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231話 ダークエルフ vs アベル(1)

  「あぁ、ここにいる人たちの仇、取らせてもらうぜ!!」



  おれはサラたちから距離を取り、魔族の女を挑発する。

  かかってこいよと言わんばかりに手を招くのであった。



  「ふっ……いいだろう。少しくらい、足掻(あが)いてみせろよ!」



  魔族の女はおれの挑発に乗って一瞬でおれとの距離を詰めてきた。



  カシアスはあの魔族の女を見てダークエルフだと言っていた。

  ダークエルフについての知識など何ひとつ持ち合わせていないが、おそらくエルフというくらいなのだから魔法特化の種族なのだろう。


  ならば、勝負の決め手は近距離での肉弾戦だ。

  魔剣を使ってやつを倒す!!



  だが、今の場所で戦闘を繰り広げればサラたちはもちろん、あのダークエルフの周囲で倒れているヴァルターさんやレーナを巻き込んでしまうかもしれない。

  それでおれは一旦サラたちと距離を取り、ダークエルフを挑発して誘き寄せ、完全な1対1の状況を作り出したのであった。



  本当はものすっごく恐いけど、カシアスは今のおれなら一人でもこのダークエルフと戦えると言ってくれた。

  おれのことを最優先で考えてくれるカシアスの言葉なのだ。

  その言葉、嘘ではないだろう。

  ならばこの勝負、おれに敗北はない!!



  「闇の壁(ダークウォール)!!」



  挑発していた瞬間から防御魔法を展開する準備はしていた。


  そして、その防御魔法に土属性の攻撃魔法が飛び込んでくる。

  氷柱(つらら)のような鋭利な岩石がおれを襲う。




  ドォォォォーーーーン!!!!




  凄まじい衝撃により爆発が起こり、砂けむりが舞い上がる。

  だが、何とかダークエルフの最初の攻撃を防げたようだ。



  ふふっ、おれは既に次の一手を打っている。

  この勝負、主導権は渡さないぜ!!



  「闇弾(ダークショット)!!」



 おれは闇属性の攻撃魔法の中でも高速度かつ高威力の魔法を放つ。

  先ほど、土属性魔法が飛んできた方向にだ。


  おれの魔法が砂けむりの中へと消えてゆく。

  だが、攻撃魔法が何かに当たった音はしない。



  少しばかり、不安な気持ちが溢れてくる。

  次の一手はどうする?



  とりあえず、この場を離れた方がいいか。

  いや、相手に致命傷を負わせていない場合、むやみに姿を見せるのは危険だ。

  この砂けむりに巻かれて身を隠しておく方が安全かもしれない。

  だが、それでは主導権は握れず後手に回ることに……。



  おれがあれこれを考えていると、目の前の砂けむりに人影が映る。



  「闇属性魔法か……。劣等種(ミジンコ)にしては上出来ではないか」



  楽しそうに笑う女の声が聞こえた。



  やばい……。



  脳が危険信号だと叫ぶ。

  だが、時は既に遅かった。



  「少しは楽しめそうだな」



  次の瞬間、砂けむりからダークエルフの女が姿を現す。

  そして、おれは至近距離で攻撃魔法を受けて吹き飛ばされるのであった。



  「ぐわぁぁあ」



  あの女の魔法が当たる直前に、薄いながらも防御魔法を張ることに成功したおれは致命傷を負うのを回避する。

  しかし、吹き飛ばされたおれは何回転も地面に叩きつけられながら転がり、身を隠していた砂けむりから明るみへと出てしまう。



  やばい……。

  これではあの女からしたら簡単に狙われてしまう。


  速攻で周囲に防御魔法を展開するおれ。

  だが、そんな防御魔法もダークエルフの女に簡単に突破されてしまう。


  土属性の攻撃魔法がおれを襲い、防御魔法が破壊されて視界が開ける。

  おれのすぐ目の前には冷酷な瞳をしたダークエルフの女が立っていた。



  「習得困難な闇属性魔法を使いこなしていることについては認めてやろう。だが、お前の戦い方には芸がない。もう、飽きたよ……」



  おれの顔に手をかざし、攻撃魔法を発動しようとする女。

  そこでおれは慌てて転移魔法を使って上空へと避難した。



  おれは上空20メートルほどの空間へと転移し、状況を立て直す。

  今のままでは勝てる未来がまったく見えない。

  あの女のペースにギリギリついていくのが精一杯だ。



  クソッ!

  本当は転移魔法を使えることはまだ隠しておきたかった。

  だが、あの状況では仕方ないだろう。



  考えろ、考えろ……。

  どうやったら勝てるんだ。



  戦ってみた感じ、やはり魔法戦では相手に分があるようだ。

  全力で足掻(あが)いているおれに対して、あのダークエルフはゆとりを持って戦っている。

  だとしたら、やはり距離を詰めて魔剣で戦う戦法しかないだろう。



  考えごとをしているおれの目の前に、突如として不敵に笑う女が現れる。



  「ほう……転移魔法まで使えるのか。お前、何者だ? ただの劣等種(ミジンコ)ではないな」



  ダークエルフの女もまた転移魔法でおれのもとへとやってきたのであった、



  「なっ……」



  突然の出来事に一瞬ひるんでしまうおれ。

  だが、次の瞬間には冷静にものごとを考えはじめる。


  これはチャンスだ!

  魔法を使って隙をつくり、魔剣で勝負をつける作戦は失敗に終わってしまった。


  だが、幸いにもダークエルフの女自らがおれのところへとやってきて、何やら感心しているようだ。

  この隙を突かないわけにはいかない!!



  「くらえぇぇええ!!!!」



  おれは一瞬で魔法の収納袋から魔剣を取り出すと、目の前の女めがけて斬りかかる。

  カシアスから貰った最高級の漆黒の魔剣でだ!!


  だが、おれはその直後、信じられない光景を目の当たりにすることとなる——。



  なんと、このダークエルフの女はおれが渾身の魔力を込めて振るった魔剣を右手だけで受けとめたのであった。



  「なかなか良い魔剣を使っているじゃないか。お前のような劣等種(ミジンコ)にはもったいない代物だぞ、これは——」



  よく見ると、一応は右手の表面に防御魔力を展開しているようだ。

  女の褐色の肌の上にはカチカチと音を立てる岩のようなものが見える。

  そして、完全に防ぐことはできなかったのかポタポタとおれの魔剣には血が滴るのであった。


  すると、ダークエルフの女は何やら満足気な表情で笑うとおれの魔剣を振り払う。

  それから、振り飛ばされたおれを見つめ、声高らかに宣言するのであった。



  「よし、いいだろう。お前は合格だ! このアタシ、ハル=ウォーカー様が全力で相手をしてやろう」



  そう女が告げた次の瞬間、彼女は今まで隠していた並々ならない魔力を解放しておれに見下ろすのであった。

  膨大な魔力を解放され、肌を突き刺すような痛みがする。


  そしてダークエルフの女もまた、おれと同様に魔剣を取り出す。

  おれの魔剣とは違い、銀色に輝く白銀の魔剣であった。



  おいおい、なんで魔法を得意とするはずのダークエルフのお前が魔剣なんて取り出しているんだよ……?


  おれがそんな疑問を持っているとカシアスから念話を通じてメッセージが届く。



  『アベル様、一応お伝えしておきますが森で暮らし魔法を得意とするエルフとは異なり、ダークエルフとは荒野や洞窟で暮らす武術に長けた種族です』


  『また、視力や魔力感知の能力が高いので隠れる作戦は基本通用しません。魔力の流れを読み敵の場所を特定する力があるため、視界を奪う戦法ではなく、他の作戦を立てることをお勧めします』



  なんと、カシアスは今さらになって敵の種族の情報を教えてきたのだ。


  おい!

  何今さらになって重要なこと言ってんだよ!!


  つまり、至近距離で魔剣で追い詰める作戦も、砂けむりに隠れる作戦も愚行だったってことか?

  クソッ、いったいどうすればいいんだ……。



  だが、戦場では悩む時間など与えられていない。

  目の前のダークエルフの女は考えごとをしているおれに向かって、容赦なく攻撃してくるのであった。



  「どうした、どうした!! お前の実力はそんなものなのか!?」



  魔剣を振るってくる単純な攻撃に対し、おれは魔剣でその攻撃を受けとめることしかできない。

  魔力の差も筋力の差もあるため、おれはどんどんと押されていく。



  正直、いつも剣術の稽古をしてもらっているアイシスよりも強い。

  攻撃と攻撃の間に隙がないだけでなく、純粋な魔力量でも歯が立ちそうもない。

  これでは勝てるビジョンがまるで浮かばないぜ。



  そして、遂におれは防御のタイミングに間に合わず遅れてしまい、敵の攻撃を受けてしまうのであった……。

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