103話 庶民食堂王子乱入
おれは午前の授業が終わった後、ネルと一緒に食堂へと向かった。
ちなみに昨日と同じく庶民の多くが通う安い値段で食べられる食堂だ。
そして、食堂に向かう途中でサラを見つけ合流する。
「セアラちゃん、やっほー!」
ネルがサラに手を振って声をかける。
「二人ともまだ着いてなかったのね」
どうやらサラも授業終わりだったようだ。
そこで三人で食堂へ向かうことにする。
「そういえば、さっきの実技の時間にアベルは何の補習をさせられていたの?」
ネルがおれに話を振る。
いや、それには触れないでくれよ!
おれは心の中で思った。
「何それ? 詳しく聞きたいわね」
サラも興味を持ってしまったようだ。
はぁ、おれにもよくわかっていないが話すとするか。
「一応言っておくとあれは補習じゃないんだ。他の生徒たちの魔法を見て感想を書けって言われたんだよね。ちなみに、ドーベル先生からの指令らしい」
おれはカエラ先生から聞いたことを素直に話す。
「そうだったの! アベルが一限目に前の席で爆睡してからその罰かと思った」
ネルは笑いながらそう言う。
「へぇ、アベル寝てたのね……」
サラが何か言いたそうな目つきでおれを見てくる。
いや、しょうがなかったんだよ!
でも、朝からサラやアイシスと訓練しているから眠かったんですなんてサラには言えないしな……。
「でも、流石ドーベル先生って感じ。変わり者なだけあるよ」
ネルは何か思うところがあるように話す。
「まぁ、生徒たちへのフィードバックが目的なら、魔法を見て感想を書かせるっていうのはアベルが適任だと思うわ。そこら辺の先生よりもアベルにアドバイスさせた方が断然いいもの」
サラは真面目な口調でおれのことを褒めてくれる。
へぇ、サラって案外おれのことを評価してくれていたんだな。
「あらあらセアラちゃん。それは身内びいきですか?」
ネルがニヤニヤとしながらサラに問いかける。
もしかしたら、いつものようにサラが全力で否定するのを見たかったのかもしれない。
だがサラの回答は違った。
「そんなことないわ。私が知る中でアベルほど感覚で魔法を理解できている者は人間界にはいない。まぁ、それと同じくらいに魔法の理論も勉強して欲しいんだけどね」
最後の最後でご指摘はいただいた。
だが、確かにおれは感覚で魔法を扱うことに関しては非凡な才能があると思う。
おれはかつてティルと融合して魔法を覚えはじめたときから感覚に任せていたからな。
「へぇ、アベルってそんなにすごいんだ。ただの精霊術師だと思ってたよ」
ネルは笑いながらおれの背中を叩く。
痛い痛い!
「今度アベルに見せてもらうといいわ。魔力操作と魔力制御に関しては右に出る者はいないと思うわよ」
サラはまるで自分のことのように嬉しそうに自慢をする。
おれとしてもサラにそう言ってもらえると嬉しいな。
あれ?
そういえば、おれが精霊術師だってネルに話したことあったかな。
もしかして、おれが知らない間にサラから聞いたとかか?
そんなことを思いながらおれたちは食堂へとたどり着いた。
◇◇◇
おれたちは無事に注文を済ませ、食事を持って席に着く。
美人のアイシスが注文受け付けをやっているせいで長蛇の列だったが何とか注文にありつけた。
ちなみに今日はアイシスにおすすめを聞くことにより、おれの好きな肉料理を注文することができた。
「ねぇ、そういえばネルはどうしてここの魔術学校に通おうと思ったの?」
サラが食事をしながらネルに話しかける。
「それって、獣人である私は剣術学校に通うべきだってこと……?」
ネルは静かにサラに聞き返す。
いつもとは違ってちょっと暗い雰囲気だ。
「違う! ごめんっ! そんなつもりで言ったわけじゃなかったの。ネルは遠くから通ってるって言ってたから」
サラは慌てて言葉を訂正しようとする。
剣術学校というのは魔法の才能がなくても『剣士』のスキルを持っている者たちが通える学校のことだ。
もしかして獣人は剣術学校に通うのが普通なのかもしれない。
だとしたら、『なんでお前はここにいるんだ』という意味に捉えられてしまうのかもしれない。
今度からおれも気をつけよう。
だが、ネルは急に明るくなる。
「嘘よ! 冗談で言ったつもりだけど本気にしちゃったみたいね。こちらこそごめんね」
ネルはサラに謝る。
「よかった。でも、私もいい方が悪かったわ」
「ううん、そんなことないよ。私がここに来たのは夢があるからなんだ。それでこの学校で勉強するつもりなの」
ネルには夢があるのか。
いったいどんな夢なのだろうか。
これは聞いてもいいのかな?
だが、おれは獣人のことを全く知らない。
地雷を踏むのも嫌だな……。
すると、おれたちの会話に割って入ってくる者がいた。
「本当にこんな廃れた場所にいたんだね、セアラ!」
現在、テーブルに座っているおれたちはおれの横にネル、そしておれの前にサラがいる。
そんな中で青い髪のナルシストみたいな男がサラに後ろから話しかける。
うわぁ、なんだこいつ?
おれは正直に気持ち悪いと思ってしまった。
セアラと呼んでいたしサラの知り合いなのだろうか?
サラの方を見るとかなり嫌そうな顔をしていた。
「いったいなんなのよ……。どうしてあなたがここにいるわけ?」
サラはナル男に質問する。
おれにはわかる。
サラはたいへんイライラしていると。
「昨日サラがここの庶民食堂にいると聞いたからね! 僕に頼めば一緒に王族御用達のレストランに連れて行ってあげるのにさ」
ナル男は聞いていてイライラする口調でそう話す。
いったいこいつはサラのなんなんだ?
すると、ナル男はおれに気づくとおれに突っかかってきた。
「おい……!」
「そこのお前だ。お前だよ!」
おれはナル男に睨まれ絡まれる。
嫌だけど一応挨拶くらいしておくか。
こいつはケビンと違って強そうじゃないし殴られそうになったら殴り返せばいいか。
「どうも、Fクラスのアベルです」
おれは短く自己紹介をする。
これくらいで十分だろう。
すると、ナル男の表情が変わる。
「アベルだと……。そうか、お前がそうだったのか。それにFクラスだと……?」
どうやらナル男はおれのことを知っていたようだ。
なんでこんなやつに知られているんだよ……。
美少女に知ってもらえているのならまだしも。
「お前はセアラのことをどう思っているんだ?」
突然ナル男が意味のわからないことを聞いてくる。
急にどうした?
お前の思考回路と状況判断能力はどうなっているだ?
理解はできないが一応答えておくか。
「おれが命をかけられる何よりも大切な存在だ」
自分で言っていて恥ずかしいが実際そうなのだから仕方ない。
サラの前で嘘をつくのも失礼だしな。
「ひゅーひゅー! 熱いねー!!」
ネルが横からチャチャを入れてくる。
うん、ちょっとだけ……いやかなり恥ずかしい。
「くっ……。ふんっ、言ってろ! お前はいつか現実を知ることになるんだからな」
ナル男はおれにそう告げるとサラに視線を戻す。
「セアラ、こんなゴミどもとつるむのに嫌気がさしたら僕のもとへおいで。いつでも君を待っているからね」
「はいはい……」
ナル男の言葉をあしらうサラ。
もしかして、このナル男はサラを口説こうとしているのか?
それは許せない!!
おれはやっとナル男の行動の意味に気づいた。
「ふっ、じゃあなFクラスのゴミども」
だが、ナル男はそう告げるとこの場を去っていった。
おれはたまらずサラに質問する。
「サラ! なんなんだよあいつ!?」
すると、おれの質問にサラではなくおれの隣に座るネルが答える。
「あいつはアルゲーノ。カルア王国の王子で次期国王候補よ。ちなみにあんなんでも中等部の主席でありAクラスのトップよ」
ネルが説明してくれる。
あのナル男が王子!?
あんなのが次期国王候補とかカルア王国は大丈夫なのか?
それに中等部の主席ってことはすごい魔法使いなのだろうか?
「えぇ、あの王子ほんっとうにしつこくて嫌なのよね。でも安心して。私まったく興味がないから! てか、ウザいと思ってるから!!」
サラは本心からそう言っているようでそれが伝わってくる。
おれとしてはひと安心した。
「でも、王子にあんな態度でいいのか?」
あんな自己中っぽいナル男でも一応は王子なのだ。
サラの態度はこの国王が強い権力を持っているこの王国で問題になったりしないのだろうか?
おれの疑問に対してネルが答える。
「それは大丈夫よ。一応この学校は生徒の身分は関係なく平等を謳っているからね。表立っては何もできないはず。まぁ、あの王子なら何かやりかねないけどね……」
つまり、先生や他の生徒が見ていない状況や学校外では権力を使えるということか?
サラが危ないかもしれない!
「安心してよね。一応おじ様とおば様には相談してあるし、一人になることはしないもの。それに、帰るときはアベルがいるじゃない!」
そっか、一応父さんたちにも相談はしていたんだな。
それにおれがサラを守ればいいのだ。
念のためアイシスにもサラに危険がないか見守ってくれるように頼んでおくか。
◇◇◇
こうしておれたちは食事を終え、午後の授業へとそれぞれ向かった。
午後の座学は何とか起きてノートは取ってみたが理解はできずに終わった。
そして、実技はドーベル先生の授業ではないこともあり引き続きレポートをやらされた。
おれもみんなに混じって魔法を使いたい!
そんなこんなでおれの学校生活授業初日は終わったのだった。




