69話 カルアの大森林
おれとアイシスは昨日に引き続き、カルア王国にあるとある森にいた。
おそらく、おれはこの場所を知っている。
カイル父さんに抱かれて精霊に会いに行った場所がこの先にある。
もし仮に、この場所がおれを助けてくれた精霊の住む森だったとしても、別におれに何かメリットあるわけではない。
ただ、おれやおれの家族を見守っていてくれた精霊であるティルが亡くなったことをハリスという精霊には伝えた方がいいと思ったからここへやってきたのだ。
そして、カイル父さんたちのことも……。
ハリスという精霊は、かつておれが悪魔を召喚した後に色々と面倒を見てくれた。
まず、思考誘導でおれが魔法に興味を持たないようにしてた。
結果的に、おれはハリスのかけてくれた思考誘導を破って闇属性魔法を使ったんだけどね。
そして、この黒目黒髪を魔法で青色系に変えてカイル父さんとハンナ母さんの息子に見えるようにしてくれた。
今ではその名残りは完全にないが、おれはけっこうあの姿も好きだった。
そして、精霊ティルをカイル父さんと契約させ、おれたちを守ってくれていた。
ティルと過ごした時間は本当に楽しかったな……。
おれは過去を振り返りながら静かな森を歩み続ける。
アイシスもおれに合わせて付いて来てくれている。
こういう森は魔物が大量にいるものなのだが、昨日から一匹も見かけないな。
ゼノシア大陸の森では魔物狩り放題、素材取り放題という感じで大型の魔物だけでも毎日数匹は安定して出てきた気がする。
流石に上位の魔物ともなるとなかなか遭遇するわけではなかったけどな。
「アイシス、強い精霊の魔力は感じるか?」
「残念ながら全く感じませんね。弱い精霊ならば多く存在しているのは感じます。もしも強い精霊がいたとしても、魔力を抑えており私が弱い精霊として認識してしまっているのだと思います」
なぜこんなことをアイシスに聞いたのかというとちゃんとわけがある。
歩くのが疲れるからだ。
ハリスという強い魔力を持つ精霊がいる場所がわかればアイシスの転移魔法で一発で移動できる。
しかし、残念ながらそう上手くはいかないようだ。
ちなみに、おれは記憶を頼りにハリスという精霊と出会った場所の風景はわかるが、位置としてどの辺りに彼女の居場所があるのかはわからない。
念話を使ってアイシスに位置さえ伝えることができれば転移できるのだが、景色だけを伝えてここに転移してくれというのは不可能だ。
結局、なんとなくの道を歩くしかない。
「付き合わせちゃって悪いなアイシス。でも、おれにとっては大切なことなんだ」
おれはアイシスに謝る。
本当は一人で行ってもいいのだが、アイシスが付いてきてくれている。
昨日の件もあり、少しでも役に立ちたいそうだ。
「構いません。貴方様は昔からそういうお方でしたから」
小1時間ほど歩いただろうか。
森というだけあって、木々が直射日光を防いでくれているおかげで熱中症にはならなそうだ。
しかし、それでも疲労は溜まる。
そろそろ一度休憩しようかと考えていたときだった。
おれは急に強い魔力を感じた。
アイシスの方を見ると、彼女も何かを感じたようだった。
そして、次の瞬間——。
ビュウゥゥーーーッッンン!
突如として強い風がおれたちを襲う。
いったいどうしたというんだ??
体が飛ばされるほどの風ではなかったが、それでもこれは自然現象として急に起こりうる風の強さではない。
おそらく先程から感じている魔力……魔法使いがいるはずだ!
「アイシス先を急ぐぞ!」
おれたちがこれから向かおうとしていた方向から風が吹いてきている。
きっとこの先にこの魔力の持ち主がいる。
「アベル様! この魔力は精霊のものではありません。私が見て参りますのでアベル様はこちらでお待ち下さい!!」
アイシスはおれを危険な目に合わせないように待機を指示する。
確かにアイシスの言うとおりなのかもしれない。
おれが向かって何かできるとは限らないし、優秀なアイシスが見てきてくれるのならばおれは安全な所で……。
ボッォォォオーーーーン!!!
鈍く低い爆音が辺りに鳴り響く。
おれの中で忘れ去りたいトラウマが蘇る……。
おれたちの目の前には空高く火柱がそびえ立つ。
あぁ、そうか……。
おれたちは最悪の事態に陥ったようだ。
きっとこの魔力にあの魔法はただの魔法使いじゃない……魔界からやってきた魔族だ。
「おそらく魔王クラスの魔族でしょう。私の方からリノ様にお伝えしておきます。直にリノ様が転移魔法でアベル様を迎えに来てくれます。それまで魔力を抑えて隠れていてください」
魔王クラスの魔族だって?
そんなのがどうして人間界にいるんだよ……。
だが、アイシスはそいつに勝てるのか?
魔王クラスの十傑相手にアイシスは歯が立たないんだろ……。
ここは逃げるべきだ。
だがどうする、本当に逃げるのか?
魔界から魔族がやってきた理由は何だ?
おれやアイシスが関係しているのなら、逃げた所で魔族は追ってくるだろう。
サラたちのいるエウレス共和国に逃げるなんて絶対にできない。
おれたちに関係なく、たまたまカルア王国を襲撃したのだとしたらどうだ?
それならば、おれとアイシスが逃げても仲間に迷惑はかからないな。
だが、カルア王国の多くの民たちは殺されるだろうな……。
もしかしたら、ここはおれの恩人である精霊のハリスがいて、小さい頃おれを育ててくれた屋敷の人たちだっているかもしれないんだ。
これでいいのかよ……。
だけど、死にたくない……。
今までこういう事態は想定してきてアイシスと特訓もしてした。
だけど、いざ自分よりも強い相手と殺し合いになるとわかったらおれは……。
「アイシス……おれ……」
そうだよ。
やっぱりアイシスだけに戦ってもらおう。
相手は魔王クラスなんだ。
おれは戦力にならないんだ。
側にいたって、結局役に立たないし二人で戦うとしても邪魔になるだけだろう。
だけど、どうしてだろう。
おれのために戦ってくれなんてアイシスに言えない……。
二年前、魔族がおれの住む村を襲撃してきたときにカイル父さんとハンナ母さんはおれを残して戦った。
あのとき、もしもおれが二人に付いて行ったらと何度後悔したんだっけ……。
カイル父さんとハンナ母さんに守られておれは助かった。
二人と戦う道を選ばずに、二人の犠牲の上におれは生き残った。
絶対に……あんなこと繰り返したくない。
アイシスを……失いたくない……。
『わたしの名はアイシス。カシアス様の配下でございます』
『お疲れさまですアベル様。それでは、別の場所に転移しましょう』
『申し訳ございませんでしたアベル様。これからはしっかりと逐一報告させていただきます』
『いいえ、黙りません。アベル様は疑うということを知らなさすぎます。このままでは!』
『そんなヴェルデバラン様に私やカシアス様、リノ様は忠義を誓い仕えて参りました。そして、今でもアベル様に同様に忠義を誓っています』
『これから何があろうと私たちはアベル様に付き従います。どうかよろしくお願いします』
そうだよな。
まだまだアイシスには教えてもらわなきゃいけないことが山ほどある。
お別れするには早過ぎるよな。
おれがいたって役に立てないのかもしれない。
だけど、ここでアイシスと別れたらきっと一生後悔する気がする。
アイシスも、この国もおれは守りたい!!
「アイシス……おれも付いていく!」
おれは覚悟を決めアイシスに告げる。
「しかし……!!」
アイシスはおれの顔を見て言葉を止める。
おれの決意を読み取ってくれたのだろうか。
「防御魔法は常に張っておいてください」
「あぁ。頼むぞアイシス」
おれはアイシスの転移魔法に包まれる。
おれたちを待ち受けるのはいったい何者なのだろうか。
例えどんなやつが待ち受けているのだとしても、おれはもう誰一人失いたくはないんだ。
大切な人を守るために身に付けた力、それを今使うときがやってきた。
どうも作者です。
長かった第二章もこの魔族との展開でラストです。
少しでも楽しんでもらえるように頑張って書くのでよろしくお願いします!!




