273話 ハワード vs アベル&カシアス(2)
「ハァ……。ハァ……」
ハワードと互角に戦うために、常に最大限の魔力でもっておれはぶつかる。
しかし、おれの体は既に限界を迎えているのであった……。
ハワードと打ち合っていて、わかったことがある。
それはおれの魔剣とあの聖剣が交わった瞬間、魔剣が貯蔵しているはずの魔力が外部に拡散しているということ。
そして、魔剣を通しておれの肉体にもその影響は及び体を蝕むということであった。
まるでおれの体内の魔力を吸われているようだ。
これも《霊体殺し》の影響なのか……。
だが、《霊体殺し》によるダメージを受けているのはおれだけではない。
使用しているハワード自身が一番苦しそうにしているのであった。
「グッ……。こんなところで終わるわけには……」
ハワードは執念とでも言うべきものに囚われ、おれたちに立ちはだかっている。
「ラズ……リズ……エストローデ……。俺は……コイツらを——」
既に虚ろになったその眼でハワードはおれたちを見つめる。
そして、先ほどまで闇を纏っていた彼の聖剣は再び光を取り戻す——。
「そうか……光属性の方が増幅されるのか……」
どうやら、あの聖剣は闇属性よりも光属性の魔力増幅に優れているらしい。
《聖剣ヴァルアレフ》からはこれまで観たことのないような眩い光を放っている。
そして、再びハワードとの打ち合いがはじまった。
光属性の力を十分に発揮した聖剣を前に、力を出し尽くしてしまったおれは為す術なく押されてしまう……。
クソッ……ここまでなのか……。
やっぱり、おれじゃ勝てないのかよ……。
《聖剣ヴァルアレフ》——。
《霊体殺し》とも呼ばれたその魔道具はハワードの生命力を奪い、さらにその輝きを増していく。
そのせいか、自然とおれの視線はその光に呑まれていくのであった——。
そして、その光の影響かおれの脳裏には再びあの光景が浮かび上がるのだった。
◇◇◇
そこはおれの知らない世界——。
そんな知らない場所で、知らない少女とおれは二人でいた。
おれの隣には可愛らしい金髪の女の子がいる。
一面に広がる花畑で、彼女がおれに微笑んでいる。
そうだ——。
この光景は前にも見たことがある。
エストローデの光属性魔法を受けたときに、おれの脳裏にこの映像が流れてきたんだ……。
しかし、今回は前回にはなかった出来事が起こる。
「ねぇ、アルフ……。ボクたちこれからもずっと一緒にいられるかな?」
突然、おれに笑いかける金髪の彼女がそう呼びかけてきたのだ。
自分のことを『ボク』と呼ぶ少女は、その笑顔と瞳の奥に不安そうな表情が見え隠れさせていた。
アルフ……?
それはおれのことだろうか。
そんな少女と向かい合う、おれの口が勝手に動く。
「そうだといいな」
どこか照れを隠すような言い方だった。
そんなおれのひと言を聞いて、彼女は満遍の笑みを浮かべる。
「ふふっ。やっぱり、ボクたち考えてることは同じだね!」
おれの胸に不思議な感情が湧き上がる。
少女の言葉を聞いて胸の鼓動が高まるのを感じるのであった。
『君はだれなんだ……?』
おれは言葉に出して彼女に尋ねてみようとするが、それは声にならない。
おれは彼女を知っている……。
おれは彼女とどこかで会っている……。
それなのに、それを思い出すことができなかった。
そんなモヤモヤとした感情がおれのなかには残る。
そして、唐突に場面は移り変わるのであった——。
◆◆◆
辺りは業火に包まれている——。
先ほどまで、一面の花畑であったはずの場所は火の海となり、真っ赤に染まる。
そんな火の海のなかでおれは絶望して一人立ち尽くす。
いいや、一人ではなかった——。
目の前には、先ほどの少女がジッとおれを見つめているのであった。
おそらく、この荒れた世界と彼女は深く関係があるのだろう。
おれは直観的そう感じた。
そして、彼女は感情を失った声でおれに呼びかける。
「ねぇ、アルフレッド……。わたしと一緒に地獄へ堕ちてくれる……?」
そう告げる彼女の右手には光が収束されていく——。
そして、彼女は右手を空に突き上げた。
それはまるで、この世界に光を照らすような姿であり、彼女はとても美しかった。
そして彼女の手が振り下ろされると同時に、おれは眩い光に包み込まれる……。
その瞬間、おれの視界は光に埋め尽くされて何も見えなくなる。
ここでおれはようやく理解するのであった。
今まで十傑の悪魔たちが見せてきた光属性魔法について、どこか懐かしさを感じることがあった……。
おれのなかに眠るこの記憶が、これまでそう思い出させていたのか……。
『アベルさま……』
どこかでおれを呼ぶ声が聴こえる……。
『アベルさま……アベル様!?』
それは段々と大きくなっていく。
あぁ、カシアス……?
カシアスの声が聴こえてくる。
そうだ、おれはこんなところで寝ている場合じゃないんだ……。
今のおれはやらないといけないことがあるんだった。
もうすぐこの幻想から目醒めることになるだろう。
最後に、ゆっくりとおれの口が動く。
『あぁ……。一緒におれが堕ちてやるとも……。だから心配するな。シャロン……』
そして、おれは現実の世界に引き戻されるのであった——。
◇◇◇
『アベル様!? アベル様!!』
カシアスの呼びかけのおかげで目を覚ます。
おれの目の前には《聖剣ヴァルアレフ》を片手に、おれに向かってくるハワードの姿があった……。
十分に魔力を含んだ彼の聖剣は黄金の輝きを放ちながらおれに向かってくる。
あれを受けてしまえば、おれは肉片ひとつ残らずに消えてしまうだろう。
だが、不思議と逃げるという選択肢は頭に浮かんでこなかった。
おれの中でようやくわかった気がするんだ。
これからおれはどう生きたいか、そして今おれが何をしたいのかを——。
すると、不思議とおれの中から力が湧いてくる。
さっきまで、もう限界を超えていたはずなのに……。
魔力だって、底をついていたはずなのに……。
戦う力が魂から湧き上がってくるのであった。
そしてそれは、おれと融合しているカシアスにも伝わったようだ。
『そうです、アベル様……。これが『魔王』スキルの真髄なのです! このスキルは仲間を救いたいという強い想いを受けて覚醒するのです』
カシアスがこの不思議な力についての説明をしてくれる。
そうか……。
そういうことだったのか。
そして、おれは迫り来るハワードの一撃に対して真っ向勝負でそれを受けとめた。
「なっ……!?」
もう死にかけのおれを見て、決着がつくとでも思ったのだろう。
ハワードは想定外のおれを力に驚きの声をあげるのであった。
そして、ハワードの攻撃を防いだおれは彼に宣言する。
「こんなところで終わるわけにはいかないんだ……。おれはユリウスと戦って勝たなきゃいけないんだからな」
「悪いけど、おれはここでお前を倒して先に進むよ」
どうも、作者です。
解説ですが、アベルが十傑の光属性魔法によって何かを感じたのは今回で3回目ですね!
1回目は《夢幻の悪魔》ユリアンのもので「152話 十傑の悪魔ユリアン」の回ですね。
2回目は《風雷の悪魔》エストローデのもので「207話 エストローデ vs アベル(3)」の回ですね。
そして、今回が3回目となります!
アベルが見ているこの映像? 記憶? とはなんなのか。
この先の展開に期待ですね!
それと、この場をお借りしてお礼を言わせてください。
皆さんのおかげで30万PVを達成することができました!! 本当にありがとうございます!
これからも執筆を頑張るので更新を楽しみに待っていただけると幸いです。
今後もよろしくお願いします!




