46話 バルバド vs アベル
「まだだ……。まだ終わってねぇ」
おれが一番初めに倒した剣士がそう話す。
どうやらまだ意識は残っていたようだ。
「いや、おれとお前たちでは実力差があり過ぎる。残念だが、カレンさんのことは諦めてくれ」
今回はこのような形で対面することになってしまったが、よくよく考えたらこいつらだって冒険者なんだ。
きっと、ギルドに搾取される側の被害者なのだろう。
そう思うとおれとしても懲らしめようとかいう気分には到底なれない。
「確かにあたしたちじゃ無理だわね……。だけど、あたしたちは絶対にやらなくちゃいけないことなのよ」
魔法使いの女もまだ諦めてはいないようだ。
だが、おれとしても負けるわけにはいかない。
カレンさんとバルバドさんを守るんだ。
そして、剣士の男が這いつくばりながらバルバドさんの方を見て話し出す。
「バルバドじいさん……あんたおれたちと同じ理由で雇われてるらしいな……」
剣士の男は一体何を言っているのだろうか?
バルバドさんは既に冒険者をやめているはずだ。
雇われるとは何のことなんだろう。
「お前らの理由は知らないが、それでカレンが奴隷になっていいわけではない! 悪いが今回は諦めてくれ。わたしからも彼にそう伝えておく」
バルバドさんは剣士の男にそう返事をする。
彼……?
いったい、どういうことなんだ。
「あんたは何もわかっちゃいないようだな。おれたちはあの人に逆らえないんだ……。魂を人質に取られているんだぞ! わかってんのか!? あんたのせいでセシルさんが苦しむことになるんだぞ!!」
剣士の男はバルバドさんに怒鳴る。
おれは嫌な予感がしてきた。
カレンさんを追ってきたギルドの連中とバルバドさんが繋がっているのか?
魂を人質?
どういうことなんだ……。
そんなことを考えていたとき、最悪の展開が起こる。
「バルバドさん……何の真似だよ?」
おれはバルバドさんに尋ねる。
何かの間違いであって欲しい。
きっと、幻覚の魔法でもかけられたのだろう。
そうじゃなきゃ説明できっこないぞ……。
おれの目には、カレンさんの背後から首に剣を突きつけて捕縛しているバルバドさんが確かに映っていた。
「おじいちゃん……?」
カレンさんは震えながらバルバドさんに声をかける。
「すまないカレン……だが、わたしはこうするしかないんだ」
バルバドが申し訳なさそうにカレンにそう告げる。
バルバドさん……どうしてそんなことしてるんだよ!
「バルバドさん、カレンさんのことを本当の子どもみたいだって言ってたじゃないですか! なんでそんなことするんですか!?」
おれがバルバドさんに気を取られている隙に魔法使いの女が攻撃をしてくる。
火球を撃ってきたがおれは背後に闇の壁を一部展開して防ぐ。
「くっ、これも防ぐのかい……。でも、人質を取られた状態で5対1、どうするんだい?」
倒れていた剣士や戦士もゆっくりと起き上がる。
マズいな……あの魔法使いの言う通り、カレンさんが人質に取られているこの状況……。
それにバルバドさんとやり合うしかないのか?
おれはいまだにバルバドさんが敵だなんて信じられない。
本当は誰かに操られているんじゃないかと思っている。
おれはバルバドさんと戦いたくはない。
しかし、カレンさんは絶対に助けなければならない。
追い詰められているこの状況でおれはなす術もなく困り果てていた、そのときだった。
「残念ながら人質がいない状況で5対2です」
おれの真横にアイシスが転移魔法で現れる。
しかも、カレンさんを抱きかかえてだ!
「アイシス!」
おれはアイシスが来てくれたことに歓喜する。
バルバドさんはカレンさんが目の前から消えたことに驚き、カトルフィッシュの四人組は突如現れたアイシスに驚いている。
「お前、いったいどこから現れた!? それになぜカレンがそこにいる!?」
魔法使いの女が怒鳴り散らす。
これで形勢逆転だ。
おれは人質がない状態で戦える。
「なるほどね。コウガやドウに勝る剣術を持ちながらあの魔法と防御魔法はどうやっているのかと思ったけど、隠密に長けている仲間によるサポートがあったのね」
修道士の女は何か納得したような素振りを見せる。
どうやら彼女はアイシスが隠れておれに防御魔法を使い支援していたと思っているようだ。
まぁ、普通にこの状況になったらそう思うよな。
「アイシス、その……さっきは……」
おれはアイシスに謝ろうとする。
結局おれが間違えていた。
もしも、アイシスがいなかったらカレンさんは今も無事だったかわからない。
「反省は後で聞きます。アベル様には今やるべきことがあるはずです」
アイシスはいつものように淡々と話す。
よし、後でしっかりと謝ろう。
おれは何度も何度もアイシスに助けてもらっている。
だからこそ、おれにできることはしっかりとやらないとな!
「本当に助かった、ありがとう。バルバドさんはおれに任せてくれ。あっちは頼んだ」
おれはアイシスを背にバルバドさんの方を向く。
戦わなくてはならない。
バルバドさんにどんな訳があるのかは知らないが、こんなこと間違っている。
「アベルくん……わたしの前に立ちはだかるのなら手加減はしない。おれは……絶対に負けられない!!」
バルバドさんがおれに向かってくる。
正直、速いけれどあの剣士ほどではない。
おれは少しだけ油断していた。
すると、おれの足元の床が急に粉々割れておれの態勢が崩れる。
ヤバい!
バルバドさんの斬撃に対応できない。
おれは剣ではなく防御魔法を使って対応する。
おれの目の前に闇の壁が現れてバルバドさんの一撃を完全に防ぐ。
これを見たバルバドさんは一度おれとの距離を取る。
「今のはまさか……」
おれが闇属性魔法を使えるのはバルバドさんは知らなかった。
だからこそ、驚いているのだろう。
「アベル様、こちらは終わりました」
アイシスの声がしたので振り返ると、カトルフィッシュの四人組は全員床にうつ伏せの状態で並べられていた。
意識はあるようだが抵抗はできないようだ。
アイシスはいったい何をやったんだ……?
まぁ、これでカレンさんはアイシスが見ていてくれるし集中してバルバドさんの相手ができる。
おれはバルバドさんと再び向かい合う。
「純血の人間にしてその若さでその実力……。本当に尊敬に値する」
「ありがとうございます。では、そんなおれから一つ質問させてください。カレンさんへの気持ちは偽りのものだったんですか?」
おれは疑問をバルバドさんにぶつける。
バルバドさんが敵なのはもう間違いないだろう。
しかし、おれたちに見せたあの表情も、カレンさんが感じてきた日々も全て偽りだったのか?
「偽りのはずがない! カレンと一緒に暮らす日々は本当に楽しかった。彼女を愛していた。だが、それとこれとは別なんだ!」
バルバドさんは再びおれに向かってくる。
それに伴って複数の土の弾丸が現れておれに向かってくる。
おれ以外で攻撃魔法を複数展開する人を見たのは初めてだな。
サラも挑戦していたけれど、結局できなかった。
おれは闇の衣を瞬時に纏って土の弾丸を全て弾く。
そして、バルバドさんと剣を交える。
ガギッッッッン!!!!
おいおい、嘘だろ。
バルバドさんの持つ剣は見たところ石で出来ている。
それなのに、なんでおれの持つ真剣と互角に渡り合えるんだ!?
そして、おれはバルバドさんに力負けしてしまい吹き飛ばされる。
受け身を取ったが、この一瞬でバルバドさんに距離を詰められ連続で剣を振るわれる。
おれは腹と肩と一箇所ずつ斬られてしまった。
「ぐわぁぁぁああ」
めちゃくちゃ痛い。
しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
おれは闇の壁を発動して、一時的に攻撃を防ぐ。
すると、突然激しい痛みが身体を襲ったが傷口が塞がってゆく。
おれは防御魔法を解除して闇弾を撃ち込む。
しかし、バルバドさんには躱されてしまい闇弾は壁を破壊する。
この人、本当に強い……。
今まで出会ってきた人の中で一番強いのではないだろうか。
「バルバドさん、カレンさんのことが大切ならもうやめてください。こんなの間違っていますよ!」
おれは息を切らしながらバルバドさんに訴える。
バルバドさんの顔を見ればわかる。
本当につらそうだ。
何かの使命感のようなものに駆られて戦っている気がする。
「これが間違っていることなのはわかっているんだ。だが、わたしは……おれはセシルが苦しむのだけは耐えられないんだ!!」
バルバドさんの叫びは、まるで魂の叫びのようであった。




