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15話 訓練初日(2)

  5歳になったおれは魔法使いとして修行を積むために、精霊術師として名高いカイル父さんの訓練を受けることとなった。


  訓練の方法としては精霊術師のカイル父さんが召喚する精霊と融合(シンクロ)をすることにより魔力操作や魔力制御について肌で感じるというものだ。


  そして、カイル父さんが精霊を召喚した。

  あれ、さっきまで一生懸命描いていた魔法陣とは別の場所に召喚されたぞ?

  その事に対し、疑問に思ったおれはカイル父さんに尋ねてみることにした。


  「父さん、ティルは魔法陣とは別の場所から現れた様ですがどういうことなのですか?」


  ティルというのは今まさにカイル父さんが召喚した精霊のことだ。

  彼女には何度もカイル父さんに会わせてもらっていたので初対面というわけではない。


  ティルは身長90センチほどの小さな女の子の姿をしている。

  髪の毛はそれほど長くなく肩ほどまであり、特徴としては前髪が長く片目しか見えていないことだろう。

  左目は前髪で隠れてしまっているのだ。

  それに、精霊ということもあってか光に包まれているような感じ……いや、ティル自身が光のようにも感じる。


  「そうだよねアベル。確かにさっきまで魔法陣をせっせと描いていたから、あれを使うと思うのも無理はないよね」


  「でも、わたしはティルと契約をしているから魔法陣は使わなくても呼び出すことができるんだよ。この魔法陣はこれから別の精霊を呼び出すのに使うんだ」


  「なるほど、そういうことだったんだね!」


  どうやら、ティルとは別の精霊も呼ぶらしい。

  確かティルは基本属性ではない氷属性の魔法を使っているのを見たことがあるな。

  今日初めて正式に魔法の練習を始めるおれにとってはやはり基本属性の習得が目標なのだろうか。


  「カイル……こいつバカなの?」


  ティルがおれに向かって挑発をしてくる。


  そうだった……。

  こいつは性格に難点ありなんだよな。


  「ちょっと、ティル。アベルはとても賢い子だよ。まだ人間の5歳なんだし精霊術師について詳しくないんだからそういうことは言わないでくれよ」


  カイル父さんの言う通りだぞティル。

  おれはまだ5歳なんだからな。

  もっと言ってやってくださいよカイル父さん——とおれは心の中で思う。


  「ふーん。まあどうでもいいけどさ……たいくつはしないんでしょ?」


  「もちろんだとも。わたしが保証しよう。アベルは天才の魔法使いになるよ。わたしはセアラに匹敵すると思っているからね」


  「へぇ、それはたのしみだね」


  少し無気力なティルと父さんが会話を続ける。


  「久しぶりねティル。それと、アベルはわたしと同じくらいすごいんだからしっかりと訓練してちょうだいよ!」


  「セアラもそういうのならきっとそうなんだろうね……少しだけたのしみだよ」


  サラがおれを同等と認めてくれるなんて珍しいな。

  サラに恥をかかせないためにもティルにおれを力を見せないとな!


  「ティル、久しぶりに会ってずいぶんと言ってくれるじゃないか。おれの本気を見せてやるから覚悟しておけよ」


  おれは高らかに自分のポテンシャルが高いことを宣言する。


  「おれっていうアベルもなかなか悪くないわね」


  隣からサラの声が聞こえた気がした。


  「サラ? 何か言った?」


  「いや、なんでもないわ。気にしないでちょうだい」


  サラがなにやらボソボソと言っていたが聞こえなかった。

  それよりティルだ。

  おれの本気を見せてやろうじゃないか。


  「カイル、この子には火属性魔法を初めてに覚えさせたいから火属性魔法を使える精霊を召喚するんだったわよね」


  「そうだねティル。アベルにどの属性の魔法の適性があるかわからないからまずは基本属性の魔法から試してもらいたいと考えていたんだよ」


  「そう。でも、あなたもセアラも、そしてこの子自身も才能あるって言ってることだし、わたしが直接氷属性の魔法を教えてあげてもいいわよ」


  ティルがニヤリと笑った。

  何かを企んでいるのか?

  カイル父さんとティルの話を聞いている限り、どうやらおれはまず火属性魔法を試しに訓練する予定らしい。

  しかし、基本属性ではない氷属性魔法をティルが直接おれに教えてくれるとも言っている。


  「ティル、わたしとしてはきみが協力してくれるのは嬉しいのだけれど、いきなりきみから氷属性の魔法を習得するのは難しいんじゃないかな」


  「ふーん、やっぱその程度なのね。わかったわ、じゃあ予定通りさっさと他の精霊を召喚しなさい」


 カイル父さんはやんわりとティルとおれの機嫌を損ねないようにと言ってくれたようだが、ティルの言い方がおれは気に入らない。

  そして思わず口に出してしまった。


  「おい、おれの魔法を見ていないのにその程度とはなんだよ」


  すると、それを聞いたティルは笑いだす。


  「おれの魔法って何よ。笑わせないでちょうだい。どんなスキルを持っているのか知らないけれど高々5歳の人間のクソガキが調子に乗らないでくれるかしら」


  こいつ言いやがったな。

  精霊がどれほど偉い存在だか知らないけれどおれはこいつを許さないぞ!


  「ティル、お前が直接おれに魔法を教えてくれ。すぐに習得してみせるよ」


  「何それ冗談にしてはおもしろすぎるんですけど。あなたもしかして『道化師』か『旅芸人』のスキルでも持っているの? まぁ、いいわ。あなたが挑戦したいのなら氷属性の魔法を教えてあげてもいいわよ」


  「ああ、やってやろうじゃないか! 父さんごめんなさい。他の精霊の召喚はまた今度ということでお願いします」


  おれとティルは言い合いの末、他の精霊に火属性魔法を教えてもらうのではなく、ティルから氷属性魔法を教えてもらうことにした。


  「わかったよ。じゃあティル、よろしく頼むよ」


  父さんは少し苦笑いをしている。

  サラはというと、ニコニコと笑っている。

  おれとティルのやりとりがおもしろかったのだろうか。


  「クソガキ、やめておくのなら今のうちよ。あなたの魔力使い切っちゃうかもしれないから」


  「ふっ、やれるものならやってみろ」


  ティルが相変わらず挑発的な態度を取ってくるのでおれも対抗する。

  でも大丈夫だよね、魔力が尽きるなんてことないよね?


  今までの人生——といっても数年だが、魔力操作の練習をしてきておれの魔力が尽きたことはない。

  今回も大丈夫だろうと少しばかり楽観的な考えを持つ。


  「じゃあ今から融合(シンクロ)を始めるからね。わたしを受け入れなさい」


  そう言ってティルは少し集中して、それからおれの中に入ってきた。

  入ってきたという表現が正しいかはわからないがおれに吸い込まれていったのは確かだ。

  そして今現在、彼女の魔力を直接的におれは感じている。


  『どう? 融合(シンクロ)は初めてなんでしょ。気分が悪いとかない?』


  ティルがおれに調子を尋ねてくる。

  彼女の声は耳から聞こえてくるというより頭に直接響いているという感じがする。

  この声はおれだけに届いているものなのだろうか。

  それともカイル父さんやサラにも聞こえているのだろうか。


  『あぁ、言い忘れていたけれどこれはあなたにしか聞こえていないわ。周りに聞こえるようにもできるけれど必要がないからね。あなたもやってみなさい』


  ティルはおれが疑問に思っていたことを答えてくれた。

  どうやら融合(シンクロ)している相手だけに声を届けることも周囲の人間たちにも声を届けることも選択できるようだ。


  おれはティルだけに声を届けるようにする。

  どうやるかは説明されていないがなんとなくわかる。


  『体調に変化はないぞ。ティルにも問題がないのなら氷属性魔法を早く覚えたい』


  おれは特に体調に問題がないことと氷属性魔法の習得をしたい旨を伝える。


  『うそでしょ!? やり方をまだ伝えてないのに、あなたどうやって念話(ねんわ)を使ってるの? あなた今まで念話を使ったことがあるわけ?』


  念話というのが何なのかよくわからないけれど今使っている周りには聞こえない声のことなのかもしれない。

  それより初めてティルが動揺しているのを見た。

  これは何よりも収穫だな。


  そして、おれはとりあえず念話をなんとなく使っていることを話す。


  『これは念話っていうのか? 使うのは初めてだぞ。お前がやれって言うからやっているんだが問題あるのか?』


  『問題大ありよ! 何で初めてでいきなり使えるよの? 念話に関する魔力操作も制御もやったことないんでしょ? あなた何者なのよ』


  ティルが一人で騒いでいるが、おれにはどうしてこんなに盛り上がっているのか理解できない。


  『やったことはないけれど何となくわかったんだ。それでやってみたらできた。そんなに問題なのか?』


  『はぁー。わかったわ。あなたがおかしい人間だってことがね。カイルやセアラが言ってたことはこういうことだったのね』


  『人をおかしい人間呼ばわりするのは不快だが、まあ今はいい。とりあえず氷属性魔法を教えてくれよ』


  どうやら初見の魔法を感覚で使うのはおかしいことらしい。

  この世界の常識はおれにはわからないがすごいことだとしたら嬉しい気持ちになるな。

  あれだな、なんだか漫画やアニメの最強系主人公みたいでカッコいいな!


  『わかったわ。問題ないならわたしがあなたの身体を使って氷属性魔法を使ってあげるわ。あなた自身には問題大ありだけどね!』


  なんだか色々とあったがようやく魔法の訓練ができるのだ。

  思えばここまで来るのに長かったな。

  隠れて魔力を操っていた日々から始まりサラの魔法が暴走した日やスキル測定をした日、紆余曲折(うよきょくせつ)しながらもようやく本格的に魔法の訓練が始まるのだ。


  『じゃあ魔法を使うわよ。氷弾(アイスショット)!!』


  ティルが魔力を集め、そして魔法を詠唱するとおれの目の前には大きな氷の結晶が現れ始める。

  そして、彼女の呼び声とともにその氷塊(ひょうかい)はおれの手元から発射された。

  その瞬間、爆音が鳴り響き衝撃波で突風が吹き荒れた。


  一体どれほどの速度だったろうか。

  サラの使う火球(ファイヤーボール)も速いがこれはそういう次元ではなかった。

  おそらく、おれとティルの放った氷弾(アイスショット)は音速をゆうに超えている。


  そして、おれの手から放たれた氷塊はなんと何百メートルも先の森の木に突き刺さり貫通していた。

  周りを見るとカイル父さんとサラはポカンとしていた。


  「はっ……?」


  正直おれは何が起きているのか理解できなかった。

  これほど強い魔法をおれは見たことがないし、以前ティルに見せてもらった氷属性魔法もこんな威力ではなかった。

  そのときのはサラが使う火球(ファイヤーボール)と同じ程度の威力の氷属性バージョンだったと思う。


  『ちょっ、ちょっ、ちょっとあなた! 何してるのよ!?』


  おれがフリーズしているとティルの声が頭に響いた。

  念話のためサラたちには聞こえていない。


  『聞きたいのはおれの方だ! なんだよあの威力は? あんなのを放つなんて危険過ぎるだろ!』


  『聞きたいのはあたしの方よ! 本当は氷弾(アイスショット)なんて人間の身体でそうそう撃てるものじゃないのよ! 魔力不足で不発に終わるかあなたがぶっ倒れる予定だったのになんなのよあの威力は!?』


  『ちょっと聞き捨てならないことがあったがどういうことだ? おれが倒れるなんて聞いてないんだが——』


  おれがティルと念話で言い合っているとこの状況を見ていたカイル父さんが声をかけてきた。


  「ティル……今のは一体どういうことなんだい?」


  「あーたーしーが聞きたいわよ!! 本当にこの子はなんなのよ!?」


  ティルは融合(シンクロ)を解除しておれの前に姿を現した。

  そして、カイル父さんと話し始めおれの方を見る。


  あぁ、これはやっちまったやつだな。

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