8話 闇使いの少年(セアラ視点)
わたしはママの前でアベルに火球を撃った。
別にアベルが嫌いだったわけじゃない。
傷つけたかったわけじゃない。
ただ……ママの言葉がちょっと許せなかったの。
結果、ママは怒ってパパを呼んでくるといって出かけてしまった。
ママの顔をみてわたしはやっとわかった。
わたしはきっといけないことをしちゃったんだって。
それでパパも呼んで怒られるだって……。
アベルに連れられて家に入るとこれから起きることを考えてしまう。
たぶんパパもママみたいに悲しい顔をするんだって。
こんな風になるなんて思っていなかった……。
わたしは悪い子なんだ。
きっとママにもパパにも嫌われてしまう。
とても悲しい気持ちになってわたしは泣き出してしまった。
「アベル、どうしたらパパとママに嫌われないのかな。わたし嫌だよ」
わたしは隣に座るアベルに助け求めた。
アベルならなんとかしてくれるんじゃないかと思ったの。
「二人ともサラのことは大好きだよ。だから心配しなくても大丈夫だよ。ぼくと一緒に謝ろう」
やっぱりアベルは優しかった。
アベルは悪くなんてない。
悪いのはわたしなのにいつもわたしに優しくしてくれる。
不思議とアベルがそう言ってくれると不安が和らいだ。
「ゔん……」
本当は頼りになるお姉ちゃんでいたい。
アベルが困っていたらわたしが助けてあげたい。
でも、いつも頼りになるのはアベル。
助けてくれるのはアベルだった。
わたしはそんなアベルが大好きだった。
しばらくするとママがパパを連れて家に帰ってきた。
パパはわたしたちに質問をしてきた。
パパはやっぱりわたしがアベルに魔法を使ったことを怒っているんだ。
わたしいけない子なんだ。
そう思うとまた涙が出てきた。
何も話せずにいると隣にいたアベルが代わりに答えてくれた。
「本当だったんだな」
パパのこの言葉を聞いてわたしは背筋が凍った。
パパのがっかりとした顔がわたしの心を打ち砕く。
「ハンナ頼む」
「わかったわ。セアラあなたはお母さんの部屋に来なさい」
ママがわたしを呼ぶが話が入ってこない。
わたしはどこで間違えちゃったのかな。
初めてアベルに魔法を見せたときから?
それとも、もっと昔に——。
「セアラはやく来なさい」
わたしの心にママの言葉は届かない。
もう消えてなくなりたい。
そんなことを考えていた。
「パパ、ママごめんなさい……ゔぐっ」
わたしは謝ることしかできなかった。
やっぱりパパとの約束を破ったのがいけなかったのかもしれない。
パパに隠れて魔法を使って、他人に向かって魔法を——しかも大好きな弟に。
約束を全部破ったわたしがいけないの。
わたしは謝り続けた。
そんなときだった。
「父さん、母さん二人は何があってもサラのことを嫌いになったりしませんよね。二人はサラのこと、これからもずっとずっと大好きですよね」
アベルが突然パパとママに質問をした。
何を言っているのだろう。
わたしは約束を全部破ったいけない子なのよ。
そんなこと……。
「もちろんよ。わたしたちはサラのことを愛しているわ。もちろんアベル、あなたのこともね」
「何を言い出すかと思えば……当たり前だろう。わたしたちはきみたち二人のことが大好きだよ。絶対に嫌いになんかなるものか」
ママもパパもわたしのこと嫌いにならないの?
これからもいつも通り仲良く暮らしていけるの?
アベルの言った通りだった。
2人ともわたしのことを——。
「ほんとに?」
「もちろんよ。サラちゃん、あなたはパパとママがサラちゃんのことを嫌いなっちゃうかもしれないって思ってたのね。心配かけちゃってごめんなさいね。絶対にそんなことはないから、だからママと一緒に二階の部屋に来てくれるかしら?」
わたしはしっかりと謝ろう。
ごめんなさいをして、またパパとママとそしてアベルとこれからもずっとずっと一緒に仲良く暮らすんだ。
「うん!わかった」
もう不安はなかった。
アベルが全部消してくれた。
だからわたしはママとしっかりと話そうと決められたの。
◇◇◇
わたしはママに連れられて二階のママの部屋に来た。
この部屋はお薬と本がいっぱい置いてある。
わたしもいっぱい勉強してママみたいになりたい。
そんなことことママの部屋に来るたびに思っていた。
「この部屋に来るといつもそう。サラちゃんは本や薬に興味があるのかしら」
「うん! わたしもいっぱい勉強してママみたいになりたいの」
「そっか。じゃあサラちゃんも、もうすぐ7歳になるし今度ママがお勉強を教えてあげるわね」
「本当? ありがとうママ! わたしがんばっていっぱい勉強するね」
さっきまでの怖いママと違い、いつも通りのママにわたしは甘えていた。
「えらいわサラちゃん。ママもがんばって教えなきゃね。でも今は違うお話があるの、わかる?」
「うん……その、ごめんなさい」
わたしは頭を下げて謝った。
しっかりと謝ると決めたから。
「うん。サラちゃんはお利口さんだし、きっともう反省してると思うの。だから、なんでベルちゃんに魔法を放ったのかママに教えてちょうだい」
「えっと……ママ誰にも言わない?」
「ええ、パパにもベルちゃんにも言わない。約束するわ」
わたしは自分の中にあった感情を初めて他人に話した。
大好きなママにだったから言えたのかもしれない。
「その……ママがアベルに守ってもらわないとねって言ってたから」
「そういえば言ったわね。それがどうかしたの?」
「ママにも見てもらいたかったの。アベルは本当はすごいんだって! いつもわたしがいじめてもやり返さない優しい子だけど、本当はとっても強くっていつもわたしを守ってくれてて……。そんなアベルのことをママにも知ってもらいたくて」
わたしはまた涙が溢れてきた。
そうなの。
わたしは大好きなアベルが本当はすごいんだって、自慢の弟なんだってママにも知ってもらいたかっただけなの。
それがこんな大変なことになるなんて思っていなかった。
「そっか、サラちゃんはそんなこと思ってたのね。わかってあげられなくてごめんね。サラちゃんの大好きなベルちゃんはとってもすごかったわ」
「そんな、べつに大好きなんかじゃないわよ」
あまのじゃくのわたしはとっさに思ってもないことを言ってしまう。
でも、それもママにはお見通しなのよね。
「ふふふっ、たまには素直になることも大事なのよ。ベルちゃんはきっとあなたを守ってくれる素敵な男の子になるわよ。だってわたしの自慢の息子なんだもの」
ママもアベルを認めてくれている。
そうわかってわたしはとても嬉しくなった。
きっとこれからアベルはもっとすごい人になるはず。
わたしも負けてられないわ。
「まだパパとベルちゃんは話してると思うから、少しママとお話でもしましょうか」
「うん!」
「そうね。サラちゃんはもう少し素直になることも必要よ。わたしも昔パパに自分の気持ちを伝えれなくてうまくいかなかいことがあってね」
「そうだったの!? わたしパパがママを口説いたんだと思ってたわ」
「ちょっと、サラちゃん。口説くなんて言葉誰に教わったの? まあ、間違ってはないかしらね」
わたしはそれからママといっぱい話した。
ママの昔のこと、わたしがアベルに思っていること。
心に閉じ込めてた想いを少しだけさらけ出すと少しだけだ心が満たされた気がした。
大好きなママと共有するわたしの気持ちは二人だけの秘密ね。
余談ですがサラに「口説く」という言葉を教えたのはアベルです。