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20話 大狼 vs 英雄の末裔

  原因不明の事態が起きている。

  おれたちの暮らす村が火の海のように燃え上がり、さらには上位の魔物の大群が押し寄せていた。


  カイル父さんとハンナ母さんは村人たちの安否を確認すべく出かけて行った。

  残されたおれとサラだったがこの事態の危険性について理解したため、カイル父さんたちとの約束を破ることにした。

  二人を追いかけるんだ!


  おれはカイル父さんの部屋にあった真剣を手に取る。

  おれが普段持っている模擬戦用の木刀では魔物相手に歯が立たないだろう。

  真剣を使うのは初めてではないが慣れてはいない。

  やはり、木刀と違い重いし魔力を通せば本当によく切れる。

  カイル父さんのを勝手に拝借するのは気がひけるがこの場合は仕方がないだろう。


  サラは真剣を使ったことがないので手ぶらである。

  木で出来た盾ならあるが炎を使う大狼には有効ではないだろう。

  それならば身軽な方がいいと判断した。


  「サラ、怒っている?」


  おれはサラは先程これからの行動について意見が食い違い激しくぶつかった。

  これから、命をかけて戦うことになるかもしれないのだ。

  連携が上手くいかずに……なんてことは避けたい。


  「別に怒ってないわ。さっきはわたしも悪かった。わたしも本当は約束なんかより大切なものがあるってわかっているのにね」


  どうやら彼女は怒ってはいないようだ。

  それに今のサラはとても冷静である。

  これならば問題はないのかもしれない。


  サラと一緒に魔物と戦うのは2年ぶりか。

  だが、あのときとは違い今回は上位の魔物だ。

  それにえげつない数かもしれない。

  覚悟しなければいけないな。


  「おれも悪かったよ。よし、無事に全員で帰ってきて引越しをしよう。明日の朝は早いんだからね」


  「えぇ、そうね。明日の朝に出発できるようにがんばらないとね」


  サラは少し笑ってくれた。

  何気ない日常をこれからも続けていきたい。

  そのために家族全員揃わないとダメなんだ。


  玄関まできたところでおれはサラに確認を取る。


  「大狼たちにバレないようにおれたちも父さんたちのように遠回りしていくよ」


  「えぇ、わかったわ」


  上位の魔物たちを相手に近道だからといって草原を駆け抜けていくのは無理があるだろう。

  たとえ馬を使おうが狼のような魔物である大狼からは逃げ切れないと思う。

  そのため、遠回りではあるがカイル父さんたちのように草原は避けて歩いて行かなければなるまい。


  そして、ドアを静かに開けておれは家の外へ一歩踏み出す。

  後ろにはサラが続く。

  そして、目の前の草原ではなく右側に広がる森の方へと駆け出したそのときだ。


  なんと、草原にいた大狼の一匹がおれたちに気づいた。

  そして、吠える。


  アォォーーン!


  この一声を合図に大狼たちがおれとサラの方へと視線を向けた。

  これはやばい。


  「サラ、大変だ。やつらにバレた。逃げ……」


 おれが後ろを振り返ってサラにそう声をかけていると、サラの背後にちょうど大狼の一匹が飛びかかるところだった。

  どこに隠れていやがった!?


  サラは全く気づいていない。


  おれは考える前に身体が動いていた。

  右手に持つ剣を握りしめ、サラに飛びかかろうとする大狼めがけて剣を振り抜いた。

  剣には闇属性の魔力を付与してだ。


  サラは突然後ろを向き自分に向かい剣を振り抜くおれに驚いたのだろう。

  しかし、サラが反応する前に彼女の上空にいる大狼を叩き斬る!


  おれの剣と大狼の牙が交わる。


  純粋な力で比べれば人間の子どもでは上位の魔物の相手にならない。

  おれは剣とともに大狼の牙にはじき返されて後ろに吹っ飛ぶ。

  そして受け身をとりつつ次の攻撃態勢に入る。

  これはカイル父さんとの訓練の賜物(たまもの)だ。


  吹き飛ばされたおれは大狼(やつ)の力を受け流して受け身をとった。

  お互いノーダメージのように思うかもしれないが、おれは剣に闇属性の魔力を付与していた。

  サラに襲いかかろうとしていた大狼は、おれの斬撃に付与された魔力によるダメージで苦しんでいる。


  おれと大狼の一瞬の交戦を目にしたサラは驚きと恐怖で動けないでいる。

  おそらく彼女は自分が死ぬかもしれないと本気で感じたのは今回が初めてだろう。

  おれにも経験がある。

  身体が固まってしまい全く動けなくなってしまうのだ。


  大狼は態勢を立て直すと今度は物理攻撃ではなく魔法を使ってきた。

  勢いよく炎のブレス——火の息(ファイヤーブレス)をおれたちに向けて放ってくる。


  ちょっと待った!?

  牙は剣で防げたけれどあれは無理だって!


  おれは無意識でとっさに防御魔法を使っていた。

  おれとサラの目の前に闇の壁が出現する。

  大狼の放った炎の息(ファイヤーブレス)がおれの闇の壁(ダークウォール)に完全に防がれる。


  やばい死ぬかと思った。

  おれの心臓は今最高に鼓動を打っている。

  冷や汗が流れ、目の前で起きた結果に一番驚いているのはおれ自身だ。


  無意識に防御魔法を張ったのもそうだが、上位の魔物の魔法を完全に防げた。

  もしかして、おれって大狼(あいつ)に勝てるんじゃないか……。


  そういう思考が一度巡ったらもうこっちのもんだ。


  おれは闇属性の攻撃魔法を撃ち込む。

  今度は意識的にだ。

  おれの必殺技を受け取りやがれ。


  「闇弾(ダークショット)!!」


  おれの右手に握りしめた剣先から闇の弾丸が発射される。

  それは螺旋回転をしながら音速を超えて大狼を撃ち抜いた。

  大狼の息の根を止めるには十分過ぎる一撃だった。


  「サラ……」


  おれは後ろにいるサラに声をかける。

  サラもなんとか助かったことに安堵の表情を浮かべた。


  しかし、まだ終わっていない。

  おれが倒したのは隠れていた大狼1匹だけなのだ。

  草原からおれたちに向かってくる大狼の大群。

  ピンチの状況には変わりない。


  しかし、おれは改めて確信を持った。

  おれは大狼たち(こいつら)に勝てる。


  「ちょっと待っててくれ。おれが今から道を切り開く」


  動けないサラにそう伝える。

  大狼たちに勝てるなら話は別だ。

  わざわざ遠回りをしてカイル父さんたちを追いかけなくても大丈夫だ。

  おれが大狼たち(やつら)を片付ける。


  「頼もしい弟だわ。でもね、お姉ちゃんにも手伝わせなさい」


  ふとサラの方を見ると、さっきまでの恐怖に支配されて全く動くことのできなかったサラはもういない。

  大好きなカイル父さんとハンナ母さんの所までおれと突っ走るつもりだ。


  「姉さんの邪魔はしないように気をつけますよっと」


  おれはまず防御を担当しなくてはならない。

  敵からの遠距離攻撃を防ぐにはおれの防御魔法は絶対だ。

  大狼たちの火の息(ファイヤーブレス)闇の壁(ダークウォール)で防ぎきる。


  今回はさっきと違い4匹まとめての火の息(ファイヤーブレス)だったが特に問題はなかった。

  よし、防御面は問題ない。


  いくら上位の魔物とはいえ魔法である以上、ずっと発動しているわけではない。

  ブレスがやんだタイミングでおれとサラは反撃に出る。

  おれは闇属性魔法で、サラは土属性魔法で。


  「闇弾(ダークショット)!!」


  「土弾(アースショット)!!」


  おれたちの魔法が大狼たちに突き刺さる。

  サラの魔法はおれの魔法ほどではないが威力は十分高い。

  鋭利な土の塊が高速で発射され対象を切り裂くのだ。

  上位の魔物である大狼を一撃で仕留めているのだからその威力の高さが伺える。


  おれは闇弾(ダークショット)を複数の弾丸にして発射し、さらに高速でリロードして撃ち出している。

  これを可能にしているのは、おれの高い魔力操作技術と闇属性魔法の適性があるおかげである。


  1分もしないうちに草原にいた大狼たちは1匹残らず生き絶えた。

  燃える草原に大狼たち(やつら)亡骸(なきがら)が横たわる。


  「最初のやつみたいにまだ隠れているのがいるかもしれない。気をつけよう」


  おれはサラに警告をする。

  まだ、安心はしない方がいいと。


  「えぇ、そうね。でもこれで道が空いたことだし先に進めるわね」


  サラの言う通り、これでわざわざ遠回りをして村の中心部へ行く必要がなくなった。

  馬を使えばカイル父さんたちよりも早く村の中心部へとたどり着くことができるかもしれない。

  しかし、逆にカイル父さんたちが道中でトラブルにあっていたら村人たちは助けられるかもしれないが二人を助けることはできないかもしれない。


  「サラ……どっちに——」


  「さあ、馬で村の中心に行くわよ。わたしの後ろに乗りなさい」


  「でも、もしかしたら……」


  「わたしはパパとママを信じてる。アベルも信じて! それに二人が守ろうとしている人たちを助けるのも必要なことよ」


  サラはいつもどこか抜けていることがある。

  年齢でいえばおれより上だがおれには前世の記憶もある分おれはどこかでサラを(あなど)っていた部分があったのかもしれない。

  しかし、サラは二人のことをしっかりと理解した上で判断している。

  おれよりよっぽとしっかりとしているな。


  「うん! 行こう」


  おれたちは家まで戻り馬小屋に向かい、そして村の中心部へと駆け出した。

  この先に何が待ち受けているのかわからない。

  だけど、カイル父さんやハンナ母さんがおれたちを置いて命をかけるというのなら、そのときは一緒におれも戦いたいと思っている。


  絶対に家族みんなで家に帰るんだ!

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