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ワールド・ゼノ  作者: けーいち
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人間が終わる日

 木曜日5限の歴史の授業、この状況で寝ないでいられる人間がいるだろうか?いいや、いない

外はいい天気だったもんで、俺は授業中なんておかまいなしに眠ってしまっていた。


「…人!神保(じんぼう) 圭人(けいと)くん!起きなさい!」


うるさい声が耳元で鳴り響く。

目を覚ますとそこには歴史教師の顔があった。寝起きから最悪だ。


「居眠りこいてるんじゃあないぞ!来年には大学受験が控えているという自覚を持ちなさいまったく!」


「ふぁ~い…」


眠い目をこすって教科書を開く

仕方ない、まじめに授業を受けることにするか…


「はい、じゃあ次は『ゼノ・ヒューマン』についての話だぞ~」


歴史教師はいつも以上に元気な様子で話し出す。多分ここが一番好きなところなんだろう


「『ゼノ・ヒューマン』とは、今から約500年前に突然現れた生物だ。姿かたちは我々人間と全く一緒、まったく見分けがつかない。だが実際は全くと言っていいほど別の生物だ。」


「先生~!ゼノってどういう意味?」


一人の生徒が質問する


「ん?まぁ直訳すると『異種』だとか『外部』、あとは『異物』なんて意味もあるな」


生徒の質問に答え、教師はそのまま続ける


「ではゼノ・ヒューマンとはどんな生き物か?そして何が人間とは違うのかについてだ。まず、ゼノ・ヒューマンの驚くべきはその身体能力。パンチをすればそこら辺の壁なんて破壊してしまうようなパワーや、金属バットで殴ってもへっちゃらな体、ジャンプさせれば家の高さなんて軽々超えてしまう。まぁあげるときりはないが、とにかく通常の人間の何百倍もの身体能力、まさしく人間離れってやつだ。」


ゼノ・ヒューマンの身体能力の高さは知っていたけど、そんなにすごかったのか…

思わず感心してしまう


「そしてここからがゼノ・ヒューマンの本領だ。やつらは一人一人が特殊な能力を持つ。これはわかりやすく言えば、体から火を出すだとか、空を飛ぶだとか、まぁとにかく我々普通の人間には絶対にできんことだ。」


教師が言うと、教室からは「すげ~!」だとか「いいな~」という声が上がる


「みんなの世代、まぁ俺もだが、生まれた時からゼノ・ヒューマンがいた我々からすればそんな感覚だろうが、当時の人間はたいそう驚き、様々な反応を示したそうだ」


まぁそうだろうなと何となく想像する


「初めて確認されたゼノ・ヒューマンの名は『プライム』。だが彼は、現代でも解明されていない謎がかなり多い。まずゼノ・ヒューマンの持つ能力というのは大抵1人1個だ。確認されているのでも2、3個持っているというゼノ・ヒューマンもいるが、かなり珍しい。だがプライムは1人で何百個もの能力を持っていたという。」


さっきまでの眠気が吹き飛び、俺は歴史教師の話に聞き入ってしまう。


「人間離れした身体能力に、何百個もの魔法のような能力。そしてこれは現代のゼノ・ヒューマンもそうだが、それでいながら人間と姿かたちは変わらず、知能や生活感、食べるものだって普通の人間と全く変わらん。パッと見じゃ人間かどうか、とても分からん位に同じで、何もかもが違うのだ」


歴史教師は続ける


「最初はこの初代ゼノ・ヒューマンのプライムは進化した人類だという説が有力だった。だが何百もの能力が判明したのちはそれも否定された。これが、ゼノ・ヒューマンが『ゼノ』と言われる由来…人類の進化というには、あまりにも人間とかけ離れているからな。もはやなんだか分からないこの生き物を『ゼノ』…外部から来た存在だと思うしかなかったのだ。中にはプライムを神と呼んで崇めるものもいた。その一方でプライムは世界にとって危険分子だと、プライムを殺すべきという過激なことをいうものもいた。」


いよいよ話は最後の大詰めに入る


「それから数年後、プライム以外にもゼノ・ヒューマンが現れた。そしてそれからは時がたつごとにゼノ・ヒューマンは爆発的に増えていった。そして、そのたびに人間からも畏怖の声も大きくなっていき、人間とゼノ・ヒューマンの関係は悪化していく。簡単に言うと対立だ」


すると1人の生徒が少し震えた声で質問する


「え?じゃあ今は…?」


歴史教師が答える


「安心しろ、今は別にそんな対立は起きちゃいない。確かに住む場所や働く場所が、人間専用、人間とゼノ・ヒューマンが共存して住む場所、そして一部の例外だがゼノ・ヒューマンだけが住む場所などはあるが…当時のような対立からじゃない。人間しか住まないこの地域で育ってきて、ゼノ・ヒューマンすら見たことないのがほとんどなここらへんじゃ、今の話は少し怖かったかもしれんがな」


歴史教師はうっすらと笑う


「話を戻すぞ。そんな人間とゼノ・ヒューマンの対立が激化し、いよいよとなった300年前、ついにとんでもないことが起きる」


教室に緊迫した空気が張り詰める


「それは…」


教師が言いかけたとたん

『キーンコーンカーンコーン』

授業終了のチャイムが大きく鳴り響く。狙ったようなタイミングに思わずびっくりだ


「おっと、時間か。それじゃ今日はここまで」


教師が言うと、教室からは「えぇ~!?」という声が出てくる


「しょうがないだろう、ここからも結構長いんだぞ?来週しっかりやってやるから安心しろ。じゃあ号令!」


教師は楽しそうに笑いながら話す。俺も実は結構聞き入ってしまっていただけになんだか悔しい

ゼノ・ヒューマンについてほとんど何も知らなかった俺が、初めてゼノ・ヒューマンについてたくさんのことを知った日。だがこの時俺は知らなかった。来週の授業は、もう聞けないことを。終わりはすぐそこまでやってきていることを。そしてそれは本当に突然やってきた


「起立!」


日直が言うとほぼ同時にベランダ側の教室の壁が爆発した、ように感じた。


「!?」


教室からは悲鳴が上がったのち、ざわつきと軽いパニック状態に包まれる

これは…?一瞬爆発したように感じた壁の破壊のされ方、だがそれは誰かが思いっきりパンチした、いや厳密には謎の化け物がパンチして破壊したものだと分かった。なぜなら、壁が破壊されて舞った砂煙が晴れた先にいたのは、体の形こそ人間だが、筋肉がぱんぱんに膨れ上がり、身長173cm、体重も平均くらいな俺の二回り以上は大きい異形が、今まさに壁をパンチで破壊しましたってポーズで立っていたからだ

歴史教師が震えた声で呟く


「ゼ、ゼノ・ヒューマン…」


俺は腰を抜かしたまま言う


「こ、これがゼノ・ヒューマン…?」


俺がそう言うとその異形はこちらをじろりと見る。目が合ってしまった


「てめえか?…この音出してるのは…」


俺の人生が終わり、そして始まった瞬間だった

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