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142話 王城到着(2)

  王城の中へとおれたちは転移する。

  どうやらどこかの廊下へと転移したようだ。


  流石に王が暮らす城というだけある。


  整った石造りの内装。

  床には赤を基調としたカーペット、窓には高純度のガラスだ。


  我が家もこの世界では豪勢だと思っているが、ここはそれに負けていない建造物だ。

  まぁ、本来なら比べるのもおこがましいか。


  「ここは二階にある応接間の前の廊下ね」


  ネルがこの状況を説明してくれる。


  どうやらネルは本当に王城の中を案内できるようだ。

  ネルの意外な一面を知った気がする。


  ネルはよく嘘をつくからいつもの彼女なら適当に言っているだけの可能性はある。

  しかし、今はサラのために真剣になって手がかりを探してくれている。

  先ほどの発言も嘘ではないだろう。


  「いやぁ、終わった終わった〜」


  そんなことを思っていると、どうやらご機嫌でおれたちの方へ歩いてくる男がいた。


  おれたちは慌てて柱の陰へと隠れる。


  男は身なりからして貴族だろう。

  なんだよ、一応貴族は内部にいるんじゃないか。

  だがあの人、どこかで見たことあるな……。


  「あの者は現在王城にいる唯一の貴族です。名はアスラ=ハリウェル。王派閥ではなく中立の立場を取っている貴族です。役職は王国の予算を立てる大臣であり、マルクス様とも仲がよろしいようです」


  なるほど。

  そういえばアイシスは王派閥の貴族は誰一人いないと言ってたんだったな。


  それに父さんと仲がいいアスラという男……。


  そうだ!

  武闘会の時に観客席の貴族エリアで見かけた人だ!


  あの時の印象は優しそうなおじさん。

  そして、この王城に今いる貴族はあの人だけ。


  あの人に話を聞けば、この王城の謎がわかるかもしれない!

  それに父さんと仲がいいのなら、おれが話を聞いてこれる!


  「ちょっと、アスラさんに話を聞いてくる!」


  おれはアイシスとネルを置いて飛び出した。

  そして、アスラさんのもとへと駆ける。


  考えていても仕方ない。

  時間がないんだ。

  目の前にヒントがあるかもしれないのなら、それを手に入れるしかないじゃないか!


  「やっと帰れる〜。はやく娘に会いたいなぁ……」


  さっきからずっとひとりごとを話している。

  おれには気づいていないようだ。


  ひとりごとを聞いてしまって悪い気もするが今はそれどころじゃない。


  「あの! アスラさん!」


  おれは彼に声をかける。


  流石に至近距離で声をかけたのだ。

  アスラさんもおれに気がつく。


  「あれ? 君は確か……」


  「おれ、マルクス=ヴェルダンの息子で——」


  本来ならば大臣相手にこんな言葉づかい、到底許されるわけがない。

  しかし、今は言葉を考えながら話している余裕はない。

  ありのままの自分の言葉で話させて欲しい。


  そして、おれが自分の名前を告げようとした時だった。


  「アベルくんじゃないか!!」


  アスラさんはおれの名前を嬉しそうに呼んでくれる。

  それに、あんな言葉づかいだったけど怒っている様子はないようだ。


  「あっ、はい。それでですね!」


  おれのことを知ってくれているなら話は早い。

  これも武闘会の影響か?

  今だけは武闘会に感謝しよう。


  だが、アスラさんは武闘会の時からおれと話したかったようで、勝手に話し出してしまう。


  「前から君とは一度話してみたかったんだよ! あのマルクス殿の息子がようやく帰ってきたって聞いてたからね。しかも、武闘会でのあの活躍! Fクラスということで最初は周りの貴族たちは君を否定的に見てたんだよ? だけど、僕は年齢的に早期入学ってわかってたからね。期待して見てたんだよ」


  あれ……。

  おれのターンが回ってこない。


  「そしたらなんと規格外の魔法のオンパレード! しかも、魔力量どうなってるの? 無限だったりするわけ? 13歳の人間とはとても思えなかったよ! それに君を負かせた女の子はマルクス殿の娘っていうじゃないか!? 一体何を言っているのかわからなかったけど君の告白を聞いてやっと理解できたよ! ちなみにあの時すぐ近くに……」


  このままでは永遠にアスラさんが話し続けてしまう。

  そこでおれは無理やり会話を変える。


  「あの! おれ、アスラさんに聞きたいことがあるんです!」


  よし、ようやくアスラさんの言葉が止まった。

  これで、どうして王派閥の貴族たちが今日はまったくいないのか聞ける!


  「聞きたいことって……もしかしてうちの可愛い娘のことかい? 君もなかなか鋭いな〜。さては、マルクス殿にうちの子のことを聞いてたな。あの時はセアラちゃん一筋みたいなことを話してたのに……」


  ダメだ……この人、強すぎる。

  幸せそうに自分の娘について語るアスラさんに入り込む余地などない。

  まるでおれの流れになる様子がない……。


  「僕もね、そんな可愛い娘に早く会いたいんだよ! 長かった仕事がやっと終わってね……。武闘会にしてもパーティーにしても、貴族のみんなは経費だと言って好き勝手にお金を使うんだ! 徹夜して毎回予算の計算をし直さないといけない僕の身にもなって欲しいよ……」


  どうやらアスラさんは一人で苦労をしているらしい。

  自分勝手な貴族たちに振り回されて今日まで仕事をさせられていたのか……。


  だが、いいことも聞けた。

  これならおれも入り込む様子がある!


  「アスラさん、大変だったんですね……。それで、他の貴族のみなさんはどうしているんですか? アスラさんの仕事を手伝ってくれる方はいないんですか?」


  この質問なら違和感なく他の貴族たちの情報も手に入る。

  さぁ、いったいどうなっているんだ?


  そして、おれの質問にアスラさんは丁寧に答えてくれた。


  「他の貴族たち? 僕みたいに複雑な計算や先を見通すことができる者はなかなかいないからね。結局一人でやったんだ……。まぁ、他の貴族たちも仕事があるはずなんだけど、みんな帰っちゃったね」


  さりげなく自慢のようなものが聞こえたが、今は先を急いでいるのでスルーしておこう。

  きっと周りの人間がついていけないほど、この人は優秀なのだろう。

  それより貴族たちがみんな帰ったということが聞けた!


  「どうしてアスラさん以外の貴族たちは帰ってしまったんですか? アスラさんみたく、可愛い娘さんが家で待ってるからですか?」


  おれは気になっていることをようやく質問できた。

  それにアスラさんのご機嫌を取る言葉も忘れてはいない。


  すると、アスラさんはおれの言葉が嬉しかったのか笑顔で答えてくれた。


  「それはね、国王陛下が不在だったからだよ。みんな陛下に用があるみたいだったからね。陛下が本日はいないということで帰っていったんだ」


  なるほどな。

  ゴマスリに王城に訪れたのに、ゴマをする相手がいないんじゃ帰るしかないもんな。


  「それで王派閥の貴族たちはみんな帰ったんですか?」


  この言葉にアスラさんの目の色が変わった。

  そして、途端におれに対する態度が豹変する。


  「へぇ……。『王派閥』なんて言葉よく知ってるね。マルクス殿からもそういうことには疎い子どもと聞いていたから驚いてしまったよ」


  あれ……何かまずかったのかな。

  でも、怒っている様子ではないんだよな。


  なんだろう……これはまるでおれを見定めているような目だ。


  「そうだよ。君の言うとおりだ。王派閥の貴族たちは陛下が今日いないことを知り帰った。それに、昨日から陛下は荒れていたからね。パーティーも途中で抜けちゃうし……」


  どうやらおれの読みは当たっていたようだ。

  それに国王が不機嫌だった?


  「きっと、アルゲーノ王子よりセアラちゃんが目立っていたのが不快だったんだろうね……。この意味、君ならわかるよね?」


  アスラさんがおれの目を見つめて話す。

  おれは彼の言葉に首を縦に振って頷く。


  「ふっ……流石だね。もう少しマルクス殿は自分の息子をよく見てあげた方がいいな」


  アスラさんは一人で納得したように話す。


  「そうだ! マルクス殿とも話がしたいな。どこにいるんだい? まさか、アベルくんは一人で王城に来たというわけではあるまい」


  アスラさんは突然最初のようなフランクな口調に戻る。


  やばい!

  そうか、おれが父さんと一緒に王城に来たと思っているのか!?


  「要人たちの見送りで二日ほどかかると聞いていたが、思ったよりも早く済んだんだね……ってあれ?」


  おれは姿を消したアイシスに転移魔法で飛ばされたのだった。


  「消えた……? まさか幻だったのか? ははっ……これは早く帰って眠らないとだな」


  こうして、アスラはまとめ上げた書類を持って廊下を進んでいくのであった。




  ◇◇◇




  「ありがとう、アイシス。助かったよ!」


  危機一髪のところでアイシスが助けてくれた。

  あの人に質問攻めにあったらたいへんだ。

  きっと、すぐにボロが出て父さんにも迷惑をかけてしまう。


  「興味深い話が聞けましたね」


  どうやらアイシスは姿を消しておれたちの側にいたようだ。

  流石、抜け目がないな。


  興味深い話とはなんだろうか?

  王派閥の貴族たちが一人もいない理由がわかっただけの気もするが……。


  「一度、学校に戻ります」


  こうしておれたちは、少しばかりの成果しか上げられないまま学校へと戻った。




  ◇◇◇




  「ハリス様の気配がありません。それに、王城でも感じなかった……」


  学校に着くなり、アイシスはハリスさんの姿がないことを告げる。


  まぁ、ハリスさんはカルア大森林に住んでいる精霊だもんな。

  学校にいるはずがない。


  「実は今日、ハリス様は学校にいたのです。そして、セアラ様が消えたことも彼女に話しました」


  なるほどね。

  それでハリスさんが学校内を、アイシスが学校外を探すことになったってことかな?


  「ハリス様は心当たりがあると大森林へと戻って行きました。そして、何もなければ学校へ戻ってくると」


  どうやらハリスさんは学校内を探してくれていたわけではないらしい。

  カルアの大森林へと戻っていったそうだ。

  大森林にサラが拐われた心当たりがあるのか?


  「実はハリス様から聞いていたのですが、カルアの大森林の復興に関して王国側が強制的に介入してきたそうです」


  カルアの大森林の復興とは半年ほど前に魔界からヴァンパイアであるカインズがやって来て暴れた時のやつだな。

  おれが召喚したカシアスのせいでもあるが、被害は相当大きく現在でも復興活動は続いているらしい。


  だが、それに王国が介入してきていたのは知らなかったな。

  当初はハリスさんたち精霊側の『自分たちの森は自分たちで取り戻す』という意見が取り入れられたはずだったけど……。


  「元々あの大森林は王国の所有物らしいのです。そして、ハリス様たちはそこに住まわせてもらっているという立場。国王の意見には逆らえなかったらしいです」


  なるほどな……。

  そんか事情があったのか。

  だけど、それが今なんの関係があるんだ?


  「武闘会で不機嫌となった国王ダリオス、そして今日彼の姿を見たものはいない。大森林へと介入して何か企んでいる国王勢力、そして大森林から戻らないハリス様。これは怪しいですね……」


  そういうことか!

  国王ダリオスにはサラを誘拐する動機もあるし、犯行も可能な条件がいくつも揃っている!


  「おそらく、大森林へ行けば何かがわかります。急ぎましょう!」


  こうしておれたちはハリスさんがいる大森林へと向かうのであった。

  きっと、サラを助け出す手がかりがそこにはある!


  おれは強い意志を持ってアイシスの転移魔法の光に包まれるのであった。

補足です。

アイシスとハリスは念話で連携が取れません。


アイシスとリノが念話できるのは魔王ヴェルデバランの配下として念話の回路が形成されているからです。


その点、ハリスは魔王ヴェルデバランの配下ではないのでアイシスと念話で連携を取れないということです。


念話が使える条件(既に明らかになっているもの)

1.念話の対象である精霊体と融合(シンクロ)している状態

2.念話の対象である精霊体と契約している場合

3.同じ魔王の傘下にいる配下で、魔王回路を形成している者同士


ちなみに、この他にもアベルが地龍であるヴィエラと簡単な念話をしていたりとまだまだ謎はあります。

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