74話 欠格の魔王 vs 常闇の悪魔(2)
アイシスとカインズの魔法がぶつかり合う。
二人はおれと同じ魔法使いとは思えないほどの力を持っていた。
アイシスは闇属性魔法を中心に攻撃を組み立てる。
直径数メートルはある闇弾をカインズに向けて連射し、自身は転移魔法と防御魔法でカインズからの攻撃を躱したり防いだりしていた。
そして、カインズは風属性魔法を中心にアイシスを攻める。
カインズの放つ風属性魔法の速度は、おれが今まで見てきたどんな攻撃魔法よりも早く、攻撃を受ける側としては風を切る音が遅れて聞こえてくるほどであった。
さらに、一撃一撃の威力も基本属性の魔法ながら高く、上位悪魔であるアイシスの防御魔法だからこそ防げているが普通の魔法使いでは防げない。
またアイシスの放つ魔法も速度が速いため、カインズはアイシスの魔法を躱せないときは防御魔法で受け止めていた。
二人はどちらも引かずに激しい攻防を続ける。
ちなみに、おれたちはアイシスの防御魔法で守られていた。
そのせいもあってかアイシスはカインズ以上に疲労し、傷ついていた。
「しぶといな。まさかお前……いや、そんなことあるわけないか」
カインズは何やらぶつぶつと言っている。
「はぁはぁ、次期精霊王候補を狙っているということは貴方の目的は……」
アイシスが何かをカインズに尋ねる。
「あぁ、そうだ。おれの目的は『魔王』スキルなどに頼らずに魔王になること。そのために次期精霊王候補たちに用があるのさ」
どうやらカインズの話を聞いていると、彼は魔王クラスの実力を持つ優等種の魔族ではあるが『魔王』スキルを持っていないらしい。
アイシスの話では『魔王』スキルを持っていない者はどれほど実力があろうが、どれほど信頼があろうが魔王にはなれないという話だった。
『魔王』スキルを持つ者だけが使える《結界魔法》——。
この《結界魔法》を使えない者は民たちを守れないために魔王にはなれないのだ……。
だが、カインズは『魔王』スキルなど必要なくとも魔王になると言っている。
そんなことは可能なのか?
「『魔王』スキルがない者は魔王になれません。それは次期精霊王候補たちも同じです。残念ながら、彼女らは貴方の願いを叶えてはくれませんよ」
アイシスはカインズにそう告げる。
「そんな言葉はもう何度も聞き飽きたんだ!! お前如きがわかった口を聞くな。おれはおれの方法で魔王になるんだ!!」
カインズはアイシスの言葉を聞かず、再び攻撃を始める。
先程まではカインズと互角に戦えていたアイシスだが、徐々にカインズに押され始める。
半分ほどは躱せていたカインズの魔法も徐々に躱せなくなってきて防御魔法で対応し始める。
そして、防御魔法で防げていた魔法も段々と防ぎ切れなくなってくる。
もうアイシスも限界が近いようだ。
「どうしたどうした! さっきまでの勢いはどこへいったんだ? 防戦一方じゃないか。お得意の闇属性魔法で攻撃してこいよ!」
カインズはアイシスに絶えず攻撃を繰り返しながら暴言を吐く。
アイシスの力になりたい……アイシスを助けたい……。
だけど今のおれには何もできない……。
「常闇の悪魔。そういえばお前、さっきあそこにいる劣等種を庇っていたな。あいつには特別な何かがあるのか?」
カインズは風属性魔法を放ちながらアイシスに問う。
「あの少年は私にとって大切なお方です! 傷つけさせるわけにはいきません!!」
アイシスの言葉がおれの心に響く。
「ハッハッハッ、そうかそうなのか。じゃあ、お前を黙らせるためにも、まずはあの劣等種からやらせてもらうかな!!」
カインズは標的をアイシスからおれに変え、右手に魔力を込める。
それを見たアイシスは血相を変え、おれの方へと転移する。
「なぁんてな」
カインズはニヤリと笑い、転移したアイシスに風属性魔法を直撃させる。
エネルギーを帯びた球体がものすごい勢いでアイシスにヒットしてアイシスが吹き飛ぶ。
そして、おれのもとへ何回転もしながら転がってきた。
「ゔっ……」
アイシスは息はあるようだが話せないようだ。
そして、もう彼女は戦えないだろう。
「お前は人質として役に立ってもらうんだ。殺しはしないさ。だが、他のやつらはべつだ」
カインズはそう言って笑いながらおれたちに近づいてくる。
一歩、また一歩とおれたちに向かって来る。
おれは魔力を使い果たして何もできない。
そして、周りには死にかけのアイシスにハリスさん。
彼女らに何かを期待することなんてできない。
カインズに怯えているハリスさんの仲間の精霊が数人いるが、魔王クラスのカインズ相手に彼女らは戦力にはならない。
おれはハリスさんと融合したことにより、既に自分の身体の許容限界を超えた魔力を消費していて身体がボロボロだ。
そこにいる精霊たちと融合をして魔力を強引にもらったところで身体がもたないだろう……。
つまり、もうおれは……。
「結局、おれたちは生まれた瞬間に全てが決まっているんだ。お前らは劣等種に生まれ、おれは優等種に生まれた。だから、お前らじゃおれには勝てない。恨むのなら恵まれずに生まれてきた自分を恨むんだな」
カインズがおれに現実を突きつける。
確かにカインズの言う通りだ。
生まれた瞬間にあらゆることが決まっている。
おれだってそれは何度も何度も嫌だっていうほど感じてきた。
だけど……それだけじゃない。
それだけじゃないはずなんだ!
「じゃあ、なんでお前は諦めないんだよ……」
「はぁ? いったい何のことだ」
カインズは足を止めておれを見つめる。
「お前は『魔王』スキルを持って生まれてこなかったんだろ。じゃあ、なんでそれでも魔王になることにこだわるんだよ! なんで、生まれながらにして定められたことを諦めないんだよ!!」
「なんだと……」
確かに生まれながらにして決まっていることはたくさんあるだろう。
だけど、それでこれから起こる全てを受け入れ、何もせずに嘆くなんて間違っている!
もしも変わりたいと思ったのなら、変えなきゃいけないと思ったのなら、その運命に抗って戦っていけばいいんだ!!
「おれは自分の運命を恨んだりしない! 手に入らないことも、できないと思うことも本当に叶えたい夢があるなら諦めずに追い求めていいはずだ!! 」
おれの夢、おれが叶いたいこと。
それは——。
何のためにおれは魔法を覚えたんだ?
何のためにおれは強くなろうとしたんだ?
かつて、カシアスがおれに思い出させてくれたこと。
——大切な人の笑顔が見たかった——
——大切な人の幸せを守りたかった——
そのためにおれは……。
おれの中に不思議と魔力が湧いてくる。
なぜだか、おれの心が温かくなっていくのを感じる。
『こんなことに巻き込んでしまって悪いと思っている……』
本当はこの件に関してはおれ自身で解決しないといけないことだったんだ。
『だけど、おれ一人じゃどうしようもないんだ……』
おれだけじゃ、大切な人たちを守れないんだ。
『お前の力を、もう一度おれに貸してくれないか……』
おれはもう……どうなってもいいから。
だから……みんなを助けてくれ!!
『貴方様はもう……一人ではありませんよ』
おれは地面に手を当て、召喚魔法を発動する。
すると、おれの触れた場所を中心にこの辺りの地面一帯が光りはじめる。
いつもとは違い、魔法陣は出なかった。
だが、これでいい。
「なんだ!? お前は何をしている!!」
カインズが何やら叫んでいるがもう遅い。
おれの目の前に漆黒の悪魔が召喚される。
そして——。
「お久しぶりですアベル様。こうして直接お会いするのは2年ぶりのことですね」
漆黒の悪魔カシアス——。
おれは2年前の悲劇の夜に契約を交わした悪魔を召喚するのであった。




