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318話 ユリウス vs アベル&カシアス(2)

  おれにはどうしても譲れないものがあった——。



  (やつ)と出会うまで、そのことは一度たりとも口にしたことはなかった。

  いや、心の中で考えたことすらなかったんだ。


  だが、それは奴と出会ってその場で思いついたものなどではない。

  それは言語化できていなかっただけであって、確かにおれの心に刻まれているものであった。



  傷つく人をみたくない。

  悲しむ人をみたくない。

  不幸になる人をみたくない。

  死にゆく人をみたくない。



  こんなことを、いつから思うようになったのかはわからない。

  ただ、かつておれが暮らしていた村が魔族によって壊滅させられたとき……。

  そして、旅の中で困っている人たちに出会っていく中で思ったんだ。



  彼らを救いたい……幸せにしてあげたいって。



  それはきっと、おれが多くの人によって幸せにしてもらったから。

  だから、おれも誰かのために役に立ちたいって思ったんだ。

  人より優れている力を持っているのなら、この力をそのために使いたいって……。



  だが、奴は言っていた。

  人を救うのは簡単なことではないと——。



  そのためには、『力』、『知識』、『覚悟』。

  それらがなければ、到底できっこない夢物語でしかないのだと——。



  『力』がなければ、この世界にある理不尽から護ってあげることができない。

  『知識』がなければ、困っている人を助けてあげる手段を知ることができない。

  『覚悟』がなければ、人助けをやり遂げることなんてできない。



  そう思い知らされた……。

  そして、おれにはそれらの資格がないことも十分に思い知らされたんだ……。



  自分の正義と、他人の正義がぶつかり合うことも知った。

  偽善者でありながら、軽い気持ちで弱者を救いたいと願うことの罪深さも知った。

  他人に頼まれていない独りよがりの偽善が、どれほどの悲劇をもたらし得るかも知った。



  それでも……。

  それでも、おれは戦う道を選んだんだ……!



  自分の現状を、どうすることもできずに悔やんでいる人たちに出会ってきた。

  他人からの助けがなければ、絶望しながら生きていくことしかできぬ人たちにも出会ってきた。



  おれのしていることは偽善だとわかっている。

  今さらそれを否定することなんてしない。

  こんなことで、すべての人々を救えないこともわかっている。



  だけど……それでも……。

  一人でも多く救えるよう、これからおれは強くなるから!


  苦しんいる人たちを、このままにしておいていいはずなんてないんだから!

  だから、おれは戦う道を選ぶんだ……!!



  気力も、体力も、魔力も……。

  そのすべてを出し切って奴と戦った。



  そして、越えられぬ壁と非情な世界の真理を知り、一度は折れそうになった。

  だけど、カシアスが一緒に戦ってくれることで、不思議ともう一度立ち上がることができた。



  おれたちは……これままじゃ終わらないんだ……!!




  ◇◇◇




  不思議なことに、カシアスと融合(シンクロ)したことで身体が自由に動くようになる。

  先ほどまで、おれの肉体は限界を迎えていたはずなのにだ。



  そして、融合(シンクロ)をしたおれは《聖剣ヴァルフレア》を再び手にして起き上がる。

  すると、これまでとは比較にならないほどの魔力が聖剣から流れ込んでくるのてあった。



  まるで、《聖剣ヴァルフレア》がおれを真の担い手と認識してくれたかのように——。



  そして、再び立ち上がったおれたちを、ユリウスは見下ろして苦言を呈す。


  「まさかとは思うが、まだ戦うつもりなのか……?」


  「死に損ない同士で、仲良く最後のあがきをしようとでもしているのか。滑稽なことだ……。ならば大人しく、ここで死ね——」


  ユリウスはそう告げると、その右手から雷撃を解き放つ。


  一瞬で彼の腕が白い光に覆われたかと思うと、次の瞬間にはおれたちに紫電の魔法が襲いかかる。


  これまでのおれであれば、ユリウスの魔法に対してあまりの速度と威力に恐れをなすか、反応することすら困難だったであろう。

  だが、カシアスと同一化したおれからすれば、ユリウスの雷撃を聖剣で切り裂くことは容易いことであった——。



  そして、魔界最強の魔王から放たれた雷撃は、おれたちを呑み込むことなく、《聖剣ヴァルフレア》に一刀両断されておれたちの背後に落ちて放電する。



  「ほう……」



  あまりに一瞬の出来事だったため、ユリウスは驚きの声をあげる。

  まさか、死に損ないのおれたちに防がれてしまうとは思っていなかったのであろう。


  だが、今のはユリウスが全力で放った魔法でないことをおれたちはよく知っている。

  これまで、今以上の攻撃魔法を散々受けてきたのだからな。



  「ユリウス……。お前、もしかしてビビってるのか? もう一度、カシアスを殺すことに——」



  おれはここで、ユリウスを挑発するかのような発言をする。



  「何だと……」



  これには、流石の奴も怒りの感情を露わにする。

  そこで、おれは改めてユリウスに宣戦布告するのであった。



  「安心しろ。そう簡単にカシアスは殺させやしない。来るなら全力でこい……! そして、おれたち二人がお前のすべてを凌駕して、打ち負かしてやる!!」

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