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前編

「ま、待ってくれ!!」

「…………」


「俺が何をしたと言うんだ!?」

「他の女と話したじゃないの」


「倒れた人を助けただけじゃないか!?」

「あれは浮気よ! 約束通り死んで!!」


  ―――ザン!


 骨が斬れる音と共に、男の身体から急激に血の気が引く感覚が全身に染み渡る。男は自らの死を悟った―――





 ―――それは今から七年前の事だった。


「貴方が好きなの。……付き合って……欲しいな?」


 校舎より少し離れた体育館の裏にある茂みの中で、男は人生で初めての告白を受けていた。放課後の夕暮れが二人を赤く照らしている。


「…………!!」


 まず驚いたのは、男が茂みの中に居たのは彼女に呼び出された訳では無いからである。茂みの中でお宝本を拝見していた時に急に現れた同級生に男は心臓が飛び出て飛び散る程に驚いた。告白はその次に驚いた事であろう……。


「……あ、のぉ……お返事を……欲しい、かな」


「え、あ、はい? 宜しくお願い致す」


 良く分からないがとりあえず女子と付き合えるならと、適度に返事をした男。それが後悔の谷底へと彼を突き落とす事となった!


「やった! それじゃあ……コレ!」


 女が取り出したのは一枚のA4紙だった。そこには手書きで箇条書きがされていた……


 浮気をする   20点

 記念日を忘れる  8点

 デートに遅れる  6点

 他の女と話す   4点

 他の女を見る   1点


 それはまるで違反点数の様であり、まるで男の人格や生活を束縛するかの内容であった。


「……え? 何これ?」


 男はその紙を呆然と眺め、口を半開きで呆けていた。


「見ての通りだよ? 5点で軽い罰を、10点で重い罰を与えるから。……20点で殺すから頑張ってね♡」


 彼女は軽い口調で言い渡した内容は、とてもまともに聞けた物では無く、男は紙を放り投げその場から立ち去った。


「アホくせ……面倒だからやっぱ無しだわ!」


 と、背を向けたまま男は言い体育館の裏を出ようとすると、女教師とぶつかってしまい、慌てて謝った。


「あ、スミマセン!」

「おっと、こちらこそすまない。まさか誰か居るとは思ってなかったからね」


 女教師が去り、男が校舎へ戻ろうとすると……前方には茂みに居る筈の彼女が居た。表情は暗く、泣きそうな目の中に深い闇を映し出していた。


「……もう5点だよ……さっそくお仕置きだね」


 彼女は足早に男に駆け寄ると、ポケットから取り出した小道具で男を鮮やかに気絶させた。放課後の校舎で二人を見る者は無く、男が気が付いた時には辺りは闇に包まれていた。



「!?」


 男は手足を台に縛られており、服は着ておらず下着一枚のみであった!


「……それじゃあ、軽い罰を始めるね?」


 男の顔を覗き込む彼女の手には、明るく熱を放つ焼きごてが握られていた……。


「や! 止めろ!!」


 男が力一杯抗うも、手足はしっかりと台に固定されており身動き一つ取ることが出来ないでいた!

 男は自分が何をされるのかを彼女が手に持つ焼き印から瞬時に察し、大声を上げて精一杯の抵抗を見せた。


「……持ち物には名前を……ね」


 ……ジュゥウウウウ!!


「ギャアアアアアアアアア!!!!」


 耳を劈く男の魂の悲鳴が辺りに響き渡る!


 男の肩の皮膚は色が変わり『かすみ』と消えることの無い彼女の名前が刻み込まれた。



「私の名前、呼んでみて?」


「アアアアアアアア!!!!」


 男は痛みでそれどころでは無い……頭を左右に頻りに振り、意識が飛びそうな激痛に耐えかねていた。


「一つじゃ足りないかしら……?」


 彼女は焼きごてを台の横で燃えさかる火の中へと入れた。


()()()。それが私の名前。貴方の人生の伴侶となる大事な名前よ……絶対に忘れないでね?」


「ヒグッ! ウグゥ……イデェェェ……」


 男は己の肩に印された暴印と痛みに涙を流す。


「さ、私の名前を呼んでみて?」


 男は訳が分からぬこの状況でも、痛みを避けることが正解だと本能が素早く察知した。


「が、がずみぃ……」


 痛みと涙でまともに言葉にならないが、彼女はそれでも満足だったのだろう。顔は綻び両手を頬に当て、少女らしい微笑みを浮かべている。


「だ、だずげでぐでぇ……」


 男は続けて懇願の意を表し、助けを求め顔をしわくちゃにした。


「私達、付き合ってるんだよね?」


「ばい! ぞうでず!」


 男は彼女の従順な奴隷と化していた。満足した彼女は男の手を解放すると男は起き上がり肩を押さえ蹲る。その背中を指をくわえ見つめる彼女の手には、火から取り出した焼きごてが握られていた。


 ――ジュッ!


「グワアアアア!!」


 背中に捺された焼きごての熱に激しく暴れる男。その悲鳴は彼女の心に潤いと快感を与えた。


「ゆ、ゆるじで……ぐだじゃい……!」


 彼女は軟膏を男の肩と背中に塗ると、優しく声を掛けた。


「明日、7時に家に行くね。デートしましょ♪」


 男の足を自由にしてやると、彼女は焼きごてを持ったまま静かにその場を去る……。男は痛みで暫く動けなかった―――



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