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151話 隻眼の悪魔シエラ vs 常闇の悪魔アイシス

  これはアベルたちが囚われたセアラを見つけた後のお話——。



  アベルが思考支配を受けているレイと戦闘を開始した頃、アイシスもまた敵との戦闘を開始した。


  アイシスの目の前には二人の精霊体がいた。

  一人は彼女もよく知る人物である精霊ハリス。


  彼女はセアラが誘拐されたと聞き、一人で大森林へとやってきた。

  そして、かつて七英雄ニーアと過ごしたお気に入りの地下都市から凄まじい悪魔の魔力が流れてくるのを感じた。


  王家への伝承として地下都市のことが国王ダリオスに伝わっていてもおかしくはない。

  だが、ここに悪魔を招き入れて何かを企んでいるなどハリスは絶対に許せなかった。


  ハリスにとって地下都市はニーアとの思い出が詰まった大切な場所。

  彼女は自分にはどうしようもないとわかりながらも、アイシスたちの増援を待たないまま凄まじい魔力を放つ上位悪魔のもとへと突っ走ったのだった……。



  そして、アイシスの目の前にいるもう一人の精霊体もまた彼女がよく知る人物だった。


  金色の髪をなびかせた女の悪魔。

  その長い髪は片目を隠し、どこかミステリアスな雰囲気も(かも)し出す。


  彼女こそハリスを痛めつけた張本人。

  隻眼(せきがん)の悪魔シエラである。


  「ユリウス様から聞いてはいたけど、貴女本当に下界にいたの……」


  抑揚のない落ち着いた声でシエラがアイシスに語りかける。


  「貴女こそ、どうしてこのような場所にいるのですか? 貴女たちのような存在が劣等種に協力するなど私には考えられないのですが……」


  アイシスは怯むことなくシエラにそう告げる。


  「それを貴女が知る必要はない……」


  シエラはそう告げると、光の波動をアイシスに向かって放つ。

  それに対して、アイシスは闇の衣を纏って光の波動を弾く。


  そして、闇の衣を解除したアイシスはハリスに下がるよう告げた。


  「ハリス様、ここは私が戦います。ハリス様は休んでいてください」


  「ありがとう……。でも、いくら貴女でもあの者には……」


  「任せてください。こう見えても、私は強いんです」


  ハリスもアイシスが強いことは知っていた。

  しかし、それ以上にシエラという悪魔が強いとハリスは実感していた。


  だが、ハリスがここで戦い続けてもシエラには勝てない。

  ならばここはアイシスに任せるしかないのだ。


  アイシスは魔剣を取り出す。

  そして、苛烈な戦いが幕を開けた——。




  ◇◇◇




  単純な魔力ではシエラの方が強い。

  それ故、純粋な魔法のぶつかり合いや魔剣の打ち合いではアイシスが不利だ。

  ハリスはそんなアイシスを支援するため、後方からシエラに向かって嫌なタイミングで攻撃魔法を放つ。


  魔力量ではアイシスの方が少ないが、転移魔法を含めたスピード勝負や魔法の組み立てではアイシスの方が上だ。

  アイシスは非力ながらもシエラと対等に戦っていた。


  しかし、ハリスの支援として援護射撃をしてまらっていたアイシスだが、突然ハリスが転移して消えた。

  それによって、アイシスが押されはじめてしまう。


  「少し本気を出しますか」


  アイシスは普段の白銀の悪魔の姿を捨てて漆黒の悪魔の姿になる。

  これはアイシスの戦闘モードでもある。


  こうして、1対1で戦うこととなった隻眼の悪魔シエラと常闇の悪魔アイシス。

  二人の戦いは拮抗するものであった。


  シエラが光の波動を放ち、アイシスが闇の波動を放つ。

  交じり合う光と闇が(うごめ)きあって消えてゆく。


  上位悪魔の中でも遥か高みにいる二人の戦いは周辺の建物を崩壊させていった。

  だが、それも隻眼の悪魔が本気を出すまでの話である。


  「なかなかやるのね……。でも、もうおしまいにしようか……」


  シエラの放つ魔力がさらに濃くなる。

  それは魔界の魔王たちに匹敵しそうなほどの魔力だった。


  「なるほど。これが今の貴女の実力ですか……」


  ぼそりとつぶやくアイシス。


  「何か……言った?」


  「いえ、何も……」


  そんなシエラの動きが明らかに変わった。


  先ほどまではアイシスの方が勝っていたスピードもシエラがそれに追いついてきた。

  そして、さらに威力を上げた攻撃魔法。

  彼女の光属性魔法に、アイシスの闇属性魔法は歯が立たなくなっていた。


  ボロボロの姿になるアイシス。

  目の前にいるのは魔王クラスに匹敵する上位悪魔。

  アイシスに勝ち目などなかった。


  「かわいそうに……貴女もユリウス様に逆らわなければ、二度も無駄死にすることなんてなかったのに……」


  シエラが目の前で今にも崩れそうなアイシスを見つめてつぶやく。

  かつて、《天雷の悪魔》ユリウスに逆らった裏切り者を憐んでいるのだ。


  「そうですね……。でも、私は後悔などしていません。私は自分が忠誠を誓う相手を誤ったなどと、この数千年で一度も思ったことがありませんので」


  アイシスはボヤける視界の中、遠くにいるアベルを見つめる。


  アイシスは心配していた。

  現在アベルは上位悪魔マルチェロと戦っている。

  どうやらレイの思考支配は無事に解けたようだが、その代わりにマルチェロと戦うことになってしまったようだ。


  アイシスがカシアスから受けている最重要命令。

  それはアベルの命だけは何としても守り抜くこと。


  「数千年? 貴女は何を言ってるの……?」


  アイシスの言葉を理解できないシエラ。

  そんなシエラを見てアイシスは微笑む。


  アイシスは覚悟を決めた。

  いや、正確には昔に立てた誓いを思い出したという方が正しいだろう。


  「カシアス様、どうか私をお許しください……。私は貴方様との約束をまた破ってしまいます。ですが、アベル様だけは何としても……」


  アイシスの眼光が紅く光る。

  そして、彼女の身体をさらなる闇が包み込む。

  彼女がかつて魔界で《常闇(とこやみ)の悪魔》と呼ばれた理由——。

  その力を解放するのであった。



  「常闇位相(ダークネスフェイズ)!!」



  アイシスの完全戦闘形態。

  漆黒に包まれた美少女は紅い眼光でシエルをただ一点に見つめる。


  今の彼女にこの姿で戦うだけの魔力も能力もない。

  精霊体としての生命力である魔力を削って発動している技である。


  (あるじ)であるカシアスに絶対に使うなと厳しく言われている禁忌(きんき)の魔法——常闇位相(ダークネスフェイズ)——。

  だが、彼女がこの状況を切り抜けるにはこれしかない。



  「どうして、今の貴女がその姿に……」



  シエルは目の前のアイシスの姿に驚愕する。


  アイシスは魔界でも有名な悪魔の一人。

  かつて、十傑の悪魔の同等といわれ、《天雷の悪魔》ユリウスが欲した上位悪魔のうちの一人である。


  シエル自身もアイシスには最終形態があることは知ってはいた。

  だが、実際に彼女の真の姿を見たことは一度もなかった。


  アイシスが突如として彼女の視界から消えた。

  そして、シエラの目の前に転移してくる。


  それに対してシエラも慌てて転移魔法で転移する。

  だが、転移した先には既にアイシスが待ち受けていた。


  圧倒されるシエラ。

  目の前のアイシスは既に攻撃魔法の準備は整っていた。


  そして、アイシスから闇の波動が放たれる。

  シエラは咄嗟に防御魔法を発動した。

  光の波動を放ってもよかったのが、シエラはアイシスの攻撃魔法の前に破れる未来しか見えなかったのだ。

  だからこそ、自信のある防御魔法でアイシスに対抗する。


  シエラの前には光輝く鉄壁の盾。

  この防御魔法の前には魔王クラスの者が攻撃魔法を放とうがびくともしない……それほどの強度があった。


  自信満々のシエラ。

  だが、彼女の期待はあっけなく打ち砕かれることとなる。


  安心した彼女の目の前が漆黒に染まる。

  そして、強い衝撃を受けた。


  シエラは後方に吹き飛び、崩れた建造物の中に突っ込んだ。

  彼女には何が起こったのか理解できなかった。

  防御魔法が破られた様子はなかった。

  それなのに明らかに闇属性の攻撃魔法に自分は襲われた。


  そして——。


  状況理解ができないシエラの目の前には常闇の悪魔アイシス。

  理解はできないが、このままでは自分がやられることだけはわかる。


  アイシスが再び魔法を放つ。

  転移魔法すら許されないシエラは再び防御魔法を発動する。

  しかし、再び目の前に現れた盾は意味を為さずに闇の波動がシエラに直撃する。


  「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!!」


  シエラの叫び声が響き渡る。


  だが、アイシスは顔色ひとつ変えずに攻撃を続ける。

  そして、魔力が光となってシエラの身体から拡散しはじめる。

  段々とシエラの姿が薄くなっていく。


  ここでシエラが戦えなくなったことを確認したアイシスがようやく攻撃を止める。

  そして、アイシスは元の漆黒の悪魔の姿に戻るのであった。


  「あぁ……ユリアン様……」


  シエラが手を伸ばして主の名をつぶやく。

  その瞳は遥か遠くを見ていた。


  「貴女も、本当は《天雷の悪魔》から逃げ出したかったのではないですか?」


  今にも消えゆくシエラに、アイシスは問いかける。


  「そうだったのかも……しれない。ずっと……ユリアン様だけが……好きだったから……」


  シエラがアイシスに微笑みかける。


  「アイシス……貴女、もしかして前世の記憶が……残っているの……?」


  シエラが最後の力を振り絞ってアイシスに問いかける。


  精霊体は死んでしまえば自分の名前と種族以外は忘れて転生することになる。

  前世の記憶を持って転生するなど、この世界ではありえないことなのだ。


  「それは……」


  シエラの質問に答えようとするアイシス。

  だが、もうシエラに時間は残されていなかった。


  アイシスの答えを聞く前に、シエラは光となって消えてしまった。


  既に精霊の形はしていないが、さっまで確かにシエラであった細かい光がアイシスの周りを舞う。


  アイシスは思い出す。

  魂は死んだ後、少しの間その近くを彷徨(さまよ)うと——。


  そして、最後シエラに伝えられなかった言葉を口にする。


  「それはお答えすることはできません……。しかし、私は貴女が好きだった。優しく思いやりのある貴女のことが、私は好きでした……」


  この争いはアイシスにとっては本当につらく苦しいものである。

  幼い頃に他の悪魔たちと支え合って育ったアイシスにとって、かつての仲間たちと殺し合わなければならないこの戦いはとても聖戦(せいせん)とは呼べるものではなかった。


  そして、このままではいつまでもこの悲劇は繰り返される。

  だからこそ、この争いに決着を付けないといけないのだ。


  アイシスはアベルのもとへと向かう。

  この悲しき聖戦を終焉(しゅうえん)に導く少年を守るために……。

補足です。


アイシスが使った魔法『常闇位相(ダークネスフェイズ)』の能力は、発動している間にこちらの攻撃魔法が敵の防御魔法を貫通するチート魔法です。

ちなみに敵がどれほどの魔力を持った強者でも貫通します。

防御魔法での対策は不可能です。


しかし、現在のアイシスはこの魔法を使うだけの力がないので、発動のために自分の生命力を削らなくてはならない危険な魔法となっています。

カシアスにこの魔法だけは絶対に使わないようにと強くいいつけられていました。

ちなみに、この魔法はアイシスのユニーク魔法なので他に扱える者は誰一人いません。

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