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251話 因縁の対面

  暗闇のなかを一筋の光だけを頼りにおれは突き進んでゆく。

  これはおれに課せられた試練だと男は言っていた。


  もちろん、そんなわけあるはずがない。

  あの男だってハワードの仲間なんだろうし、この先に待つのは巧妙に仕組まれた罠に決まっている。


  そんなの誰が聞いたって嘘なんだってわかるはずだ。

  だけど、この先に待つのは本当に試練なんじゃないかって、おれは少しだけ信じてしまったんだ……。


  おれはこれまで、この身を周囲に流されるままに生きてきた。

  幸運にも周囲の者たちと環境に恵まれていたからこそ、これまで特に何も考えることなく好き勝手にやってこれた部分もあった。


  子どもだから、人間だからっていう事実を盾にして、おれは周囲から甘い汁だけ吸ってきた。

  そして、それについて当たり前だっていつからか思うようになっていたんだ……。


  あの男が言うように、裏ではいつもカシアスやアイシス、リノが動いてくれていたし、表立って彼らの力も借りていた。

  だけど、こんな子供じみた態度も言い訳も、そろそろ終わりにしないといけないだろう。


  おれはおれ自身の手で、おれの目的を達成するんだ。

  強欲にも他人を救いたいと思ったのなら、それはこの手で救わなければならないことだ。



  そのための力は、もうあいつらから十分に貰った……。



  アイシスは4年間もの間、毎朝おれを鍛えてくれた。

  カシアスは契約者であるおれに、魔力を分け与えてくれた。


  大丈夫だ……。

  おれは一人でも戦える。



  だから、必ず証明するんだ。

  おれは覚悟を持っていると……。



  あいつらと共に、夢を追う権利をおれは持っているって、この手で証明してみせるんだ!!



  そうして、おれは暗闇から抜け出して光に満ちた空間へと一歩踏み出すのであった。




  ◇◇◇




  ここは、城か……?



  おれは暗闇を抜け出し、眩い光に包まれる。

  しばらくしてから目を凝らすと、そこは王国で一度忍びこんだ時に見た王城のように豪勢な空間が広がっているのであった。


  金ピカに光るシャンデリアに階段の手摺り、床に敷かれた真紅のカーペットは高貴な趣を感じさせる。


  だが、ここは本物の城ではないのだろう。

  ここはハワードの支配する亜空間だと先ほどの男も言っていたしな……。



  しばらく周囲を見渡していると、何やら誰かに見られている視線を感じた。



  だが、何度周りを見てみても人影ひとつ見当たらない。

  そこで、視線を上に向けてみる。


  おれの目の前には遥か上まで伸びている階段があった。

  金で装飾された豪勢な手摺りに、真紅のカーペットが敷かれている。


  そして、その階段の先に何があるのかとおれは瞳を凝らして見つめる。

  すると、そこには玉座に足をかける一人の美女がいるのであった。


  ポニーテールを後ろで結び、眼鏡をかけた金髪の美女は脚を組んで静かにおれを見つめる。

  以前に出会った時と印象は異なるが間違いなくあいつだろう……。


  そして、女はおれと目が合うなり高みから声をかけてくるのであった。



  「久しぶりね。かわいいぼうや……」



  「あぁ……4年ぶりだな。セルフィー!」



  おれは女に向かって返事をする。


  どうやら、あの男が言っていたことは本当だったようだ。

  おれを待ち構えていたのはセルフィー=ライト=グリーン。

  かつて、おれたちをハメた冒険者ギルドの裏切り者だ!


  「いい面構えになったわね。あと数年もすればさらにいい男になりそうだわ……」


  「まぁ、あなたにはそんな未来はないのでしょうけれど……。ふっふっふっ」


  自分のもとへとやってた獲物をどう甚振(いたぶ)ってやろうとか言わんばかりの笑みでセルフィーは微笑む。

  その瞳は、これから起こるであろう彼女のもてなしの程度を予想させる嫌なものであった。


  しかし、おれはそんなものに屈することはなかった。


  「おい、一つだけ聞かせろ!」


  おれは上からこちらを見下ろすセルフィーに向けて、怒鳴り声をあげる。

  これだけ大きな声ならば、彼女にも十分聞こえただろう。


  「あら、何かしら……? もしかして、命乞いかしら? いいわよ、その可愛いお顔で土下座でもしてくれるなら考えてあげなくもないわ」


  「それとも愛しのお姉ちゃんの無事でも確認したいのかしら? だとしたら、あの冷酷非道な悪魔たちを前にした時点で——」


  ごちゃごちゃとうるさいやつだな……。


  そんなことはどうでもいい。

  おれは決して屈しないし、サラとアイシスを信用している。

  おれが聞きたいことはただ一つだ!


  「お前は好き好んでこんなことをしているのか? それとも、悪魔たちに操られているのか? 答えろ! セルフィー!!」


  すると、おれの言葉があまりにも予想外であったのか彼女の表情と声が一瞬固まる。



  「はっ……?」



  「くっ……ククククッ」



  「あっはっはっはっ! はっはっはっ!!」



  そして、その言葉の意味を理解すると堪えきれないほど笑い出すのであった。


  「あなた、そんなこと聞いてどうするのよ!? そんな真剣な顔で何を言い出すかと思えば、よりにもよって私が操られているですって?」


  「何よ、もしも私がアイツらに強要させられているってなったら、助けてくれるつもりなの? はっはっはっは……」


  「あぁ、助けたい! もしもお前が嫌々そんなことさせられているのなら、おれはお前だって助けたいよ!」


  おれは彼女の質問に即答する。


  これまで、苦しみながらその手を悪に染める者たちを見てきた。

  バルバドさんも、エトワールさんも、本当に苦しそうだった……。


  だから、もしもセルフィーが苦しんでいるとしたら、おれは助けたいと思う。


  こんなの偽善だって笑われるかもしれない。

  こんなことしてたら、他に大きな犠牲を出してしまうかもしれない。


  でも、それでも目の前に助けを求める人がいて、おれに助けられる力があるならきっとこうするべきなんだ!


  それがおれの生き方なんだ。

  いや、そう生きたいと思ったんだ!



  「あぁ……。あなたって救いようのないバカなのね。ようやくここまでたどり着いたからどんな成長をしているかと思えば……」



  セルフィーは失望の眼差しでおれを見つめる。

  そして、高らかに笑い出すのであった。



  「でも、残念だったわね! 私はバルバドやエトワールとは違って生まれながらの悪なのよ!! そう、それもダリオスと同じで自分可愛さに子どもを裏切るようなね!!」



  「そうか……。ならば、仕方ない。おれはお前を倒して先へ進む。これまでお前がやってきたことを後悔するがいい」



  おれは魔剣を取り出して、セルフィーに向ける。

  だが、そう簡単に物事が片付くはずはなかったんだ……。



  「お前たち、やってしまいなさい」



  パチンッ!



  彼女がそう言って、指を鳴らすと先程まで人影ひとつなかった柱の影や、階段の裏からぞろぞろと武装した者たちが姿を見せる。



  「そうか、やるしかないようだな……」



  おれは大地を強く蹴って、敵の集団に向かって一直線で進むのであった。

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