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40話 ブラック冒険者ギルドへようこそ(4)

  おれは鍵がかかって開かない金属製のドアを闇属性魔法で強引にぶち破った。

  そして、囚われていたカレンさんと先ほどセルフィーの側近としていたボディーガードと同じ制服を着た男を見つける。


  おそらくアイシスの言っていた部屋の中にいるもう一人というのはあいつのことだろう。

  そして、男はおれに魔法を放ってきたので敵と見なし、容赦なく潰すことにした。


  まぁ、命は取らないように攻撃魔法は全部スレスレに撃ち込んであげたんだけどね。

  このコントロール力もアイシスとの訓練があってできるようになったことだ。


  そして、カレンさんを縛る魔道具を破壊し、彼女を解放するとおれたちはアイシスの転移魔法でギルドの建物の外へと出る。


  「えっ……」


  カレンさんはどうやら転移魔法で景色が一転したことに驚いているようだ。


  「カレンさん、大丈夫でしたか?」


  カレンさんは、ぼけーっとおれの方を見ている。


  「あっ! うん、わたしは大丈夫だったよ。あべるくん? だったよね! ありがとう」


  カレンさんはハッとして慌てて答える。

  どうやらなんとか間に合ったようだ。

  それにしてもおれの名前を覚えていてくれるなんて嬉しいな。


  すると、アイシスもおれたちのもとへとやって来た。


  「アベル様。一応あの男に口止めはしておきました。これですぐに追手が来ないと良いのですが……」


  どうやらアイシスはあの場に残って先程の男を脅していたらしい。

  うん、流石悪魔だね。


  それにアイシスは本当に判断力も素晴らしい。

  あの男にカレンさんが逃げたとすぐに言いふらされたらおそらく追手がやって来る。

  ナイスアイシス!


  「えっ……もしかして……転移魔法を使えるんですか?」


  カレンさんはアイシスの方を向いて震えながら尋ねる。

  そういえば転移魔法を使っている人間なんて見たことがないな。

  家族で引っ越しをする際も馬車を使う予定だったし……。


  転移魔法を使えるのはカシアスやアイシス……それにリノも使えるのか!

  あれ……もしかして見られちゃまずいものを見られたのか?


  「はい、私は転移魔法を使ってアベル様と貴女を逃しましたので」


  アイシス〜!?

  まぁ、言ってしまったのならしょうがない。

  どんな問題になるかはわからないが流れに身を任せるしかないだろう。


  「すっ、すごい……。七英雄様でも転移魔法を使えたのは二人だけと言われています。闇属性魔法に関しては使われた記録すら残っていない伝説上の存在です。いったい、あなた方は……」


  転移魔法って七英雄も使っていたのか。

  おれは精霊体にしか転移魔法は使えないと思ったけれど、七英雄に使えたってことは人間でも使えるんだな。

  これでアイシスが悪魔だってことはまだバレなさそうだ。


  なんかカレンさんのおれたちに向けるまなざしが輝いている気がするのは気のせいだろうか?

  とりあえず、話は後にしてここから逃げなければならない。

  アイシスの転移魔法でギルドの建物の外に出たが、ここはやつらのアジトそのものだ。

  一刻も早くここから離れなければならないだろう。


  「カレンさん、悪いけど説明は後だ。 ここから早く逃げよう!」


  おれはそうカレンさんにそう告げる。

  だが、おれの言葉を聞いたカレンさんの瞳からは光が消え、顔がこわばる。


  「わたしはここから逃げることはできないの……大切な知り合いを人質に取られているからね……。だからわたし、ギルドに戻るよ。二人は早くここから逃げて。もう……こんなところに来ちゃダメよ」


  カレンさんはおれたちにそう告げてギルドの方へと歩みだす。


  人質だと……?

  よくわからない契約で奴隷にさせられる上にそんなことまで……。

  セルフィーら(あいつら)許せない!


  こんな横暴な振る舞いが許されていいはずがない。

  現にカレンさんの顔を見れば嫌がっているのは明らかだ。

  それなのにこの世界ではその事実を受けて生きていくしかないというのか?


  おれはそんなの認めない!

  そんな組織ならば冒険者ギルドなんておれがぶち壊してやる!


  「カレンさん! 人質ってどこにいるんですか? おれとアイシスが絶対に助けてみせますよ。だからギルドに戻るなんて言わないでください! だって……今のカレンさんとてもつらそうです」


  カレンさんの足がピタリと止まる。

  そして彼女は振り返るとおれたちをジッと見つめる。

  彼女の瞳からは涙が流れていた。


  「お願い……あの人を助けてくれないかな……。わたしはどうなってもいいから」


  そう言ってカレンさんは泣き出す。


  「おい、あれって探してる……」


  「そうだ! あの制服は間違いないぞ。おい、みんな! こっちにいたぞ!!」


  どうやらギルド内でカレンさんが逃げたことが広まってしまったようだ。

  冒険者らしきやつらがこちらに向かって来る。


  チッ、うっとうしいやつらだぜ。

  おれは冒険者の方に向かって魔法を放つ。


  「土弾アースバレット!」


  いくつもの土の弾丸が高速で冒険者たちの足下にさく裂する。

  その衝撃で砂ぼこりが舞い上がり視界を遮る。

  そしてこの隙におれとカレンさんはアイシス転移魔法で逃げ出すのであった……。




 ◇◇◇




  ひとまずおれたちはフリントの街から脱出した。

  カレンさんの言う人質というのがどこにいるのかはわからないが、もしもギルドの建物内にいるのだとしたら救出は少し困難なものになるだろう。

  そんなことを考えていたときだった。


  「ありがとう……本当にあなたたちってすごいのね」


  カレンがそうつぶやく。

  あまり元気がない。

  やはり人質のことがあるからだろう。


  「それでカレンさん。人質さえ救い出せればもうギルドに戻る必要はないんですよね?」


  カレンさんが悲しむ必要のないためにおれにできることがあるのなら……。


  「ほんとに助けてくれるの……? わたしにとって大切な家族のような人がいるの……」


  「お願い! その人を守ってあげてくれないかな」


  カレンさんがおれを真剣な表情でおれを見つめて頼み込む。

  大切な家族か……。

  そりゃ何があっても守りたいよな。


  「任せてくれ! おれとアイシスが絶対に助けてみせますよ」


  「アベル様がそうおっしゃるなら私もできる限りの力になりましょう」


  アイシスはこんな口調だが、なんだかんだで優しいところがあるからな……たぶん。


  「それで、その人は今どこにいるんですか?」


  おれは人質について詳しく聞き出す。


  「その人はフリントから少し離れたバルマという街で宿屋をやっているの……」


  どうやらその人質というのは先ほどのギルドの建物内に囚われているわけではないようだ。

  それならば助け出すのは難しくはないだろう。


  おれはカレンさんの話を聞き少しだけ安心する。

  そして彼女は話を続けるのであった。


  「実はわたし……昔の記憶が全くないの。自分が何歳なのかもわからない。ある日、気づいたら馬車に乗っていて……その馬車が魔物に襲われて、わたしは逃げ出したの。そこは森の中で何日もさまよった……」


  どうやらカレンさんはとても苦労した過去があるらしい。

  おれとアイシスは静かに彼女の話を聞く。


  「それで食べる物も何もなくって……もう死ぬかと思った。そんなときに、バルバドおじいちゃんがわたしを見つけて助けてくれたの」


  「それでね、数年前に奥さんを亡くして、子どももいないバルバドおじいちゃんはわたしを本当の孫みたいに育ててくれたの」


  「記憶のないわたしにこの世界のことを色々と教えてくれもした。だからわたし、恩返しのために一生懸命バルバドおじいちゃんの宿屋で働いていたの……」


  カレンさんもおれのように愛情を持って家族として受け入れてくれる人に巡り会えたんだな。


  「そんな風に幸せに二人で暮らしていたの……。だけどある日、セルフィーがわたしのところへやって来て話があるからって……」


  「ギルド職員として働くなら高い給料を出す、そうすればバルバドおじいちゃんにも恩返しができるって……。断ったとしても、この宿屋とバルバドおじいちゃんには()()()()何もしないって……」


  セルフィー……やっぱりあいつか。

  わたしは何もしないだって?

  そんなの明らかな脅しでしかない。


  その宿屋の評価を悪く冒険者たちに伝えることや冒険者たちを宿屋の前で暴れさせることだっておそらくできるだろう。

  カレンさんの弱みにつけ込んだクズ野郎だ。


  「それでわたしは断れるわけもなく不当な契約を結ばされた……。大きな問題を起こしてギルドの名に泥を塗ればすぐに奴隷に落ちるというものだった……」


  「セルフィーのせいで他のギルド職員も信用できなかった。毎日ストレスが溜まって気が滅入りそうにだったた……。バルバドおじいちゃんのところへは数年は帰れないと言われて……」


  おれはセルフィーに対する怒りが抑えきれそうになかった。

  どうしてセルフィーはこんなことができるんだ。


  「ごめんね、こんな余計な話までしちゃって」


  カレンさんはため息をついてそう言った。

  きっと、このことをずっと誰かに話したかったのだろう。


  「事情はわかりました。とりあえずそのバルバドさんのところへと向かいましょう!」


  「ありがとうね」


  カレンさんは涙声でそう言う。


  「それに、つらいことおれでよかったら聞きますから。いつでも言ってくださいね」


  誰かに話せば楽になることもある。

  おれだってずっとずっと自分のスキルのことで苦しんできたんだ。

  その気持ちはとてもわかる。


  そして、おれたちはアイシスの転移魔法でバルバドさんのいるバルマへと向かった。

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