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68話 天使と悪魔と精霊と(2)

  「そして、魔王序列の第1位から第4位までは全て精霊体の魔王なのです」


  おれは、アイシスのその言葉の意味を理解するまでに時間がかかった。


  へぇ……?

  おれの聞き間違いでなければ、魔王の強さの順位は1位から4位まで精霊体の魔王って聞こえたぞ。


  精霊体の魔王って4人しかいないんだよな?

  何それ、えっ?


  「つまり、4人しかいない精霊体の魔王が魔界で上位4人の魔王ということです。そして、魔界の歴史ではかつて『霊魔大戦(れいまたいせん)』と呼ばれる精霊体と魔族が争っている時代があったようです」


  「それもあり、派閥というのは魔族の魔王たちが力を合わせ、精霊体の魔王と同じだけの力を持とうとするものでもあります」


  つまり、派閥というのは精霊体の魔王たちが強過ぎるために、魔族の魔王たちが協力しているってことなのか?


  魔王たちの想定外の勢力バランスにおれは驚く。


  「魔王に限らず、魔族より精霊体の方が強いのか?」


  「平均的なことを考えれば、精霊体も魔族も強さは変わらないと思います。しかし、精霊体の魔王の配下の中には、『魔王スキル』を持ち、魔王クラスの実力を持つ精霊体は多いです」


  「彼らは魔王たちの勢力バランスが崩されることを防ぐため、絶対に魔王になれない存在です。まぁ、彼らが魔王になりたいと思っているかは別ですが——」


  魔王クラスの強さを持つ配下とかエグすぎるだろ。

  実質、精霊体の魔王たちも派閥があるようなもんじゃないか。


  「今日はいつもと違って、けっこう魔界のことを話してくれるんだな」


  アイシスのことでよくわからないことがある。

  今日のように魔界や魔王のことを話してくれるときもあれば、時間はあるのに全く話してくれないときもある。

  今日のアイシスは落ち込んでいたし、機嫌がいいから話してくれるっていうわけではないんだろうな。


  「これは大事なことだと判断したからです。なぜなら、我々が戦うことになるであろう冒険者ギルドと通じている上位悪魔は魔王クラスの実力を持っていると思われるからです」


  おいおいおいおいおい!!


  アイシスは突然重要なことを言ってきた。


  「ちょっと待った!! そんなこと今までひとっことも聞いたことなかったんだけど!?!?」


  おれはアイシスに文句を言う。

  これほど重要なことをなぜ2年間も黙っていたんだ!?


  「はい。これについては、もしもアベル様に話したとしたら、アベル様はやる気をなくされてしまうかもしれないと思ったからです。しかし先日、どんなことでもしてくれると誓ってもらったのでお話しても良いかと思いました」


  確かにおれはアイシスに誓ったよ?

  おれのことをかつての(あるじ)だと思って尽くしてくれるアイシスたちの姿を見たら協力したくなったからね。


  あぁ、でもやるしかないよな。

  あのときの気持ちは嘘じゃないし、おれにできることなら何でもやるって言ったんだもんな。


  「わかったよ。相手が魔王クラスだろうが関係ないよな。がんばるよ」


  おれは内心渋々ではあるが自分なりに善処することを改めて誓う。


  「ちなみに、魔王序列第1位は『天雷(てんらい)の悪魔』の呼ばれる最上位悪魔です。最上位悪魔とは、上位悪魔の中でも群を抜いた実力を持つ悪魔のことです。そして、彼は十傑(じっけつ)と呼ばれる魔王クラスの上位悪魔を10人従えています」


  急にどうしたのだろうか?

  アイシスは魔王の話をしはじめる。


  しかし、天雷(てんらい)の悪魔なんて名前からして強そうだし、魔王クラスの上位悪魔を10人従えているなんてどんなバケモノなんだよ。


  「私とリノ様は、冒険者ギルドと繋がっている上位悪魔はこの十傑(じっけつ)の中の1人だと考えています。ですので、その上位悪魔を倒した場合、天雷(てんらい)の悪魔が出てくることも想定しておいてください」


「 ……」


  おれは絶句してしまう。

  アイシス(こいつ)は何を言っているんだ?


  アイシスはジッとおれの顔を眺めてから少しションボリとした。


  「今のは私なりの冗談(じょうだん)というものだったのですが、まだまだ未熟のようですね。天雷(てんらい)の悪魔が出てくることはおそらくないので安心してください。あったとしても他の十傑(じっけつ)を数人相手にするだけです」


  いやいやいやいや!!!!

  何の救いにもなっていませんよアイシスさん!!

  おれにはちょっと、いやかなり荷が重すぎますって!!


  十傑(じっけつ)が相手っていうのは冗談ではないんですか?

  それに魔王クラスの上位悪魔を数人相手にするって軽々しく言わないでくださいよ。


  そこでおれはようやくカラクリに気づく。


  「そっか、アイシスも上位悪魔だもんな。もちろん、同じ上位悪魔である十傑(じっけつ)よりも強いんだろ?」


  おれは確認のために一応アイシスに聞いておく。

  まぁ、あれだけのことを豪語しているんだ。

  聞くまでもなかったな。


  「いいえ、おそらく十傑(じっけつ)の中で一番弱い上位悪魔にも今の私では勝てないでしょう。それほど、あの者たちは強いです」


  なんとアイシスは十傑(じっけつ)の中の誰一人として倒すことができないと宣言しやがった。


  「はぁぃい? じゃあ一体どうやって上位悪魔たちと戦うつもりなんだよ! 何か奥の手でもあるのか?」


  おれはアイシスが何を考えているか、さっぱりわからない。

  勝てない(いくさ)を挑もうとしているのか?


  「確かに私では歯が立たないでしょう。しかし、かつてのヴェルデバラン様の知恵と力を取り戻したアベル様ならば十傑(じっけつ)の数人なんて相手ではありません。さあ、アベル様。これからも頑張りましょう」


  アイシスはこれなら問題なかろうと言わんばかりに顔を輝かせてそう語る。

  なんかアイシスがいい感じに期待してくれちゃってるけど、そもそもおれは魔王ヴェルデバランの転生者じゃないし、そんなの無理だよ……。


  だが待てよ?

  今までおれは地球からの転生者だということで魔王ヴェルデバランの転生者ではないと思っていた。


  しかし、ここは魔法が存在する世界なんだ。

  本当におれは魔王ヴェルデバランの転生者で、魔法によって地球という星で暮らしていたというように記憶を改ざんされているのかもしれない。


  そうだよ、だってカシアスやアイシスといった、かつて魔王ヴェルデバランに仕えていた配下たちがそう言っているんだから間違いない!


  なんてことだったらいいのにな……。


  おれは思いついた妄想に少しだけ浸っていた。


  「そういえば、魔王ヴェルデバランは魔王序列で何位……()()()んだ?」


  おれは、ふと疑問に思ったことをアイシスに聞いてみる。

  魔王ヴェルデバランがどれほど強かったのかは知らないが、魔王クラスの十傑(じっけつ)を数人相手に勝てるというのならそれなりに強いのだろう。


  「はい。ヴェルデバラン様は魔王序列第9位()()。劣等種として史上初の魔王となり、いきなり魔王序列で一桁となったこともあり、魔界でヴェルデバラン様の名前は広く知れ渡っております」


  62人の魔王のうち9番目に強いのか。

  なかなかやるじゃないか。


  おれは自分のことのように少し誇らしくなる。

  アイシスの言う通り、確かに劣等種であることを考えれば相当なインパクトだったんだろうな。


  しかし、なんでだろうか。

  おれはアイシスの言い方に少し違和感を覚えた。


  「9位()()()?」


  「9位()()


  おれは言い方を少し変えてみる。


  「今の魔王序列の9位は?」


  「もちろんヴェルデバラン様です」


  おれは自分の中で状況を整理してみる。

  すると、アイシス自ら口を開いた。


  「一応アベル様にお話しておきますが、ヴェルデバラン様が転生なさったことは一部の配下しか知りません。他の魔王たちはもちろん、国家の民たちもヴェルデバラン様は未だにご健在であると思っております」


  つまり、魔界では魔王ヴェルデバランはまだ生きてるってことになっているのか?


  「どうして死んだことを伝えないんだ?」


  「それには複雑な事情があります。すみませんが現段階では話すことはできません」


 どうやらこれについては教えてもらえないようだ。

 まぁ、仕方ないか。


  「魔王ヴェルデバランがいなくても国は上手くやっていけているのか?」


  「はい……。リノ様を中心とした四皇(よんこう)と呼ばれる四人の配下たちの手によって国家を運営しています」


  そうか、おれにはよくわからんが色々と大変なんだな。

  じゃあ、一応魔王ヴェルデバランはまだ生きているってことになっているらしいし、女神様を含め、魔界の者たちに会ったときは色々と黙っておかないとな。

  おれはそう思った。


  おれとアイシスはその後たわいもない話をし、そしておれは眠りについた。

  最初は落ち込んでいたアイシスだったが、少しは元気になったみたいでよかったな。

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