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326話 明かされる真実

  「カシアス……」



  おれは誰もいなくなった荒野で、死んでしまった相棒の名をつぶやき、彼が遺した漆黒のマントをひとり抱きしめる。

  胸にぽっかりと穴が空いてしまったかのような、そんな孤独感に包まれるのであった。



  カシアスはおれの中で生き続けている。

  だって、最後におれに魔力を与えてくれたんだから……。



  そう思えたらのなら、おれはどんなに気が楽なのだろうか。

  だが、そんなものは綺麗事でしかない。

 


  いつもなら、名前を呼べばいつだって真っ先に駆けつけて来てくれた。

  それこそ、魔界から人間界にだって駆けつけてくれた。


  だけど、おれの体内に流れ込んだ魔力は、おれの呼び声に反応してくれはしない。

  あくまでも、これはカシアスが生きた証である魔力であり、カシアス本人ではないのだ。



  もう……カシアスはいないんだ……。



  そして、そんな一人孤独に黄昏れるおれに、とある人物が声をかけてきた——。



  「まさか、本当に魔王ユリウスを倒してしまうとは……」



  天使であるカタリーナさんは、突如としておれの背後に現れるなり、そう告げるのであった。


  「魔王ヴェルデバランは来なかった……。だから、おれはカシアスと二人で戦うしかなかった。もしも、ヴェルデバランが来てくれたら……」


  おれはそんなタラレバを彼女に話す。


  だけど、本当はわかっているんだ。

  魔王ヴェルデバランが来ないなんてことは……。


  だって、魔王ヴェルデバランは死んでいるんだから……。

  だが、カタリーナさんはそれを知らない。


  魔王ヴェルデバランが死んでいることを知っているのは、カシアスやアイシスといった一部の配下たちだけだからだ。

  しかし、おれの発言を聞いたカタリーナさんの口からは、信じられない言葉が飛び出すのであった——。


  「実は()()知っていましたよ。魔王ヴェルデバランが現れないことは……」


  えっ……?


  おれは彼女の発言に、内心戸惑ってしまう。


  だって、彼女がおれに言ってきたんだぞ?

  魔王ヴェルデバランが現れるまで、ユリウスと戦って時間を稼いで欲しいと……。


  それなのに、魔王ヴェルデバランが来ないことを知っていただと……?

  だとしたら、彼女はおれとカシアスが死ぬことを期待して、ユリウスのもとへ送り出したとでも言うのか……。


  そして、カタリーナさんはそんなおれの思考を置き去りにして、言葉を続ける。


  「しかし、想定外の収穫でしたよ。ユリウスとカシアスの二人が同時に消えてくれるなんてね……」


  なんだって……!?


  彼女の言葉に自分の耳を疑ってしまう。

  今のセリフは聞き間違いではないのかと——。


  その発言に、おれは思わず振り向いてカタリーナさんを見つめる。

  彼女は地面に転がる《聖剣ヴァルアレフ》を見つめ、手招きするかのようにして宙を動かしているところだった。


  すると、《聖剣ヴァルアレフ》は彼女に向かって飛んでいき、その右手にすっぽりと収まるのであった。

  それから、《聖剣ヴァルアレフ》は別次元へと収納されて姿を消す。


  そして、顔を覗き込むおれとオモテをあげた彼女の視線が交わるのだった——。


  「何を驚いているんです? 私はただ、裏切り者と邪魔者が消しあってくれたことについて、素直に喜んでいるだけですよ……」


  そこにいたのは、おれの知っているカタリーナさんではなかった……。


  その姿に、おれは思わず固まってしまう。

  彫刻のような美しい姿は相変わらずだ。

  しかし、その顔は不敵に笑っておれを見つめているのであった。



  「アベル様! 逃げてください!!」



  突然アイシスの声が聞こえたと思うと、目の前にいたカタリーナさんが消えた……。

  そして、彼女がいた場所へ闇の弾丸が通過する。


  一瞬の出来事に驚きつつも、おれは冷静になってある人物を探す。

  そう、おれの名を叫んで攻撃魔法を放った人物を——。


  そして、闇の弾丸が飛んできた方に視線を向けると、そこにはアイシスの姿が確かにあるのであった。

  一度は別れてしまったものの、彼女はぼろぼろになりながら、おれのもとへとやって来てくれたのだった。



  「アイシス……。実は、カシアスが……」



  おれは転移してきたアイシスにカシアスのことを伝えようとする。

  しかし、彼女は黙っておれに合図を送る。


  一度、静かにして欲しいという合図が彼女から出されるのであった——。



  「わかっています……。しかし、今はアレをどうにかしないとです。でなければ、カシアス様の死が無駄になってしまう……」



  アイシスの視線の先には、女神さまこと、天使カタリーナさんがいる。

  気づくと彼女は上空へと転移して、おれたちを見下ろしていた。


  純白の翼を大きく広げるその姿は、まるで地上にいるおれたちに何かを告げる天界の天使のように高貴なものだった——。



  そして、アイシスに続きウェインにゼシウスさん、それにサラも次々と転移してくる。


  どうやら、アイシスだけでなく他のみんなも無事だったようだ。

  彼らの姿をみて、おれは安心する。


  みんな傷だらけになりながらも、何とか生きて再会できた。

  そして、そんなおれたちの様子を見ていたカタリーナさんが高らかに声をかける。


  「おやおや、みなさん。ようやくお揃いのようで——」


  集結したおれたちにそう呼びかけるカタリーナさん。

  おれは険悪な雰囲気を察して、アイシスに問いかける。


  「アイシス……。カタリーナさんはおれたちの敵なのか……?」


  すると、アイシスはおれの質問に静かに頷いて答えるのであった。


  「あれから色々と調べてもらいましたが、カタリーナなどという天使は存在しませんでした。それは彼女の偽りの名に他なりません。彼女の真の名は、おそらく——」


  そして、そんなアイシスの言葉を遮る者が一人いた。


  「そんな……どうして……」


  カタリーナさんの姿を見るなり、精霊王であるゼシウスさんの様子が一変する。



  そして——。



  「どうして、そのようなお姿をされているのです……。シャロン様——」



  シャロン——。



  ゼシウスさんは確かにそう言った……。

  ユリウスの記憶にあった、あのローブ姿の人物の名を、ゼシウスさんは呼ぶのであった……。

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