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76話 欠格の魔王カインズ

今回は敵であるカインズの物語です。

  おれは魔界にあるヴァンパイアの魔王が治める国で王族として生を受けた。

  家族は父であるこの国を治める魔王、王妃である母親、そして兄が二人に弟が一人いた。


  幼い頃は理解できなかったが、どうやらおれは三男であるが王位継承権は高かったらしい。

  どうしてかというと、二人の兄たちの固有(ユニーク)スキルがあまりにも恵まれていなかったからだ。


  ヴァンパイアとは優等種であり、ヴァンパイアであればだれしもが固有スキルを5つ習得することができる。

  しかし、固有スキルはどのようなスキルが手に入るかランダムで決まってしまうという特徴がある。


  おれたちヴァンパイアは5つも固有スキルを習得できるばかりに、恵まれない固有スキルを2つや3つ持ってしまうヴァンパイアも少なくはなかった。

  兄たちもまたそうであり、魔王である父はそんな完璧ではない兄たちを次期魔王とするのは気が引けているようだった。


  そんなこともあってか、おれは幼少期から次期魔王となることも視野に入れて英才教育が施された。


  魔法や剣術はもちろん、魔王としてどのような国家運営をしていくか。

  この国の歴史に文化、経済に外交とあらゆることを学び、そして成長していった。


  魔王について学べば学ぶほど、魔王である父が立派に思えた。

  民たちのために豊かな国をつくり、民たちの幸せを願っている尊敬できる人物だと思えた。


  おれに指導をしてくれる家臣たちは、おれが二人の兄たち以上にあらゆる分野における素質があると褒めてくれた。

  そして、それはお世辞ではなく本当だったらしい。


  父や母からもちやほやされて、とてもいい気分だった。

  努力すれば(むく)われたし、努力することによっておれは認められたのだ。


  上の兄たちからは明らかに嫌われていたが、家臣たちの目もあってかおれに嫌がらせをしてくるようなことはしなかった。


  そして、弟に関しては上の二人の兄以上に器用に物事をこなしていたが、それでもおれには一歩及ばない実力だった。


  おれは兄から嫌われていたこともあり、弟には絶対に優しい兄であろうと決めていた。

  そして、そんな弟に魔法や剣術をプライベートな時間でも教えていた。


  だが、順風満帆だったおれの人生にある悲劇が起こる。


  それは順調に魔王となるべく課程をこなしながら成長したおれが、どんな固有スキルを習得したのかを測定したときのことだった。


  スキル測定をしてくれた家臣の顔が引きつって、青ざめていく様子を見た。


 そして、結果おれには『魔王』スキルがないということがわかった。


  後で教えてもらったことだが、両親が二人とも同じスキルを持っている場合、子どもにもそれが引き継がれる確率は5割ほどだという。


  おれの両親は『魔王』スキルを持っており、それは二人の兄へも引き継がれていた。

  だが、おれに『魔王』スキルは引き継がれなかった。


  その日から、おれの周囲は一転した。


  あれほどちやほやとしてくれていた家臣はもちろん、父も母も、おれに興味を無くしたのように接していた。


  『魔王』スキルがなければ魔王になることはできない。


  兄たちは固有スキルが恵まれていないだけで魔王になれる可能性はある。

  おれは兄たち以上に()(もの)扱いされるようになった。


  そして、おれはやがて魔王城の中で孤立していった……。


  だが、こんなおれを見捨てなかった者が二人だけいた。


  おれに懐いてくれている弟と、かつておれの指導をしてくれていた家臣の息子であるエルダルフというライカンだった。


  弟はおれが『魔王』スキルを持っていようが持っていまいが兄であることは変わらないと言ってくれた。


  エルダルフは『魔王』スキルなんて関係なく、おれが兄弟の中で一番魔王に相応(ふさわ)しいと言ってくれた。

  きっと魔王になれる方法は必ずあるから立派な魔王になって欲しいとも言ってくれた。


  おれは二人の温かい優しさが何よりも嬉しかった。


  そして、弟のスキル測定の日がやってきた。


  おれはかつて自分をちやほやしてくれていた父や母、そして家臣たちが期待の目で弟を見ている様を見て、あろうことか弟にも『魔王』スキルがなければいいのにと心の片隅で思ってしまった。


  だが、結果として弟は『魔王』スキルを持っていた。

  5割の確率を見事に引き当てたのだった。


  四人兄弟で5割の確率でどうして自分だけ……。


  おれは喜ぶ弟を見て素直に心から祝福ができなかった。


  弟を持ち上げる両親や家臣を見て、もしも数年前のあのときにおれが『魔王』スキルを持っていたのならと、あの光景の中心にいる弟の姿に自分を重ねてしまっていた。


  結局自分は選ばれなかったのだ……。


  どれだけ魔王になるために勉強をして、訓練をして、努力をしてきても、自分より劣る存在に勝てない現実があるのだと知った。


  それからおれは長年暮らしていた魔王城を離れて全寮制の学院に通い始めた。


  魔王になれないならば優秀な大臣となり、魔王となる弟の補佐をしたいと思ったのだ。


 だがそこでおれは、知りたくなかったさらなる不条理とその現実を知ることになる……。




 ◇◇◇




  「おい、なんでお前みたいな劣等種がこの学院にいるんだ! いったいどんな汚い手段で入学したんだ!」


  エルダルフが知らない魔人に声をかける。

  黒目黒髪でスラリとしたスタイルのいい魔人がそこにはいた。


  確かにこの学院に劣等種と呼ばれるスキル所持数3以下の種族の学生はいなかったはず。

  制服を着ている魔人の彼は何者なのだろうか?

  おれも疑問に思った。


  「入学試験をパスしたからに決まっているだろう。自分の知見の狭さをアピールしたいのならば悪いが他でやってくれないか。おれたちは先を急いでいるんだ」


  この魔人が言うにはどうやら、入試を突破したようだ。

  確かに劣等種の合格は今までなかったというだけで合格が不可能というわけではない。

  この学院はあらゆる種族のために開かれているからな。


  「お前、おれをバカにしてるのか!!」


  「もうやめろエルダルフ」


  おれはエルダルフを止める。

  こんなつまらぬいざこざを起こしてもいいことなど何ひとつない。


  「まぁまぁ、でも、こいつは劣等種ですけどめちゃくちゃすごいんすよ! 頭も良いし、魔法もすごいし、ほんと魔王になるのか! ってくらいにね」


  魔人の隣にいるフェンリルが語り始める。

  おれは『魔王』という言葉に反応する。


  「お前らいい加減にしろよ! お前みたいな劣等種が魔王になれるわけないだろう!!」


  エルダルフが二人に対して再び叫ぶ。


  「いや、でもこいつ『魔王』スキル持ってるし、魔王になれると思うんっすよね〜」


  フェンリルの放ったその言葉に、おれは思わず口を出してしまった。

  おれの持つ、魔王へのコンプレックが刺激されたのだ。


  「『魔王』スキルを持っているからって図になるな!! お前は魔王となる者がどんな存在だか知っているか!?」


  こいつらは何もわかっていない。

  魔王という存在になるために多くの者がどれほどの苦しみを背負っているのか。


  「どれほど陰で努力をしても報われない者がいる! 国で暮らす民たちの命を預かる重圧に耐えられない者がいる! 生まれながらにしてその資格を与えられなかった者だっている! そういう苦難を乗り越えた者だけが魔王となれるんだ! 軽々しく魔王になれるなんて口にするな!!」


  おれは珍しく声を荒げてしまった。


  だが、おれの目の前にいる二人は驚いた様子もなくおれの瞳を見つめている。

  なんだ、おれがどうしたっていうんだ。


  すると、フェンリルの男はすました顔で口を開く。


  「知ってますよ。だっておれ、卒業後に帰国して魔王をやってる親父の後を継ぐ予定だし」


  おれの中で何かが崩れる。


  こんなヘラヘラしたやつが魔王に……?

  劣等種であるそこの魔人だけでなく、こんなやつでさえ『魔王』スキルを持っているのか?


  いったいどうして……。


  「それに……なぁ」


  フェンリルは魔人に向かって何かを促す。


  すると魔人の男もまた口を開く。


  「おれは魔王になど興味がないし、魔王になるつもりなどない。だが、貴重な話だった。ありがとうな」


  魔人はそれだけを言うとおれたちのもとを去っていった。


  「それじゃ、また」


  フェンリルもそう言葉を残して魔人に付いていく。


  「おい! お前らおれたちに対して失礼過ぎるだろ!! この方はなぁ——」


  エルダルフが何か言っているがおれの耳には入ってこなかった。


  魔王になるつもりがないだと……?


  ふざけるなっ!!


  おれがどうしてもどうしても手に入れたかったモノをあいつは持っていながら……。


  だが、そうだ。

  きっとあいつはおれの兄たちのように『魔王』スキルを持っているだけの無能なやつなんだ。

  だから魔王になるつもりはないとほざいているんだ。

  本当はなりたくてもなれないくせに……。


  おれは自分にそう言い聞かせて心を鎮める。


  だが、学院での生活を送る中でおれはあの魔人の実力を知ることになる。

  おれとエルダルフ、そして魔人とフェンリルは同じクラスだった。


  そして——。


  「今回の総合テストの一位はヴェルデバランだ。おめでとう、君は本当に優秀なんだね」


  「今日の魔法実技訓練で一番成績がよかったのはダントツでヴェルデバランだ。みんなも難しいところがあったらヴェルデバランに聞いてみなさい。きっと、魔法について深い理解ができるはずだ」


  「今日の剣術実技訓練での成績トップはヴェルデバランくんだね。私が教師生活をしている中で君ほどの生徒は見たことがない。いや、生徒でなくても見たことがないほどだよ!」


  「ねぇ、カインズ様って次期魔王候補なんでしょ? でも、ヴェルデバランくんに全く勝てていないよね……」


  「本当だよな。あいつこの国の魔王になるかもしれないんだろ。それが劣等種に負けているんだもんな……」


  魔王になど興味がないと言っていた魔人——ヴェルデバランは正真正銘のバケモノだった。


  あれは劣等種の魔人なんかじゃない。

  あんな劣等種がこの世界に存在していいわけがない。


  魔法実技も剣術実技も直接対決したが、おれは全く手も足もでなかった。

  しかも、おそらくあいつは本気を出していない。

  常に遊ばれているような感覚だった。


  きっと、おれのことだって心の中で見下しているのだろう。

  あれほどの力を持っていながら『魔王』スキルまであるのだ。

  おれたち優等種たちの脆弱(ぜいじゃく)さをあざ笑っているはずだ。


  あいつのせいでおれの学院生活は(みにく)いものだった。

  王族であり、優等種であるおれがどうしても一番になれなかった。


  あの魔人は学んだことはすぐに吸収した。

  目にした技術はすぐにできるようになった。


  かつて、おれは魔王城で才能があると騒がれていたが、あの魔人に比べればおれなんて凡人でしかない。

  それほどの実力差があった。


  だが実力差以上に、魔王になりたいと思わないあいつが、魔王になる必要のないあいつが、おれの欲しているモノを持っている。


  それが何よりも悔しかった。


  そして、おれはとある事件を起こしてしまう——。


  「お前など、もう息子でもなんでもない! 今すぐ死んで詫びろ!!」


  事件が明るみになり、父に罵声を浴びせられた……。


  父に勘当されたおれはエルダルフとともに国から逃げ出すことにした。




  ◇◇◇




  そして、魔界中をさまよう旅が始まった。


  エルダルフはこんなどうしようもないおれに付いてきてくれた。

  それでもおれが魔王に相応(ふさわ)しい魔族だと信じて……。


  そして、おれは旅の途中である(うわさ)を聞いた。


  それは魔人ヴェルデバランが魔王になったということだ。

  そして、《銀氷(ぎんひょう)の死神》として魔界で恐れられていた最上位悪魔カシアスも同時に魔王となり、ヴェルデバランの軍門に(くだ)ったということだった。


  魔人ヴェルデバラン……彼は魔王就任と同時に他の魔王たちを従える大魔王となり、一つの派閥を築きあげた。


  これを聞いたおれは怒りが込み上げてきた。


  あれだけ魔王になど興味がないと言っておきながら、突然魔王になりやがる。

  しかも、魔王になろうと思えばあっさりと魔王になれるんだから本当に恵まれていやがる。


  どうして神はおれに『魔王』スキルを与えなかった。

  おれは魔王になれる素質も実力もあった。

  それに、なにより魔王になりたがっている。

  なのにどうして……。


  おれは世界を呪った。

  全ては生まれた瞬間に決まっている。

  そんな不条理な現実をおれは知った。


  見返してやる……。


  おれをバカにした連中を、見下してきた連中を……。


  おれは魔王となって魔界で一番の国を作って知らしめてやる……。


  この世界が間違っていることを証明してやるんだ……。


  こうして、おれとエルダルフの旅の目的は『魔王』スキルに頼らずに魔王になる方法を求めることになった。


  おれは絶対に魔王にならなきゃいけないんだ。

魔人とは、魔界に住む人間と同じ姿形のスキル所持数3の種族のことです。

またフェンリルとは、魔界に住む人狼のような姿をしており巨大な狼の姿に変身もできるスキル所持数5の種族のことです。

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