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122話 アリエル vs ネル (1)

  2年Cクラスとの試合に勝利したおれたちは三人で食堂へ向かい昼食を取り、ひと休みしてから再びアリーナへと戻ってきた。


  ネルとケビンはまるで芸能人かのような注目度で食堂では大変だったぜ。

  優勝したらおれも含めてさらに注目されると考えると、平穏な学校生活を送りたいと思うおれにはいい事ばかりじゃないのかもしれないな。


  そして午後になり、ようやく2回戦のおれたちの番がやってきたのだった。



  「さぁ、続いては第9試合! カルア王国の王子アルゲーノ選手率いる1年Aクラス vs 武闘会におけるダークホースの剣士軍団1年Fクラスだぁぁああ!!」



  ウォォォォオオオオ!!!!



  わぁお!

  1回戦以上の歓声だぜ。


  ——と言ってもほとんどAクラス目当てなんだろうけどな。


  ゲートから登場してきたAクラスの代表選手たちに声援がかけられる。


  「アルゲーノ様がんばってくださーい!」


  「アリエルちゃん頑張れーー!!」


  「Fクラスの剣士どもなんかやっつけろ!」


  うん、360度見回す限りAクラスの応援がメインだな。


  っていうか、Aクラスの特別応援席は楽器で登場曲を演奏してるよ!?

  完全に前世の高校野球だな!


  それに対してうちのクラスは……。

  うん、誰一人特別応援席に来てないね。


  カッコいい登場曲が会場に鳴り響く中、実況と解説が話しはじめる。


  「パーシャルさん、この試合どう見ますか? 先ほど1回戦を勝ち上がってきた1年Fクラスがこの勢いで勝ち上がるのか、それとも中等部時代のエリートたちであった1年Aクラスが勝ち上がるのか」


  「まぁ、今回は間違いなく1年Aクラスが勝つでしょうね」


  「ほうほう、いったいそれはどうしてなのでしょうか?」


  「あの青髪の女の子については知らないんですけど、アルゲーノ選手もアリエル選手も魔法剣士ですからね。しかも、中等部時代の主席と次席のコンビ」


  「Fクラスは先ほどの試合で魔法使いには試合開始早々に距離を詰める作戦が使えましたが今回はね……」


  解説の女が残念そうな口調でそう話す。


  「なるほどなるほど……。えーっと、ちなみに資料によるとあの青髪の少女、セアラ選手は外部入試で唯一Aクラスに入学することができたそうですね」


  「なっ、なんと! 外部入試では本校創設以来、初となる筆記実技ともに満点での主席合格だそうです!!」


  「うわぁー、完璧なエリートさんなわけですね。私は内部出身なので外部入試の難易度はよくわかりませんが800年の歴史でただ一人ってヤバいですね」


  どうやら今はサラのことを褒めてくれているようだ。

  弟のおれとしてもサラがすごいと言われるのは嬉しい。


  いや、だが今は敵なのだ!

  今だけでも心を鬼にしてサラへの感情は殺そう。


  「もうすぐ本番ね……」


  ネルが少しだけ不安そうな表情でそう語る。


  おれたちの予想ではAクラスの1番手はアリエルというハーフエルフの女の子だ。

  彼女は基本属性4つに加えて氷属性の5属性の魔法を操る魔法剣士。

  中等部時代は王子アルゲーノに次ぐ成績で次席で卒業。

  正直、楽な相手ではない。


  それに対して、こちらの1番手は先ほどと同じくネルだ。

  ここでネルに勝ってもらえないとAクラスとの戦いは詰むことになるだろう。

  それ故なのか彼女は少し不安そうな表情だった。


  「らしくないぞ! ネルは今まで頑張ってきたんだ。自信を持てよ!」


  ライトが暗い顔でいるネルを元気付けようとする。


  「ごめんね、ちょっと昔のことを思い出してたの。でも、もう大丈夫! 今の私なら彼女に勝てるわ!!」


  ネルは作ったような笑顔でそう告げると試合場へと向かっていった。


  頼むぞネル!


  おれは心の中でもネルの健闘を祈るのであった。



  「さぁ、それでは両クラスの1番手の選手を紹介します! まずは1年Fクラスのネル=ハイリース選手だ!」


  「1回戦では見事な剣さばきと繊細な魔法を駆使しての勝利を見せてくれました! 2回戦ではいったいどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!!」


  実況の男子生徒はまずネルの紹介を、そして次に対戦相手の紹介をする。


  「そして、そんなネル選手に対抗するのはこの人! カルア高等魔術学校における最強のハーフエルフとの呼び声も高いアリエル=カスティオ選手だぁぁああ!!」


  「彼女の特徴は何といっても5属性もの魔法を操れる上に、剣術まで卓越しているというところでしょう! その実力故に、中等部を次席で卒業しております」


  まだ精霊たちが防御魔法で結界を張って準備をしている間、ネルのもとにアリエルがやってきた。


  「よろしくね。まぁ、相手にならないと思うけど」


  ネルより身長の高いアリエルは彼女を見下ろし、手を差し出してそう告げる。

  これを聞いたネルの頬が少しだけ動いた。


  「そうね。確かにあなたに負ける未来なんて私には考えられない。せいぜい立っているうちにアピールができるよう頑張るのね」


  ネルはアリエルの挑発に対して、優しく毒を混ぜて言い返す。

  もちろん満遍(まんべん)の笑みでだ。


  それに対してアリエルは差し出していた手を引っ込めて言い放つ。


  「ふんっ、いつまでお高くとまっているつもりなのかしら? まぁ、いいわ……。これから教えてあげる。残念だけど、あなたはもう私のライバルなんかじゃないってことをね」


  アリエルは鋭い視線でネルにそう言うと試合開始の定位置へと帰っていった。


  「ライバルね……」


  ネルはアリエルが立ち去った後、静かに一人でつぶやく。


  「さぁ、それでは試合の準備も整ったようです。あとはハリス様の合図があれば二人の激闘がはじまることでしょう!」


  互いに見つめ合うネルとアリエル。


  「「よろしくお願いします!」」


  二人の挨拶が終わる。

  そして、ハリスさんがかけ声をかけた。



  「試合開始!!!!」



  いよいよ本当の武闘会が幕を開けた。

  ここからの一戦一戦は本当に大事だ。


  少しでも狂ってしまうとおれたちの優勝への計画が台無しになってしまうのだ。

  だからこそ、ネルにはアリエルに勝ってもらわないとな。


  試合開始直後、ネルは全速力でアリエルとの距離を詰める。

  これは先ほどの1回戦と同じ展開だ。

  だが、速度が圧倒的に違う!


  「いっけぇ、ネル!!」


  おれたちはトーナメント上、1戦余分に戦う必要があったため、既に他のクラスに研究されてしまう立場にあった。

  これはつまり、ネルやケビンへの対策がされてしまうということ。


  だからこそ、Aクラスにおれたちの1回戦を見られているのを考慮して、ネルにはスピードに関しては1回戦で全力を出してもらわなかった。

  これにより、今ものすごいスピードで迫ってくるネルにアリエルは驚いていることだろう。


  ネルの話ではアリエルは魔法剣士ではなく剣も扱える天才魔法使い。

  剣術に関してネルはアリエルに負けたことはないそうだ。

  だからこそ、1回戦と同様に距離を詰めて剣術で勝負を仕掛ける!

  これがおれたちの作戦だ。


  「バカの一つ覚えみたい……」


  アリエルは自分に急接近してくるネルを見てそうつぶやくと魔法を発動する。


  彼女からネルに向けて業火の炎、鋭利な岩、暴風の嵐が連続して放たれる。


  ネルは最初の炎は飛んで(かわ)せたが、高速で迫り来る土刃(アースダガー)に関して、地面を蹴って空中にいるため(かわ)せないと判断する。

  よって、彼女は自身の剣で土刃(アースダガー)を切り裂いた。

  だが、連続して放たれる魔法の数々に全て対処することができず、ネルは暴風の嵐に呑み込まれてしまった。


  ネルは会場の端、精霊たちが発動している防御魔法の結界まで飛ばされて身体を打ちつけられた。

  そして、地面に倒れ込んでしまう。


  「おぉぉぉっと!! 開幕早々、アリエル選手に接近しようとしたネル選手でしたが、アリエル選手の怒涛(どとう)の魔法連打が襲いかかる! そして、なんとネル選手が倒れ込んでしまったぁぁああ!!」


  なんだよ今の魔法は!?


  アリエルがあんなにすごい魔法使いだなんてネルから聞いてないぞ?

  ありゃ、Aランク冒険者と同等の魔法使いじゃないか!


  強く身体を打ちつけたネルだったがゆっくりと立ち上がりアリエルを見つめる。

  ネルはもちろんまだ試合を諦めてなどいない。


  「ネル……もしかして、私があの頃から変わってないとでも思ったの?」


  アリエルはゆっくりと起き上がるネルに向けて語りかける。


  「ふざけないでちょうだい! 私はあなたとは違うの……。私はいつだって諦めなかった。どんなに辛いことがあろうとも、どんなに苦しいことがあろうとも全てを乗り越えてきた。途中で逃げ出したあなたとは違うのよ!!」


  「そして今、この武闘会という場であなたを徹底的に(つぶ)す! AクラスとかFクラスとかそんな曖昧(あいまい)な指標じゃダメなの……。かつて、一度も直接勝つことができなかったあなたに1対1で勝たないと私は前に進めないの!」


  アリエルが魂の叫びをあげる。

  彼女の気持ちのこもった声はネルへと確かに届いた。


  「へぇ、あなた……随分(ずいぶん)と変わったのね」


  ネルはふらつく足で立ち上がりながら、アリエルの言葉を受けとめていた。

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