視野にはあの扉しか入っていない。
あの扉を開けたら……。
おれは扉に手を伸ばしたところで、他人の手が視野に入った。
おっと、他にも教室に入る人がいたのか。
ここはひとまず第一印象をよくしておいてあわよくば知り合いに……。
おれは自分と同様に扉の前に立つ人に目を向ける。
「あっ……」
おれの目に映ったのは、なんと入試会場で一悶着あった獣人のケビンであった。
おれは思わず声を洩らしてしまった。
ケビンもおれに気づくと顔を歪める。
やはり、おれは彼に嫌われているらしい。
「クソッ……最悪だ」
ケビンはおれを睨んでそうつぶやくと教室の中へと入っていった。
入試のときのように暴力をふるわれるようなことはなかった。
おいおい、嘘だろ……。
まさかケビンと同じクラスなのかよ。
おれは気分がだだ下がりしながら自身も教室の中へと入っていく。
直後、おれは教室に入ってその広さに驚いた。
想像以上に奥行きがあって、入試のときに使った数十人用の教室ではなく百人以上が入れる規模の教室だった。
そして、教室へ入ったおれを中にいた生徒たちがジロジロと見てくる。
なんでこっちを見てくるんだよ……。
大多数からの視線はとても恥ずかしいものがある。
早くおれも席に着きたいがどこに座っていいのかわからない。
席は決まっているのだろうか?
それとも自由席なのだろうか?
おれは入り口付近でたじろいでしまう。
そして、おれの後から教室に入ってきた人たちもどんどん席に着いていく。
おれは入り口で邪魔にならないように縮こまって少しだけ場所をズレた。
うん、初日から陰キャ全開だ。
すると、生徒たちの声が聞こえてくる。
「おい、あんなやつ中等部にいたか?」
「いや、見たことないな。もしかしてあいつも外部か?」
「ねぇ、ちょっと顔が可愛くない?」
「あぁ、確かにイケメンではないけどカワイイ系ね」
何やらおれのことを話しているっぽい人たちもいる。
なんだかさっそく目立ってしまっているようだ。
外部進学というのはそれほど珍しいものなのか?
おれは教室内を見回す。
割と固まって席に座っている話している人も多い。
しかし、孤独に一人でぽつんと座る人もいる。
これでは規定席なのか自由席なのかわからない。
ちなみにケビンは近くに誰もおらず、一人で座っていた。
それに生徒たちの種族は人間半分に獣人半分といったところか。
そんなことを思っていたときだった。
「ねぇ、あなた外部進学でしょ? 何か困ってるの?」
急に獣人の女の子が声をかけてきた。
おれは突然のことに少し驚いてしまう。
声をかけてくれた彼女をよく見るとそのケモ耳は猫のようで綺麗な純白の毛並みをしていた。
雰囲気は少しおっとり目のお姉さんという感じだが、口調は少しギャルっぽいな。
「えっと……はい。自分外部でわからないんですけど、これは座る席が決まっているんですか?」
おれはオドオドとしながらネコ耳少女に質問をしてみる。
すると、彼女は笑って答えてくれる。
「やっぱ外部なのね。三年間校内で一度も見たことなかったからさ。それよりなに? その話し方は。同級生なんだからタメ語で話しなさいよ」
なんだかコミュ力がありそうな子だな。
きっと、こういう子はスクールカースト上位なんだろうな……。
「私の名前はネル。席は指定されていない自由席だからよかったら私の隣に来ない?」
なんと獣人のネルは自分の隣に座らないかと誘ってきた。
おっと、これはさっそくおれの青春がはじまる感じか?
おれはそんな期待に胸を膨らませた。
「おれはアベルです。よろしくお願いします」
おれはとりあえず自分も名前を名乗って挨拶する。
「アベルね。ようこそFクラスへ! ここはいわば学校の掃き溜め。問題児と劣等生が集められたゆかいなクラスよ! 三年間よろしくね」
ネコ耳少女のネルは笑顔でそう告げる。
Fクラス——それはカルア魔術学校において、中等部時代の問題児と劣等生が集められるクラス。
他のクラスとは違い将来のエリート街道は約束されておらず、途中で留年そしてドロップアウトしていく者も数多くいる。
これからおれのFクラスでの波乱万丈な学校生活が幕を開けるのだった。
余談ですが入学試験の結果です。
アベル
特別選抜試験
一次試験……100/100 (推薦枠のためパスで満点換算)
筆記試験……2/200
実技試験……200/200
合計……302/500
合格者 2名
合格者序列 2/2
合格者平均 317点
サラ
外部選抜試験
資料(内申)……100/100
一次試験(筆記試験)……200/200
実技試験……200/200
合計……500/500
合格者 148名
合格者序列 1/148
合格者平均 307.4点
サラが受験した外部の方は筆記の点数が足りないと実技試験が受けられない仕組みです。
元々の受験者は2000人を超えているので全員実技試験を見るのがめんどうなんですよね。
ちなみに、内申点が足りないと受験すらできません。
その中でサラは満点合格の断トツ一位でした。
アベルは……これからに期待ですね!




