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39話 サラの中等魔術学校生活

  わたしはからっぽの日々に退屈していた。


  わたしはエウレス共和国、テスラ領最高峰の中等魔術学校に入学した。

  入学試験は筆記も実技もダントツで1番。


  先生たちを含め周りの学生たちはわたしを神童だの七英雄の再来だのともてはやすが、そんなことを言われるのは不愉快でしかない。

  無詠唱で伝説上の闇属性魔法を使っているアベルにこそ神童という言葉はふさわしい。

  それに、大切なものを何一つ守れなかったわたしは英雄なんかじゃない。


  わたしはパパとママとアベルに守られて生きている。

  わたしのせいでパパとママは死んで、アベルは悪魔と契約することになった。

  全部全部わたしが——。


  先生やクラスメイトといると疲れる。


  わたしにかまわないで!

  もうわたしのことは放っておいて!!


  心の中で大声で叫ぶが誰にも届かない。


  なんでこんなことになっちゃったの?

  学校に通うのをあんなに楽しみにしていたのに……。


  あの日……わたしが都に旅立つ前日の夜に魔界から魔族が魔物を引き連れわたしたちの村にやってきた。

  わたしの村には魔法を使える人なんてほとんどいなかった。

  それこそ魔物と互角に戦える魔法を使える者など、わたしたち家族だけだった。


  だからパパとママは村にいる人たちを助けに向かった。

  わたしはパパとママに行って欲しくなかった。

  それでも二人はこういう事態になったときには、お世話になった村のみんなを助けに行くとずっと前から決めていた。


  あれは確かわたしがママの目の前でアベルに魔法を放った日だった。

  その日は家族会議となり、わたしはママと二人でいろいろと話をした。


  そのときにわたしは初めてあの村に引っ越した理由もアベルが弟になった理由も聞いた。

  どうやらあの悪魔——カシアスがそのときにはっきりと、アベルがカシアスを呼び出したと言っていたらしい。

  そして今度はカシアスの方からアベルのもとへと訪れると……。


  それでパパとママはアベルの身を守るためにファルステリア大陸最大の国家であるカルア王国から亡命してエウレス共和国にある、外れの村に引っ越してきたらしい。


  どうやら、このときにあの村の住民たちは見ず知らずの子連れの家族を村へ迎え入れてくれたそうだ。

  それもあって二人は村のみんなに恩を返すために働いていたし、誰かに困ったことがあれば全力でそれに応えていた。


  それに、もしもこの村に悪魔がやってくるのだとしたらパパとママは村のみんなを逃すため守るために戦うから、わたしはアベルと二人で先に逃げるようにと訓練の合間に乗馬を教えてもらうようになった。


  そして、村を立つ前日に悪魔ではなかったが魔族たちが襲撃して村のみんなは上位の魔物にやられて全滅。

  パパとママは魔族に殺された。


  わたしも殺されかけたが、アベルが自分を犠牲にしてカシアスを召喚してくれたこともあり命は助かった。

  そして、アベルはわたしの立派な精霊術師になるという夢を叶えるためにお金を稼ぎながら自分を鍛え直す修行を始めた。


  本当はもうそんなことはどうだっていい。

  もう精霊術師になんてなれなくたっていい。

  魔法なんて二度と使えなくなってもいい。


  だからパパとママを返して欲しい。

  アベルとだけでもいいから一緒に暮らしたい。

  もうわたしを一人にしないで……。


  「どうかしたのですかサラ?」


  部屋に帰ってきてから机に突っ伏したままのわたしを見て、リノが声をかけてくる。

  彼女はカシアスがわたしの護衛にと付けてくれた精霊だ。

  嫌いなわけじゃないけれど、今はそっとしておいて欲しい。


  「ほっといて……」


  わたしはボソッとつぶやく。

  あぁ、つらい……。


  毎晩あの日のことを思い出しては泣き、毎朝家族のいない現実を思い出しては泣く。


  そんなときいつだってリノは静かにわたしを見守っていてくれる。

  少し悪いことを言っちゃったかな……。


  「ごめんリノ。ただ大好きな家族がだれもいないのがツラくて……」


  この日、わたしは初めてリノに本音を打ち明けた。

  誰かに話したい、聞いてもらいたい。

  だけど、誰にも言いたくない。

  そんなジレンマをわたしは毎日抱えていた。


  「精霊の私には家族を亡くした経験はないのだけれど、それでも大切な人が亡くなってしまったり、側にいてくれないときのツラさは私にもわかる。私でよかったら話を聞きますよ」


  リノが優しくしてくれる。

  わたしの目から涙が溢れてくる。


  「わたし……どうしたらいいのかな……。パパもママも死んじゃって……アベルも遠くに行っちゃって……」


  「一人で毎日毎日、魔法を練習していると周りはセアラは天才でいいなって……。わたしはみんなの方が羨ましくって……。だって家に帰れば家族がいて……朝起きれば家族がいて……。わたしは……わたしは……」


  わたしは毎日ツラいと思っていることをリノに伝える。

  リノはわたしを抱きしめて頭を撫でてくれる。

  まるでいつもママがしていてくれたように……。


  「ごめんなさいね。あなたの気持ちに気づいてあげられなくて」


  リノは謝る必要はない。

  だって、いつもわたしの側にいてくれるんだもん。

  その気遣いが本当に今にも崩れそうなわたしの心を支えてくれる。


  「リノ、ありがとうね。わたしアベルに会いたいよ……」


  アベルとはもう3週間近く会っていない。

  リノが言うにはアベルはとても苦しい思いをしながら修行をしているそうだ。


  「次にアベル様に会うとき、サラはどんな風になって会いたいの?」


  前にわたしが魔術学校に合格したことを伝えたとき、アベルは意識が朦朧(もうろう)としていたらしく「あっそ」としか返事が返ってこなかった。

  少しだけ悲しかったけれど、理由を聞いたらしょうがないと思った。


  アベルは言っていた。

  わたしを守るために強くなるって。

  そのために今アベルは修行をしているんだ。


  わたしは……。

  わたしはアベルに守られるだけじゃなくてアベルとともに戦えるようになりたい!!

  そのためにはどうしたらいいのだろう。

 

  「わたし強くなりたい! アベルに守られてばっかじゃダメなの。大切な人を自分の手で守れるようになりたい。どんな脅威が襲ってきても跳ね除けられるような力が欲しい」


  もう中等魔術学校に入学してから1週間が経つ。

  入学試験も含めて本気を出していないのにわたしの実力は浮き過ぎている。


  アベルには悪いがこの学校にいてもわたしは強くなれそうもない。

  いっそのこと……。


  「それならサラはわたしと訓練しましょうか。学校が終わったらわたしと二人でがんばりましょう」


  あれこれと悩んでいるとリノがそう提案をしてくれる。

  リノは戦闘向きの精霊ではないと思うけど、それでもきっとわたしなんかより全然強い。


  「学校での授業がサラにとって物足りないのなら、わたしが授業中にもできる課題も出しますよ」


  リノが授業中も訓練を計画してくれるのならとても助かる。


  「本当……? ありがとう! それじゃあ、明日からお願いね!!」


  わたしは元気を出して少しずつだけど前進することにした。

  忘れられないことは無理に忘れる必要はない。

  それも受け入れて今できることをやっていこう。


  待ってなさいよアベル!

  本当に魔法を鍛えておくんだからね!

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