表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

 初デートの内容は今でもハッキリと覚えてはいない。ただ他の女性と目を合わせないように下を見続け、覚束ない足取りで彼女の後ろをついていくだけであった。


 それからのデートは個室やお互いの家で行われる事が殆どで、二人きりになると一方的に俺の欲を満たそうとする彼女がただ鬱陶しかった。逃げる事も何度か考えたが、その度に肩と背中の烙印が疼き、躊躇ってしまった……。



「ねえ……出来ちゃった♡」


 俺が23の時だ。


 エコー写真を見せられ、お腹を摩る彼女。


 俺は人生の墓場へと足を踏み入れてしまった……いや、既にはまっていたか……。

 精一杯の避妊も虚しく俺を苦しめるとは……。


 今の俺の仕事は市の公務員。これも彼女の圧だ。通勤は徒歩1分で定時帰宅。つまり寄り道すら出来ない。挙げ句の果てに一市民としてたまに利用しに来る名目で俺を監視している。帰れば彼女と……これからは子どもも居るとなると、俺の人生は全て奪われるだろう。


「いつかね、こんな日が来ると思ってね……」


 彼女が取り出した封筒の中には、ドラマで見たことのある『婚姻届』と手書きのA4紙が一枚。


『浮気 10点

 無断欠勤 7点

 他の女と話す 5点

 他の女を見る(画像やテレビ含む)3点

 帰りが遅い 3点』


「今までの点数はリセットで、これからはコッチを採用するね。10点で殺すから頑張れ♪」


 俺は天地が渦巻き脳が溶ける程の目眩に襲われた!


 子どもを人質に取られ、俺はこれから死ぬまでコイツの言いなりにならないといけないのか!?


 何よりこんなアッサリと『殺す』とか平気で言うコイツの神経が理解出来ない!


 ……しかし、こんな時でも反抗できない自分が情け無い……。


 俺は泣きながら婚姻届を書いた。



「そんなに嬉しかった? ふふ、楽しみだねぇ~」




 それからの俺は死んだように毎日を過ごした。だからだろう……自分の人生に嫌気が挿していたと言えばそうなんだろう。


 仕事帰りの歩道で、目の前の女性が突如意識を失い倒れてしまった。



 ……

 …………

 ………………


 点数なんか知るもんか! 俺は俺のやりたいことをするまでだ!




 俺は慌てて声を掛け、脈を取った。大丈夫。脈はある。

 呼吸は……良かった。ちゃんとあるぞ。


 俺は同じく駆け寄ってきた人に救急車を呼んでもらい(俺は携帯を持たされていない)倒れた女性に声を掛け続けた。暫くすると女性は意識を取り戻し、御礼を述べて救急車で運ばれていった。


 無事女性を救った満足感と達成感は、俺の荒んだ心を限りなく満たしてくれた。しかし、俺は腕時計が7時になりそうなのを見て、慌てて家へと走った。


 少し考えれば分かりそうだが、徒歩1分なら歩いて確認にもこれる範囲だ。彼女は既に知っていると考えるのが妥当だろう。しかし、俺にそこまでの知恵は回らなかった。回った所で如何するわけにもいかないのだけれど……。



「た、ただいま……」


 玄関を開けると、そこには鋭利な包丁を手にした彼女が居た……。


「ま、待ってくれ!!」

「…………」


「俺が何をしたと言うんだ!?」

「……他の女と話したじゃないの」


「倒れた人を助けただけじゃないか!?」

「あれは浮気よ! 約束通り死んで!!」


 キラリと光る包丁が、俺の首に深く食い込んでくる。それは熱く、鋭い痛みと共に俺の首を抜けていった…………




 俺は知るよしも無い……

 彼女のお腹には子どもなんか居ない事を……


 俺は知るよしも無い……

 彼女が何故俺と一緒に居るのかを……



「私はね、誰かを愛している私が好きなのよ……」



 そこに愛は無かった


読んで頂きましてありがとうございました!


愛の無いヤンデレは唯のホラーですね……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] これ彼が何も違反しなかったらどうなってたのだろうか? [一言] 怖かったです。 二重人格かと錯覚しました。 失礼な感想だと思われそうですけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ