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159話 七英雄たちの願い

  ハリスさんの最後を看取ったおれは今回の事件の首謀者であるダリオスにもとへと向かった。


  ダリオスは片腕を失い、胸を切り裂かれている。

  我慢はしているようだが苦痛で顔が歪んでいた。


  おれはもうすぐ死ぬであろうダリオスを見つめて考える。

  おれは今、何をすればいいのかと……。



  お前のせいでハリスさんが死んだんだ!



  そうダリオスを責めたところでハリスさんは生き返らない。

  何をするのがハリスさんのためになる?


  そんなことを考えながら倒れ込むダリオスを見下ろしていた。



  すると、ダリオスがおれに気づいたようだ。


  「こんなはずじゃ……ないんだ……。おれは……この手で世界を統べる王に……」


  どうやら、ダリオスはこの後に及んでまだ野望を捨てきれないようだ。

  正直、驚きを通り越してあきれてしまう。


  「諦めろ、もうお前は負けたんだ。死ぬ前に、どうしてこんなことを起こしたのか話してくれないか?」


  おれはダリオスに現実を突きつける。


  もうすぐこいつは死ぬ。

  ならば聞いておかなければいけないことがある。


  どうしてサラを誘拐したのか。

  どうやって悪魔たちを従えたのか。


  おれはダリオスに尋ねる。


  「これで勝ったと……思うな。おれには……ユリアンという……最強の悪魔が付いているだ……」


  ダリオスは息を切らしながらまだ自分は敗北していないことをアピールする。


  確かに、十傑の悪魔の一人であるというユリアン。

  あれはおれが今まで出会った中で最強の存在だろう。


  あいつならおれたちを全滅させることも、ダリオスを治療することもできるはずだ。

  しかし、ユリアンはいまだ現れない。



  「ユリアン!! さっさとこいつらを殺せ!!」



  もう苦しいはずなのに声を張ってユリアンを呼ぶダリオス。

  そんなダリオスに対し、呼ばれていない存在が現れる。



  「彼なら先ほど、息を引き取りましたよ」



  そう言って、暗闇から現れる漆黒の悪魔。


  闇の住人かのようなその悪魔はユリアンが死んだことを告げる。

  そう、この漆黒の悪魔カシアスがこの場でこう話しているということは、カシアスがユリアンを討ち破ったということ。


  おれはカシアスが無事に帰ってきてくれたことに安堵する。


  「最後まで彼は自分を貫いていました。本当に敬意を払うべき宿敵でした……」


  敵であったユリアンを称賛するカシアス。

  そしてカシアスはおれたちのもとへとやってくる。


  そんなカシアスの言葉に歯を食いしばってにらみつけるダリオス。



  「クズが! どいつもこいつも……使えないやつばかりだ!」



  怒鳴り散らすダリオス。


  そんなダリオスに対し、カシアスが言葉を投げかける。


  「プライドばかりが高く、自分の失敗を認められない。そのくせ自分一人では何もできない無能のくせ、上手くいかなければ他者のせいにする。一番のクズは貴方だと私は思いますがね」


  思いがけないカシアスの辛辣(しんらつ)な言葉。

  その言葉におれ自身も一瞬驚いてしまった。


  カシアスの言葉にダリオスが激怒する。


  「悪魔風情におれの(とおと)さなど理解できまい……。おれは正統に英雄テオの血を引いているんだぞ……」


  ダリオスが苦しそうにしながら語る。


  我こそはテオの血を由緒正しく引き継ぐ者。

  そんな自分に周りが付き従うのは当然のことだと。


  しかし、そんな理屈が悪魔であるカシアスに通じるわけがない。

 

  「貴方には確かに偉大な英雄の血が流れているのかもしれない。しかし、それに何の貴さがあるというのですか? 私には、貴方は貴方であって、決して貴い英雄などではないと思えてしまうのですがね」


  ダリオスを煽るように意見するカシアス。


  おれもカシアスの意見に納得する。

  ダリオスは七英雄テオの血を引いているが英雄などではない。



  「おれ様はこの世界を救った七英雄の、大賢者様の血を正当に引いているのだぞ! だからこそ、それだけで貴い存在なのだ!」



  「アルゲーノ、何をしている! こいつらを殺せ!! マルチェロ、お前もだ!!」



  おれは思わず辺りを見回す。



  アルゲーノが裏切ったのか?

  マルチェロは生きているのか?



  だが、実際にそんなことは起きていなかった。



  アルゲーノは俯いて涙を流していた。


  サラを救出できたがハリスさんが死んでしまった。

  ダリオスに協力していたことを悔やんでいるのかもしれない。



  マルチェロの姿もどこにもない。


  アイシスがトドメをさしたのをおれは見ていたのだ。

  マルチェロがいないのは当たり前だ。



  つまり、ダリオスの狂言(きょうげん)

  (わめ)き散らす国王のその姿はあまりにも哀れだった……。



  「血を引くからこそ貴いですか……。英雄の血液が貴方に貴さをもたらしているのだとしたら、王族というのは先祖たちの血液を大切に保管して崇めているのでしょうね。血液こそが貴さの象徴なのですから……」



  カシアスはあきれたようにダリオスを見つめてつぶやく。



  「ふざけるな……! お前如きに……理解など!!」



  怒鳴り散らすダリオス。

  そんな彼にもの申す人物が現れる。



  「もう、やめてください!!」

 


  その声は地下都市中に響き渡った。

  このひと言にダリオスが黙る。


  「もう……やめてください。父上殿……」


  それは彼の息子であるアルゲーノの言葉だった。


  今までダリオスに従ってきた息子からの言葉。

  それに対しダリオスは黙ってしまう。



  「私たちが間違えていたんです……。テオ様の血を引いているから、国民たちは我々を王族として崇めてきたわけじゃないんです……」



  涙ながらにアルゲーノはそう語る。



  「本当に(とおと)ばなければならかったのは……本当に大切にしなければならなかったのはテオ様の《意志》だったんです!」



  「この人間界を、そして愛する者たちを守るために命をかけて救った英雄の意志を、正統な血を受け継ぐ私たち王族が率先して引き継がなければならなかったのです!」



  アルゲーノはダリオスに向かって強く言い放つ。

 

  もしかしたら、今回の件でアルゲーノに大きな変化があったのかもしれない。

  今までとは異なる、そのたくましい姿を見てそう思った。


  そして、アルゲーノの言葉を聞いたカシアスは再びダリオスに問いかける。


  「息子である彼の、今の言葉を聞いてもまだ貴方は血筋にこだわりますか? まぁ、貴方が何に価値を見出し、何を貴ぶことにしようが私は構いません。しかし、貴方の祖先である英雄たちはきっと嘆き悲しむでしょうね……」


  遠くを見つめ、何かに想いをふけるカシアス。

  だがアルゲーノからの言葉も、カシアスからのこの言葉もダリオスには決して届かない。



  「お前ら……おれ様に対して……一人残らず殺して……!!」



  ダリオスの魔力が上昇する。

  最後の力を振り絞って魔力をかき集めているようだ。


  しまった!

  このままではマズイ!


  ダリオスは悪魔に力を与えられていた。

  人間の常識が通じるはずがない。

  これから何が起こるか想像できない。


  しかし、カシアスは慌てていなかった。


  そして、おれはダリオスの様子がおかしいことに気づく……。



  「なっ……そんなバカな……ぐぁぁぁぁああああ!!!!」



  上昇したと思われたダリオスの魔力。

  しかし、その自身の魔力によってダリオスは苦しんでいるようだ。


  だんだんとダリオスの顔がやつれていく。

  水分がなくなっていき土のような肌色となる。


  そして……ダリオスは砂とも土ともわからないような物質となって崩れて去った……。



  「結局……貴方はやつらを従えていたのではなく、やつらに利用されていたということですよ……」



  カシアスが崩れ去ったダリオスを眺め、そっとつぶやいた。



  ダリオスが死んだ……。

  国王としてあってない死に様だった。


  だがこれで、ようやく全てが終わったのだった……。

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