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22話 魔族 vs 英雄の末裔(1)

  おれとサラは燃えさかる村の中を走っている。


  あと少しだ。

  火柱が上がるその場所まで——。


  今のところカイル父さんとハンナ母さんは見ていない。

  森の入り口に行けば二人はいるかもしれない。


  すると、だんだんと森が近づいて来た。

  そこでおれは信じられないものを目にする。

  おれは目の前に広がる光景に驚きを隠せない。


  これは……地面が割れている。


  森の入り口に近づいていくほど地割れは増えていった。


  そして……。


  「ティル!!」


  サラが叫ぶ。

  おれたちの目の前にはティルが倒れていた。


  ティルが()けている!?

  彼女の姿がいつもより薄いのだ。


  ティルは自身が光のような存在だ。

  前に聞いたのだが精霊は魔力で身体を構成しているらしい。


  そんなティルを(かたど)っている光が徐々に拡散していっている。


  「に……げ……」


  ティルは声を振り絞る。

  彼女が言いたいことはすぐに理解できた。


  倒れるティルの奥にそれはいた。

  禍々(まがまが)しいオーラを放つバケモノ。

  燃えさかる森の中にそのバケモノは立っていた。


  「まだ生きてるゴミがいたのか。ハッハッハッ……シネ」


  土の塊がバケモノの前に現れる。

  あれは土刃(アースダガー)!?

  おれは一瞬で理解し反応する。


  バケモノの前に現れた土刃(アースダガー)がおれたちに向かって解き放たれる。

  おれは闇の壁(ダークウォール)を張り身を守る。


  「闇の壁(ダークウォール)!」


  かつて味わったことのない衝撃がおれたちを襲った。


  辺りに風が吹き荒れる。


  なんだ今のは!?

  おれやサラが使う土刃(アースダガー)とは比べものにならない速度と威力だったぞ。

  なんとかやつの土刃(アースダガー)は粉砕したが、おれの闇の壁(ダークウォール)では防ぐのもきつかった。


  「クッ……、ハッハッハッ。劣等種のゴミにしてはやるじゃないか。それじゃ、火属性はどうかなぁ?」


  バケモノは笑いながらそう言って再び魔法を使う。

  今度は火球(ファイヤーボール)を放った。

  無詠唱か!?


  魔法の才能と適性があり、なおかつその属性の修練を積んだ者だけが使えるとされる無詠唱。

  おれは闇属性魔法しか無詠唱では使えない。

  バケモノ(あいつ)は複数属性無詠唱ができるだと。


  おれはバケモノ(あいつ)の言葉からもう一度攻撃魔法を撃ってくることはわかっていたので準備をしてさっき以上の防御魔法を張る。

  無詠唱でも使えるが詠唱したほうが強く結界を張れる気がするので詠唱をする。


  「闇の壁(ダークウォール)!!」


  先程同様、かつてないほどの破壊力を持った火球(ファイヤーボール)だ。

  魔法同士がぶつかり合う衝撃がおれたちを襲う。

  おれの周りに熱風が吹き荒れる。

  無事に防ぐことはできたがあいつに勝てる気がしない。


  「ほーう。これも防ぐのか。おもしれえ」


  そう言ってバケモノはおれたちの方へ歩いてきた。

  炎の陰に隠れて見えなかったバケモノが姿を現わす。


  狼の顔をした獣のような姿。

  しかし、二足歩行であるき言葉を喋る。



  ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……!!



  おれの本能がそう叫んでいる。


  こちらへ歩いてくる狼のバケモノ。

  それに対して、おれとサラは後ろへ後ずさる。


  「逃げるぞ! サラ! ティル!」


  サラの手を掴み、ティルの方を見た。

  しかし、ティルはもうそこにはいなかった。


  どこへ行った?

  ティル?


  「ティル? ティル!?」


  おれは静かになった森で叫ぶ。

  しかし、どこにもティルはいない。

  逃げたのか?


  「うるさいぞゴミ。お前、防御魔法はそこそこやるようだな。あの女はまーるでダメだった。お前はちょっとは楽しめそうだな。ハッハッハッ」


  狼のバケモノは燃え上がる炎を指差して声高らか笑っている。


  おいおい、何を言っているだ。


  嫌な予感がする。


  何も知りたくない。


  何も見たくない。


  だけど、見てしまう。


  狼のバケモノの指さす方を——。


  その炎の中には倒れて燃えている人間がいた。

 

  悪い方へと考えが働いてしまう。


  『わたしも水属性魔法の壁を作れる人を見たことならある。ハンナが使えるからね』


  昔聞いたカイル父さんの言葉が蘇る。


  防御魔法……女……森の入り口……。

  いや、違う!

  絶対にそんなはずは……。


  だがおれのそんな幻想は打ち砕かれることとなる。


  炎に焼かれる人間のすぐそばの木に一人の男が張り付けになっていた。

  紫色の髪の毛に眼鏡をかけた男だった。

  心臓のあたりに太い土の塊が突き刺さっており口から血が流れてる。


  『何を言い出すかと思えば……当たり前だろう。わたしたちはきみたち二人のことが大好きだよ』


  『やっぱりアベルはすごいよ。もうわたしでは相手にならないね』


  『村のみんなが無事か確認してくる。平気だから心配しないで待っていてくれ』


  そんな……カイル父さん?

  なんで……?

  どうして……?


  だとしたらあの炎の中にいるのは……。


  『ベルちゃんいつもサラと遊んでくれてありがとうね』


  『ひゅー、朝から暑いわね。パパに氷の精霊を呼んでもらわないとかしらね』


  『セアラ、アベル。愛しているわ』


  ハンナ……母さん?

  なあ……うそだろ、おい。

  そんなわけないよな?


  「うわぁぁぁああああ」


  サラが繋いでいた手を振りほどき飛び出した。


  「やめろ! サラァァァァ!!」


  サラは叫びながら狼のバケモノのもとへ突進していく。


  「あぁ? なんだこいつぁは?」


  接近してくるサラを全く気にしない狼のバケモノ。


  「おまえは! おまえだけは絶対殺す!!!!」


  サラの右手は今まで見たことのない輝きを放つ。

  そして、右手に魔力が収束して炎が現れる!


  「火球(ファイヤーボール)!!!!」


  サラは火属性の攻撃魔法を唱える。

  サラの手には直径1m近い火の玉ができる。

  こんなに大きな火球(ファイヤーボール)は見たことがない!


  彼女の手から特大の魔法が放たれた。


  狼のバケモノ(あいつ)は無防備だ。

  それに防御魔法を使う気配もない。

  いや、無詠唱で防御魔法を使うのか?


  しかし、狼のバケモノは何もしなかった。

  ただサラが自分に向かってくるのを見ていた。


  そして狼のバケモノをサラの特大の火球(ファイヤーボール)が襲う。

  紅蓮の炎に包まれる狼のバケモノ。

  やがて、炎は掻き消えて……。



  なんと、狼のバケモノは何事もなかったようにそこに立っていた——。



  「なんだ今のは? ガキの遊びかぁ?」


  嘘だろ……。

  サラのあの特大の魔法をくらって無傷だと?


  確かにサラの火球(ファイヤーボール)狼のバケモノ(あいつ)に直撃した。

  それに、実際巨大な炎に包まれていた。

  しかし、すぐにその炎は消え何事もなかったかのように立っている。


  無理だ……。

  あいつには絶対に勝てない。


  死ぬ。

  おれもサラも。

  こいつに殺される。


  「ぐっ……うわあああああ」


  サラの魔法は全く効かなかった。

  それでもサラは諦めずに突進した。


  「なんだおまえは。じゃまだじゃま」


  狼のバケモノは突っ込んできたサラを振り払うようにして左手で軽くなぎ払った。


  サラが吹きとぶ。


  その細く小さな身体は宙を舞い、何十メートルも飛ばされおれの方へと……そして地面に直撃した。


  身体から落下して何回転も転がる。


  そして……眠るようにして彼女は動かなくなった。


  身体中を打ち付けた。

  服に血が染み出してくる。

  額からも血が流れ地面に(したた)る。


  おれは何もできなかった。

  動くことができなかった。


  サラが狼のバケモノ(あいつ)に向かって行くのを止めることも。

  宙を舞う彼女を助けることも……。


  「さぁさぁ、お楽しみといこうか。おれはお前と遊びたいのさ! ハッハッハッ、安心しろよな。すぐには殺さねーからよぉ」


  狼のバケモノがおれに向かってゆっくりと歩いてくる。

  死が近づいてくる。


  逃げたい。

  逃げられない。


  あぁ、おれは……ここで死ぬ。

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