表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/338

292話 魔王たちの対談(3)

  「なぁ、《原初の魔王》に見捨てられ、見限られた精霊たちの王よ。お前が無謀にも足掻きもがく姿はおれにとって、この上ない愉悦であるぞ、二代目精霊王——。クックックッ……」



  ゼノンは不敵な笑みを浮かべながらゼシウスさんをそう嘲笑う。

  それに対し、ゼシウスさんはその言葉を受けとめて静かに語り出すのであった。


  「確かに、私は魔王として無力だ……。あのお方と比べれば、民たちを護る力も、希望を与える役割も担えていない。それは認めよう……」


  そして、ここからゼシウスさんの言葉に力が入る——。



  「だが、あのお方は私たち精霊を見捨てたわけではない! 事情を知らぬお前が、あのお方の決定について語るな!」


  「あのお方は誰よりも魔族と精霊体の平和を願い、信じ、そして魔界の未来のために尽力した偉大な王だ!」


  「そのような人物に対して、今の発言をするなど下劣であるにも程があるぞ!」



  ゼシウスさんは鬼の形相でゼノンに対して怒りを露わにする。

  その迫力に、思わずおれは圧倒されてしまうのであった。


  おそらく、ゼシウスさんは《原初の魔王》であり、『初代精霊王』であったかつての主人を誰よりも尊敬しているのだろう。

  『初代精霊王』とはかなり長い付き合いだったのかもしれない。


  それ故に、その人物をたいして知りもしないゼノンから悪口を言われたのが許せなかったのであろう。

  かつての主は自分たちを見捨てるような薄情な王ではなかったのだと、強い想いがある故に……。


  しかし、ゼノンは涼しい顔でゼシウスさんの言葉を受けとめる。


  「気に障ったか? それならば謝ろう。確かに、《原初の魔王》が魔界の発展に貢献したことは俺も認めている。アレは偉大な王であった……」


  ゼノンは謝罪の言葉を述べるとともに、《原初の魔王》について語り出す。

  しかし、それは尊敬の念が込められているとともに、ゼシウスさんをさらに刺激するような内容も含まれていたであった。


  「だが、それと同時に哀れな王でもあったと俺は考える。直接話したこともあるが、アレは正義の奴隷とでも呼ぶべき存在だ」


  「決して本人は幸せにはなれない。自分の本当の意志を理解できぬ者たちに讃えられ、崇められ、勘違いされ、さぞ苦難に満ちた人生を送ったのだろうと俺は思っているぞ」


  もちろん、こんなことを言われてゼシウスさんが落ち着いていられるはずもなく……。


  「ゼノン、貴様……。それ以上言うならば、私も黙ってはおれんぞ……」


  ゼシウスさんから強い魔力が放たれる。

  だが、ゼノンは語ることをやめはしない。



  「しかし、お前たちがアレについて理解出来ていないったのは事情であろう? お前たちは各々が思い描いている《原初の魔王》というその理想の色眼鏡でアレを見ていたはずだ」


  「それこそ、《霊魔大戦》を勝利に導いた英雄。『魔王』という存在を創り出し、魔界に一時的な平和をもたらした賢王。戦争に勝った後も、敗者であるはずの魔族たちに手を差し伸べた人格者……」


  「お前たちはその華々しい功績と偉業にばかり目を奪われて、一人の精霊としてアレを見ることはしなかった。故に、アレが本心では何を思い、何に悩んでいるのかを理解することができなかったのだ」


  「そして、そのような民たちから向けられた視線や感情はアレ本人にも伝わっていたはずだ。だからこそ、精霊王……。アレはお前に隠し事をしたまま、転生する決意をしたのではないか?」



  「そっ、それは……」



  ゼノンの言葉にゼシウスさんが詰まってしまう。


  「それを見捨てられた、見限られたと表現して何が悪い? お前は結局のところ、認めたくないだけではないのか」


  「自分たちが《原初の魔王》を支えることができなかったという事実を——。そして、自分たちは《原初の魔王》から本心を打ち明けてもらえるだけの信頼が得られなかったという事実を——」


  ゼシウスさんの胸にはゼノンの言葉が突き刺さっているようであった。

  先ほどまでの怒りは鎮まり、代わりにその表情からは後悔が見え隠れしている。


  しかし、そんなゼシウスさんに対してゼノンはさらに言葉で追い打ちをかけるのであった。



  「アレが転生してからどれだけ時間が経った……? 精霊が転生してくるにしては随分と時間がかかるものだな」


  「さては、魔界になど愛想を尽かして下界でのんびりと暮らしていたりしてな。ハッハッハッ……」



  愉快そうに笑うゼノン。

  周囲には重たい空気が流れる——。


  そんな空気が重い中、カシアスがゼノンに対して物申すのであった。



  「ゼノン様、失礼ですが話が逸れてしまっています。今はそのような話をしている場合ではないかと……」


  「おぉ、そうだった。悪かったな、カシアス。つい、おもしろい話になりそうで無駄話をしてしまった。今はユリウスの話だったな」



  ゼノンは態度でこそ悪びれる様子はないが、口では一応謝罪をすることにする。


  そして、話は再び魔界に訪れる危機について語られるのであった。


  「アベル様。そういうことですので、私としては貴方様を下界に逃したいのです。ここ魔界ではもう(じき)、戦争が起こるでしょう。特に、私やリノ様の側は危険なのです」


  カシアスは今まで隠してきたことを素直に話しておれにそう進言する。


  やはり、カシアスやリノとしてはおれたちを巻き込みたくないようだ。

  ユリウスの狙いは間違いなく二人の魔王国にさだめられているという。



  「でも……。それでも、おれは……」



  しかし、おれとしては何か少しでもカシアスたちの力になりたいと思う。

  今ここで、おれが人間界に戻ったら絶対にいつか後悔してしまうだろう。


  もう、あとで後悔するのだけは嫌なんだ……。



  すると、そんなおれの様子を見たゼノンが声を上げる。


  「よいではないか、カシアス!この少年は《原初の魔王》のように崇高な志をもつとみえる。いつ見ても、正義を体現しようとする志とはなかなかに美しい」


  「だが、お前たちにひとつだけ忠告しておいてやろう。『正義』という名の清き思想は、それが真っ白であればあるほど、簡単に黒ずんでいくものなのだ」


  ゼノンはおれだけでなく、カシアスやゼシウスさんにも視線を移しながらそう語る。



  「どういう意味だ……? 何がいいたい、ゼノン」



  「いずれお前にもわかるさ、精霊王。その時が来ればな……」



  そして、再び沈黙と静寂が訪れる——。



  だが、そんな静寂を切り裂く悲鳴のような叫び声が轟くのであった。



  「ゼシウス様!? 緊急事態です!!」



  再び、おれたちをここまで案内してくれた先ほどの精霊が騒ぎ出す。

  しかも、どうやらかなり焦っている様子である。


  なんだ……?

  もしかして、またゼノンのように魔王がやってくるとでもいうのだろうか。



  だが、事態はもっと深刻なものであった——。



  「悪魔が……。悪魔たちが侵入してきました! それも、魔王ユリウスの配下と思われる上位悪魔たちだそうです!!」



  その言葉におれの血の気が一気に引いていく。

  本当に、今まさに戦争がはじまるとでもいうのだろうか……。



  「現在、テイルズ率いる精衛部隊が出撃してくれていますが、上位悪魔たち相手では時間稼ぎにしかならないでしょう……。ゼシウス様! 私たちに指示をください!!」



  精霊の彼女の悲痛の表情がおれの胸に突き刺さる。

  これは夢ではない、現実なのだ……。



  「おやおや、精霊王。もしかすると、カシアスたちだけでなく、お前もユリウスの標的となっているのかもしれないな。クックックッ……」



  ゼノンは薄ら笑いを浮かべながらそう語る。




  これから、おれたちの正義を貫くための戦いがはじまろうとしているのであった——。

ようやく、ここから第六章魔界編のメインパートです!

VS. ユリウス&十傑の悪魔たちの戦いがこれからはじまります!


戦いのゆくえはどうなるのか?

アベル、ユリウス、ゼノン、ゼシウス、カシアス、彼らは何の為に戦い、その果てに何を望むのか?

そして、この物語のカギを握る人物は一体だれなのか?


いろいろと注目して読んでもらえるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ