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286話 魔王ウェインからの招待

  「なぁ、小僧。今からヒマだったりするのか? よかったら、オレともう少し遊ぼうぜ」



  先ほど、おれと拳を交えたケモ耳のウェインがおれに呼びかける。


  「遊ぶって何をしてだ? もう戦うのは嫌だぞ……」


  そんな彼の誘いに対して、おれは思うがままに返答する。


  このウェインという男、戦いの最中やたら楽しそうにしていたからな。

  全然本気を出していなかったというし、次は本気で戦おうなんて言われちゃたまらないよ。


  すると、そんなおれの返答を聞いたウェインはゲラゲラと笑い出すのであった。


  「ハッハッハッ! 言うじゃないか、小僧」


  「魔王を前にしても物おじしないその態度、オレは好きだぜ」


  魔王……?

  いったい、何のことだ?


  ウェインの言葉の意味を理解できないおれは首を傾げてしまう。


  そんなおれの姿を見たウェインは自己紹介をして正体を明らかにするのであった。


  「ん……? そこにいるヤツらから聞いてないのか。オレは魔王序列第18位フェンリルのウェイン=ガンダルフ様なんだぜ」


  なんだと……!?


  突然の告白におれはたまげてしまう。


  おれっ、そんな強いやつと戦わされていたのか!

  そりゃ、ちょっとやそっと工夫したくらいじゃ相手にならないわけだよ……。



  「そういえば、このボウヤには言ってなかったね。黙ってた方がおもしろくなるかもと思ってたら、まさか戦うことになるなんてね」

 

  ナイスバディお姉さんのルイーズがそうつぶやく。


  「ごめんなさいね、ウェイン。私もカシアスもこれまで話したことがなかったのよ」


  そして、リノはというとウェインにこれまで黙っていたことを謝るのであった。


  「なんだ、オレを魔王と知ってて口を出していたわけじゃないのか……」


  少しばかりガッカリするウェイン。

  そして、彼はカシアスたちのところへ出向き順番に挨拶をしていくのであった。


  「久しぶりだな、カシアス。それにオマエはアイシスか……? 初めましてだな、ウェインだ。よろしく」


  おれたちがここに来るなり、ウェインもいきなりトラブルに巻き込まれてしまったのだ。

  再会しても会話をすることのできなかったようで、今こうしてカシアスたちに挨拶をしている。

 

  「お久しぶりです、ウェイン様」


  「初めまして。お察しの通り、私がアイシスです。よろしくお願いします」


  そして、カシアスとアイシスもまたそんな彼に挨拶をするのであった。


  「それとこっちの可愛いお嬢ちゃんは誰だ?」


  ウェインがサラを見てそう尋ねる。


  「彼女はセアラ。私の妹みたいな子なの、仲良くしてあげてね」


  リノがサラを後ろから抱きしめるようにして紹介する。


  「はじめまして……」


  サラはもじもじとしながら頭を下げてウェインに挨拶をする。

  もしかしたら、彼女も目の前に魔王がいるということで怯えてしまっているのかもしれない。


  いや、彼女に限ってそれはないか……。


  そして、挨拶を済ませたウェインに対してカシアスが意見を述べるのであった。


  「申し訳ないのですが、ウェイン様。アベル様はこれから下界に帰らなければならないのです。せっかくのお誘いですがまた今度ということにしていただけませんか?」


  カシアスがおれの状況を説明する。

  最初から、おれが魔界にいていいのはハルを送り届けるところまでって話だったからな。



  「なんだよ、大事な用事でもあるのか?」



  ウェインは残念そうにしながらおれに問いかけてくる。


  もしかして、これはチャンスではないのか?


  カシアスは次期魔王候補であるハルに対してもあんなり甘かったんだ。

  魔王でありながら、自分の主人である魔王ヴェルデバランの友人であるウェインの言葉には反対できないかもしれない!



  「いや、ヒマだ! せっかくの魔王様のお誘いを断るほどの用事なんてない!」



  おれは大声でウェインにそう告げる。



  「おい、本人はこう言ってるぞ?」



  どうなっているんだと言わんばかりにカシアスに問いかけるウェイン。

  これにはカシアスも困ってしまう。


  おれのことをジッと見つめて何やら考えているカシアス……。

  ウェインの機嫌を損ねぬように、おれを帰す方法を考えているのだろうか?


  悩みに悩むカシアスだが、中々いい案は浮かばないようである。

  そして、しばらくするとカシアスはどこか諦めたような様子を見せるのであった——。


  「それでは、私やリノ様たちも同行してもよろしいでしょうか? 時間が来ましたらアベル様を下界までお連れしないといけないので——」


  おぉ!

  カシアスが折れてくれた。


  これで魔界にいられる期間がまた延びたぞ!



  「もちろんだ! っていうか、いつもオマエらはそうやってオレの誘いを断ってきたよな」


  「ヴェルデバランだって、本当は少しくらいヒマだったりするんじゃないのか? いくらなんでも千年以上も友人に顔すら見せないなんて変だろ」


  カシアスの返答を聞き、ウェインはそう愚痴る。


  そういえば、魔王ヴェルデバランが死んだことは一部の配下たち以外には内緒にしているんだっけ。

  ヴェルデバランはここに集まっているウェインやルイーズ、ジュリーとも仲がよかったみたいだが、彼らにもその死は知らせていないということなのか。


  これは一応黙っておいた方がいいみたいだな。


  「申し訳ないございません。私たちとしても、ヴェルデバラン様にはご旧友との時間も大切にして欲しいとは考えているのですが、どうも難しいそうで……」


  カシアスが申し訳なさそうに謝罪をする。

  まぁ、カシアスの立場からしたらこう言うしかないよな。

  死人に会わせるなんてできないわけだし……。


  「まぁ、アイツのことだからな……。何か理由があってのことなのだろう」


  「でも、しっかりと伝えておいてくれよな! オレたちはいつでもオマエを歓迎してるってことをよ」


  ウェインは熱いハートでもってそう語る。


  昔からの友人っていうのはいいものなんだな。

  こいつらを見てるとそう思ってしまうよ。


  それにしても、この男もまた強気な性格なんだな……。

  ウェインは魔王だといっても魔王序列第18位とか言っていなかったか?

  カシアスは魔王序列第4位なのだし、少しくらい謙遜してもいい気もするんだけどな。


  おれはそんな野暮なことを思ってしまう。



  「じゃあ、そうと決まれば今から出かけようか! オレが治める魔王国へよ」


  「ルイーズやジュリーたちも来るか?」


  ウェインはノリノリでおれたちにそう告げる。


  「アタシはパスだ。このバカ娘をこれから絞りあげないとだからな」


  魔王ジュリーはそう告げる。


  「じゃあ、アタシは後から行こうかな。今、ジュリーから目を離すとハルを半殺しくらいにはしちまいそうだからな」


  セクシーお姉さんのルイーズの方は後から追ってくるそうだ。



  それにしても、ハルのやつこれからお仕置きタイムなのか……。

  かわいそうに……。



  「おう! りょーかいしたぜ」


  ウェインはジュリーたちにひと言そう告げる。


  「まぁ、そんなビビるなって! 戦うなんてことはしねぇから安心しろよ!」


  不安な気持ちが滲み出ていたのか、ウェインにそう肩を叩かれてしまう。



  こうして、おれたちは魔王ウェインが支配する魔王国へと向かうことにするのであった。

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