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288話 大天使到来

  魔王の庭園では一人の男性がおれたちを待っていた。


  癖がある灰色の髪に、高貴な白服を(まと)うこの男は人間の見た目でいうと30歳後半といったところだろうか。

  そんな彼はおれたちが転移してきたのを確認すると歓迎の意を示す。


  「客人たちよ。ようこそ、我が庭園へ」


  精霊王ゼシウスは優しい声でそう語りかけてくる。


  「初めて会う者もいるようだな。私の名はゼシウス。魔界にいる精霊たちの長となるべく、先代精霊王様から魔王の地位を受け継いだ者だ」


  おそらく、おれやサラの存在を確認したのだろう。


  確か、精霊王ゼシウスは魔王序列第3位の大精霊だ。

  そんな魔界でも地位を確立している魔王であるにも関わらず、彼は劣等種のおれたちに対しても丁寧な口調で語りかけるのであった。


  「お久しぶりです、ゼシウス様」


  リノやカシアスたちが彼に頭を下げて挨拶をする。


  確か、リノは元々次期精霊王候補としてゼシウスさんの配下だったんだっけ。


  つまり、彼女にとって精霊王ゼシウスは昔の主人ということになる。

  二人の様子からして喧嘩別れしたわけではなさそうだな。



  そんな中、彼と同じ魔王であるウェインはというと、街中で知人にでも出会ったかのようなフランクなノリで精霊王ゼシウスに挨拶をするのであった。


  「よう! 久しぶりだな、おっさん」


  ウェインのありまりもオープンなその態度におれは驚いてしまう。

  そして、それは精霊王ゼシウスからも指摘されるのであった。


  「相変わらず、年長者への敬いというのがないのだな」


  「そんなの気にする男じゃないだろ、アンタは——。それに魔王たちはみな平等っていうのが先代精霊王様の御意向なんじゃなかったか?」


  どうやら二人の間では恒例の絡みのようだ。

  ゼシウスさんも笑いながらウェインに応じている。


  それと、魔王というのは序列関係なく対等な存在らしい。


  「そうだな。私はあのお方の考えを否定するつもりはない。だからこそ、お前のその不躾な態度についても放任しているのだ」


  ゼシウスさんは優しい表情でウェインにそう語るのであった。


  そして、彼はおれとサラの前へとやってくると、じっくりとおれたちを見入って感謝の言葉を述べる。


  「そちらの者たちは人間だな。リノから多少だが話は聞いている。生前ハリスやティルが世話になったようだな。そなたたちには感謝しておる」


  なんと、ゼシウスさんはおれたちに頭を下げてそう告げるのであった。

  これにはおれも驚いてしまう。


  「いえ、こちらこそ。二人にはおれたちの方こそお世話になりました」


  「はい、二人にはわたしたちも本当によくしてもらいました。わたしたちの方こそ感謝しています」


  サラもまたそう告げる。


  そして、ゼシウスさんはジッとサラのことを見つめながら考え込むのであった。


  「なるほど……。《不完全な魂(ハーフピース)》の人間か。それでリノたちが保護していたわけか……」


  ゼシウスさんは静かにそうつぶやいた。


  「私はカシアスやリノと話がある。よかったらウェインやそなたたちは、そちらで(くつろ)いでいてもらえないか」


  「はい、お気遣いありがとうございます!」


  こうして、カシアスたちがゼシウスさんと話し合いをしている間、おれたちはこの庭園でくつろぐこととなった。


  時間もあるようだし、ウェインから色々と話を聴くことにするか。

  彼は魔王ヴェルデバランやリノと昔から親しいみたいだし、彼らの昔話を聴きたいと思ったのだ。



  しかし、思わぬ来客の存在によりそのような平穏な時間が訪れることはなくなってしまう。

  ()の登場により、事態は急転していくことになるのであった——。



  突如として、おれたちをここまで案内してくれた女性の精霊が騒ぎ出す。


  「ゼシウス様! 緊急事態です」


  「なんだ、どうした?」


  彼女の表情が曇り、事の深刻さがうかがえた。

  なにやら、雲行きが怪しくなってきたな。


  「魔王ゼノンがやってきたそうです! それも配下の天使を引き連れず、たった一人で……!」


  魔王ゼノン……ってだれだ?


  初めて聴く名前におれの頭にはハテナが浮かぶ。


  「ゼノンがだと……? 珍しいこともあるものだ。それで、あいつは何と言っているのだ?」


  ゼシウスさんは落ち着いて対応する。

  今のところ、ゼシウスさんには余裕があるようであった。


  「そっ、それが……。大事な話があるなら俺も呼べと話しているようです」


  「なんだと……?」


  おそらく、あの女性の精霊は念話で仲間の精霊と話しているのだろう。

  そのゼノンという魔王を前に対応している仲間と——。


  「ゼシウス様、私たちをここへ招待したことをゼノンに話していたのですか?」


  リノがゼシウスさんに尋ねる。


  彼女からしたら当然の反応だろう。

  だが、しかし——。


  「いいや……そんなことはない。だが、断る理由もなかろう。あいつは何を考えているかわからないが、それでも我々に害を加える者ではない」


  「それに四大天使はおろか、普通の天使すら連れてこないというあたり、敵対する意思はないと表明していると見て間違いないだろう」


  あれこれと悩むゼシウスさん。

  そして、彼は突然の来客を受け入れる決断をする。


  「ゼノンをここに呼んでくれ」


  すると、おれたちがここに来たときに使った召喚魔法陣が再び輝き出す。



  そして、一人の天使が出現するのであった——。



  そこに現れたのは、少し緑がかった金髪に銀白の翼をもつ男。

  整った顔立ちをしており、見た目の年齢は人間でいうと25歳前後というところか。



  「やはり、何度来てもここは落ち着くな……。流石、《原初の魔王》が創造した庭園だというだけはある」



  彼は姿を現すなり、周囲を見渡してそうつぶやく。



  「相変わらずだな、精霊王。それに失落者ども」



  おれは直観的に理解する。

  この男は危険な存在だと……。


  そして、おれとは相容れない存在であると——。

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